1960~70年代にフランスで暗躍した高級娼館経営者、マダム・クロード。
2015年に92歳でこの世を去るまでの人生を綴った伝記映画には、たったひとり懸命に戦ってきた女性の生き様が記録されている。
2021年4月2日より独占配信中のNetflix映画『夜の伝説 マダム・クロード』だ。
『詩人、愛の告白』『セックスドール』のシルヴィ・ヴェレイド監督。
あらすじ
高級娼館経営者のマダム・クロード(カロル・ロシェ)。本名フェルナンド・グリュデは、17歳の時にある男性と恋に落ち妊娠、未婚の母となった。誕生した娘は実母に預けて単身パリへ行き、コールガールを経て経営者として成功。
クロードの顧客リストには政財界の大物やハリウッドスターの名前が並び、娼館経営を開始してからたった10年で政治・警察にまで絶大な影響力を持つようになった。
ある日クロードのもとに、上級階級出身の若い女性シドニー(ギャランス・マリリエ)が面接にやってくる。恵まれた家柄と教養を持ちながら娼婦を希望するシドニーを訝しがるクロードだったが、“同じ匂い”を感じて採用。
実娘と疎遠になっていたクロードは、自分に似たシドニーに目をかけるようになる。
各界に人脈を広く持ち、裏と表の社会で権力を掌握することに成功したクロード。しかしその地位を築き上げるまでは、危険な綱渡りの連続だった。いざという時に守ってくれる権力者は確保しているものの、ほんの少しでも勢力図に異変が生じればそれが命取りになる。
暴力、脅迫、陰謀、裏切り。“殺るか、殺られるか”の駆け引きを強いられる日々にクロードは疲弊し、孤独感を募らせていった。
見どころ
どうせ欲望の捌け口としてモノのようにしか扱われないのなら、欲望を逆手にとって支配者になってやろう。
クロードが成功を収めた背景には、男性に対する諦めと覚悟があったのだろう。
顧客側が、クロードや娼婦たちのことを“汚い部分を黙って受け止めてくれる都合のいい存在”だと高を括っていたことも、クロードが陰の権力者として登り詰めていった一因だったのかもしれない。
権力者たちの秘密を握ることで支配を強めていったクロードだったが、自分自身についてはたとえベッドの中でも多くを語らない。
「弱みを見せたくない」という理由だけでなく、たとえ話したところで男性たちは耳を傾けようともしなかったというのも大きいと思う。
女性の話など聞くに値しないという態度で、自分の武勇伝と他者批判ばかりを話す男性は、どこでも沢山いる。
野心的でキレ者、誰に対してもめったに心を開かないクロードだが、例外は“右腕”シドニーだった。
シドニーに対して貧しい少女時代の思い出を打ち明けるとき、クロードがふと柔らかい表情を見せるシーンがある。ベッドの上で裸になっていても心に鎧をまとい続けていたクロードにとって、非常に稀なことだとわかる。
底無しの寂しさを抱えながらクロードが走り続けたのは、いったい何のためなのか。男社会への復讐のためなのか、それとも……。
退廃的で不穏なムードに包まれた物語の中、時折キラリと光る不器用で純粋な心に、思いがけず目頭が熱くなった。
Netflix映画『夜の伝説 マダム・クロード』
独占配信中
文/吉野潤子