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日常生活だけでなくビジネスシーンでも「退っ引きならない(のっぴきならない)」という言葉を耳にすることがある。しかし、実際「どのようなシチュエーションで使うのかわからない」人も意外と多いのではないだろうか。
そこで本記事では、「退っ引きならない」という言葉の語源と、ビジネスシーンで使用する際の注意点を解説したい。間違ったシーンで使わないよう、正しい意味をしっかり理解しておこう。
退っ引きならない(のっぴきならない)の意味と語源
「退っ引きならない」は「のっぴきならない」とひらがなで表記されることが多い。ちなみに勘違いされやすいが、これは方言ではなく標準語だ。まずは、「退っ引きならない」の意味や似たような表現を確認しておこう。
意味は「どうにもならない状況」
退っ引きならないは、「避けたり退けたりできない」「どうにもならない」状況を表す言葉。漢字で表記した際のイメージ通り、退くことも引き下がることもできず、身動きが取れない差し迫った状態のことを言う。
語源は「退き引きならない」
もともとは、「退く」「引く」の二つの動詞から成る「退き引き(のきひき)」に打消しの「ならない」を加えた「退き引きならない」に由来する言葉。「退き引き」が発音しやすいように「のっぴき」に変化し、「退っ引きならない(のっぴきならない)」となったようだ。
「退っ引きならない」の類語
日本語には、「退っ引きならない」と同じような意味を持つ言葉がいくつかある。それぞれの微妙なニュアンスの違いをおさえて、状況に応じて使い分けよう。
「抜き差しならない(ぬきさしならない)」
刀を鞘(さや)から抜くことも、抜いた刀を鞘に差すこともできない緊張状態を表した慣用句。その状況の通り、身動きができず緊迫している様子を表す。
「二進(にっち)も三進(さっち)もいかない」
「にっち」「さっち」はそろばん用語の「二進(にしん)」「三進(さんしん)」が由来。2でも3でも割り切れない数を「二進も三進もいかない」と呼ぶようになり、計算のやりくりができないことから、行き詰っている様を表す意味に転じた。
「よんどころない」
「よんどころ」とは漢字で「拠所」と書き、「頼りにしているところ」を意味する。これに打消しの「ない」が加わり、「支えがない、やむを得ない、仕方がなくそれをするしかない」状況を表現している。
「やんごとなき」
「やんごとなき」とは「身分が高い」という意味の他に、「大切なこと、重要なこと」「ただ事ではない」といった意味を持つ。「のっぴきならない」のように、状況が差し迫りどうにもならないというよりは、重大なことであるために避けられない、といったニュアンスで使用される。
「退っ引きならない」の正しい使い方と使用例
「のっぴきならない」は、重要な事態を連想させる強い意味の言葉であり、多用すると相手からの信用を失いかねない。使用するタイミングと頻度を考慮し、適切な状況でのみ使うようにしよう。
ビジネスシーンで使用するのはアリ?
ビジネスシーンにおいては相手との関係性を考慮した上で、相手の依頼や要望にどうしても応えられず断る時、不測の事態が発生し会議に急に欠席・遅刻をせざるを得なくなった時に使うのはありだろう。
「退っ引きならない用事のため、会議を欠席します」と言えば、どうしてもキャンセルやスケジュール調整できない用事であることが相手に伝わり、決して相手をおろそかにしておらず、尊重している気持ちを伝えられるかもしれない。
ただし、言葉の響きからやや軽めの印象を与えかねないため、多用するのは避けよう。
例文
「退っ引きならない」を使用する際には、その後に「用事」「事情」「状況」「立場」などの言葉が続くことが多い。実際にどのような使い方をするか、いくつか例文を紹介しよう。
・「本日はのっぴきならない事情があるため、早退させていただきます」
・「彼が突然休むなんて、よっぽど何かのっぴきならない用事があるのだろう」
・「申し訳ございませんが、例の件でのっぴきならない事態が発生し、対応に少々お時間をいただけませんでしょうか」
・「のっぴきならない用件があるので、至急彼に連絡を取ってもらえないか」
・「彼は今回のプロジェクトで大きなミスをしてしまい、現在のっぴきならない立場にある」
英語ではどう表現する?
英語で「のっぴきならない」は、「やむを得ない、抵抗することが難しい」ことを意味する単語、「compelling」を用いて表現するのが一般的。「compelling」には、この他に「説得力のある」「人を引き付ける」という意味もある。
他にも「helpless(助けのない、無力な)」「unavoidable (避けることができない、どうしようもない)」といった形容詞があり、この後に日本語と同様、「situation(状況)」「reason(理由)」 「case(事例)」などの名詞をつけて併用することが多い。
文/oki