‘’モノ’’の費用対効果の検討で用いられる「ライフサイクルコスト」の考え方。製品や建物を長く使うためには必須とも言える概念だが、具体的な内容まで理解している人はあまり多くないだろう。
そこで本記事では、主に建物のライフサイクルコストに焦点を当て、わかりやすく意味を解説する。さまざまな事例に応用できる考え方なので、ぜひこの機会に基本的な概念を理解してほしい。
ライフサイクルコスト(LCC)とは?
「ライフサイクルコスト:Life Cycle Cost」とは、製品や建築物の「生涯費用」やその考え方のこと。設備の複雑化などに伴い建築物の管理費が増大しつつある今日、ライフサイクルコストの最適化が建物運営における重要な課題の一つとなっている。
建物の将来を見据えた費用の検討
ライフサイクルコストは、製品や建物が作られてから廃棄解体されるまでに要する費用を考える概念で、「Life cycle cost」の頭文字を取って「LCC」と略されることもある。あらゆる製品にライフサイクルコストが存在するが、主にビルや道路、橋梁などの大規模構造物について用いられることが多い。
一般的に建物のライフサイクルコストは、設計や建築段階で要する「建築費」、点検や保守に関する「運営管理費」、用水光熱費用の「運用費」、税金や保険料などの「一般管理費」、メンテナンス費用などの「修繕費」、建物の解体に要する「解体処分費」で構成される。これら費用の総額は、建設費の3倍から5倍の金額になるのが一般的。
LCCという略語は、製品や建物の生涯費用について指す場合が多いが、他にもIT運用管理や医薬品の活用法に関して用いられることがある。他分野におけるライフサイクルコストも、モノやサービスの‘’長期的な有効活用の考え方‘’を前提としている点が共通している。
ライフサイクルコストを削減するには?
ライフサイクルコストを削減するには、企画設計段階において「将来発生しうるコスト」を前倒し的に読み込んだ検討が必要。具体的には、耐用年数の長い鉄筋コンクリート造や高耐久の部材を採用して建物の寿命を伸ばす方法、修繕が容易な設計を行うことなどが挙げられる。また、省エネ性能に着目することで月々の「運用費」の削減が可能。
ライフサイクルマネジメント(LCM)とは?
「ライフサイクルマネジメント:Life Cycle Management」とは、企画段階から製品や建築物の’’生涯’’に着目して計画・管理を行う考え方。ライフサイクルマネジメントを意識した設計を行うことで、ライフサイクルコストの最適化やエネルギー消費の削減、災害リスクの最小化を図ることができる。また、最適なライフサイクルマネジメントを行うことは、環境負荷の低減にも寄与する。
ライフサイクルコストの削減に欠かせない検討事項
ここでは、ライフサイクルコストを削減し、建物の効率的な運営を行うための計画やシステムを紹介する。主に商業用の建物に用いられる手法だが、最近では個人用建物の検討に応用されることも少なくない。
長期修繕計画
長期修繕計画とは、建物の長期的運用を見据えた修繕計画のこと。主に分譲マンションで作成されることが多く、一般的に10年から30年程の期間を対象とした計画を行う。建物の大規模工事(外壁塗装・防水工事・給排水管工事など)の実施時期やその費用について定めるのが一般的。
長期修繕計画とともに「収支計画」も作成され、大規模修繕費用は「修繕積立金」によって賄われる。また、修繕積立金だけでは適切な修繕が不可能な場合もあるため、一時金の徴収に関する定めを設けておくケースも多い。修繕計画における将来的な費用の算出は、ライフサイクルコストの最適化に大きく貢献する。
BEMS
BEMSとは、「Building and Energy Management System」の頭文字を取った略語で、日本語では「ビル・エネルギー管理システム」と訳される。IT技術を活用して業務用ビルにおけるエネルギー管理の最適化を図るシステムで、「BAS」と「EMS」の二つのシステムで構成される。両者を組み合わせた管理体制の構築により、無駄のない建物運営が可能となる。
・BAS(Building Automation System)
BASは、建物の電気・空調・照明・防犯・昇降機などの各設備を中央監視装置によって統合管理するシステム。建物内の各設備の操作と制御を集中化させることで、良好な設備環境を維持し、エネルギーの効率的利用を促進する。
・EMS(Energy Management System)
EMSは、BASによって得られる管理情報を分析するシステム。BASが操作・制御する設備が適切な運転を行っているかを確認し、BASに対し判定結果のフィードバックを行う。BASの効率的な運用を支え、管理体制の改善を行うことを目的とする。
文/oki