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実在の人物のセクシュアリティー創作はどこまで許される?19世紀の英古生物学者メアリー・アニングを描いた話題作「アンモナイトの目覚め」

2021.04.11

■連載/Londonトレンド通信

 実在の人物を描いた映画では、事実かどうかは、気になるところだ。もちろん脚色されているだろうが、どの程度までほんとうか。

 数々の発見にもかかわらず、不遇だった19世紀の英古生物学者メアリー・アニングを描く『アンモナイトの目覚め』で、オスカー女優ケイト・ウィンスレットが演じるとなっては、なおさら気になる。

 映画は、メアリーとシアーシャ・ローナン演じるシャーロット・マーチソンとの恋愛関係を軸にしている。まず騒がれたのはそこだった。撮影に入ったばかりの頃だから、まだ誰も完成した映画を観ていない段階で、メアリーの遠縁にあたるバーバラ・アニングがテレグラフ紙に語った「彼女をゲイ・ウーマン(=レズビアン)として描くことの根拠となる証拠があるとは信じられません…メアリー・アニングは貧しく、教育を受けられず、女性だったから虐げられた。それで十分ではないのですか?」は、BBCからゲイタイムスまで取り上げた。はたしてメアリーはレズビアンだったのか。

 答えは謎、そうだったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。2人の関係は、脚本も書いたフランシス・リー監督の創作だ。シャーロットは実際の友人だが、バーバラが言う通り恋愛関係にあった証拠はない。同様に、独身を通したメアリーがヘテロセクシュアルだった証拠もない。メアリーが誰かと関係した記録は残っていないのだ。そこを含み置き、リー監督のメアリー像として観るのがいいかもしれない。

 メイン2女優は文句なく上手い。当時の女性が置かれた位置を表しつつ、表面は穏やかながら、一瞬でスパークする熱情をみせる。今や大女優のウィンスレットは言うまでもなく、相手役を務めたローナンもこのところ賞レースの常連になっている成長著しい演技派だ。

 老母と2人慎ましく暮らすメアリーと、上流階級の若奥様シャーロット、2人は全く異なった世界の住人だった。

 イギリス南西部の町ライム・レジスで育ったメアリーは貧しく、満足な教育が受けられなかった。だが、家から近い海岸が化石の宝庫で、発掘を続けながら、独学する。12歳で見つけた初のイクチオサウルス全身化石はじめ、数々の重要な発見をするが、正規の教育を受けていないことから論文が認められることはなく、女子禁制だった当時の古生物学会にも入ることはできなかった。

 化石発掘は、家具職人の父が掘り出した化石を観光客に売るためにしていたもので、父亡き後は自分が引き継ぎ、母と暮らしていた。

 そこに、夫に伴われてやってきたのがシャーロットだった。鬱気味だった妻を静養させようとした夫は、海辺の家で土産物や化石など売って生計を立てているメアリーに、謝礼金とともに妻を託す。

 岩場を辛抱強く掘り出していく職業柄もあるのか、一徹で無骨とも思えるメアリーと、夫がいなくなった後に生き生きしてくるシャーロット、接点のなさそうな2人だが、やがてシャーロットはメアリーを手伝い始める。

 メアリーのセクシュアリティーについては神のみぞ知るだが、シャーロットとの関係を通すことで、ワーキングクラス、十分な教育を受けていない、女性である、言わば三重苦だった学者としての人物像が、より実感される。

 そうできた理由は、ウィンスレットがリー監督を評した言葉にヒントがありそうだ。10月のロンドン映画祭クロージング上映でのオンラインQ&A中の言葉だ。

 「フランシス(・リー監督)はある種ほとんどメアリー・アニングです。本物のワーキングクラス出身で、生き残り、成功しようというワーキングクラスの倫理を持っている。それがメアリーのエネルギーを作り出す時に助けになりました。フランシスから発せられるリズムのようなものです。ほんとうに助けられました」。リー監督率いる制作チームについても、小予算のインディペンデント映画で少人数だが、素晴らしいチームだったと加えた。

『アンモナイトの目覚め』はギャガ配給により4月9日(金)TOHOシネマズ シャンテ他、全国順次ロードショー

© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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