外出自粛により、家飲みの機会も増えたかもしれない。特に家だと外で飲むより、つい度数も量もアップしてしまいがちだ。とはいえ「二日酔い」は家飲みでも起こりうるし、翌日の仕事にも支障が出る。
自分なりに予防はしているものの、どうしても二日酔いになってしまうという人は、「脱水」に注意してみるのも一つの方法だ。教えて!「かくれ脱水」委員会委員の靍知光(つる ともみつ)医師が二日酔いにならない方法を、詳しくレクチャーする。
二日酔い防止のポイントは「脱水」予防にあり
靏医師によると、二日酔いの予防の鍵となるのが水分補給だという。
二日酔いの原因となるのは、肝臓でアルコールを分解する際に発生する有害物質「アセトアルデヒド」で、これがフラッシング反応(顔面紅潮・吐き気・動悸・眠気・頭痛など)や二日酔いを生じさせるといわれている。このアセトアルデヒドを分解するには細胞は大量の水を必要とする。しかし、体が水分不足(脱水)状態だと分解がうまく進まず、二日酔いの症状が重くなったり、長く続いたりする。
そこで重要になるのは飲酒による脱水症状を防ぐことだ。
靏医師はアルコールを飲み始める前から、適量の水分摂取をしておくのを勧める。
「食事やおつまみで塩分・糖分などを摂る予定のときはコップ1〜2杯の真水でよいでしょう。おつまみも少量でほとんどお酒を飲むだけ、というのは、健康上、推奨されることではないですが、どうしてもそのような飲み方になってしまう場合は、意識してチェイサーを摂ることをおすすめします。一方で食事などを充分に摂るときや、飲んだ後に塩分たっぷりのラーメンなどを食べてしまうときは、塩分の過剰摂取になる恐れがあるので、自分の飲み方、食べ方を意識して調整してください」
【取材協力】
靍 知光(つる ともみつ)先生
教えて!「かくれ脱水」委員会 委員
雪の聖母会聖マリア病院 臨床・教育・研究本部長、小児外科医
他に、日本外科代謝栄養学会評議員、日本腹部救急医学会理事、日本小児救急医学会理事、日本臨床栄養代謝学会代議員・指導医・専門医などを務める。専門(研究)分野は、小児・新生児外科、周術期代謝栄養学、経口補水療法(ORT)の臨床応用、小児胸腹部外傷の治療。著書に『小児救急のストラテジー(共著)』(へるす出版)、『経腸栄養バイブル-小児(共著)』(日本医事新報社)、『小児のマイナートラブルハンドブック(共著)』(中外医学社)など
そこで靏医師に、さらに詳しく水分補給のコツを聞いた。
――事前に水分を摂っておくのと、飲みながら摂るのとでは、二日酔い予防の効果はどう変わりますか?
「事前に水分を摂ってもそれが排泄されれば何の効果もありません。最近、お酒を飲みつつチェイサーを飲んでいる人をよく見かけますが、これは理にかなっています。特に日本酒(特に冷酒)を飲むときは口当たりが良いので、ついつい飲み過ぎる傾向があるようですが、同時に水分も意識して摂ればアルコールの分解を助けてくれるので、酔い過ぎませんよ。
気の利いたお店では、日本酒と同時に日本酒の蔵元が醸造に使用する水をわざわざ出してくれるところもあるようです。
もちろん、飲んだ後、寝る前に十分な水分を摂っても遅くはありません。そうすれば朝の目覚めは快適ですよ。『水分はお酒と一緒か寝る前に必ず摂る』を覚えておきましょう。さらに寝る前ならOS-1に代表される経口補水液をおすすめします」
経口補水液とは、脱水症へいち早く対処するための飲料で、失った塩分などの電解質と水分を補うとともに、それを身体に保持してくれる。市販されているため、気軽に飲むことができる。
靏医師によれば、極端に喉が渇いていているような場合は、その状態が落ち着くまで、経口補水液を例えば500ml以上飲んでしまっても大丈夫だという。小腸からの吸収も早いので病院で点滴1本してもらうのと同様の効果があるという。
――塩分が過剰摂取になる恐れがある場合は、具体的にどのように飲み方・食べ方・水分摂取を変えればいいですか?
「ここでいう過剰摂取はすぐに体調を崩すような病的なものではなく、一般的な塩分取り過ぎ程度に解釈してください。お酒が進んでくると勢い、おつまみの量も知らないうちにたくさん摂取してしまいます。お酒のおつまみにはすでに塩分の高いものが多いことは、皆さんも経験上、ご存知でしょう。
日本酒に塩辛なんぞ最右翼(さいうよく)、他にもからすみ等、ワインには生ハム・チーズもなかなかです。旨味はかなり塩分にも左右されますので、食事と同時にお酒を飲む場合はかなりの量の塩分をすでに摂っています。その後におつまみをつまみながらさらに飲んで、さらにラーメンとくれば、塩分のみならずカロリー的にも身体に良くないのは肌で感じるでしょう。
塩分も過剰なので喉も渇きます。アルコール分解にも水分必要なのに余計に水分を必要としているわけです。
賢い食事と飲酒は適度な水分を摂りながら食事と一緒に飲むのが一番。少し飲み過ぎたな? 食べ過ぎたな? と感じたら寝る前の水分摂取を心がけましょう。今夜は塩分多かったなと感じたら、経口補水液より水のほうが良いでしょう。ただし、シメのラーメンはできるだけ我慢を。今は良くても10年後は立派なメタボですよ」
ちなみに、シメに塩分の多いものが食べたくなるのは、それこそ脱水傾向にある証拠だという。
――脱水状態をはかる兆候は「塩分が欲しい」以外でありますか?
「『塩分欲しい』と感じるのは酔いが軽い時点と考えられるため、直接的ではなく間接的に水分を欲していることから、塩分の多いラーメンが食べたくなるのでしょう。しかし本来の脱水状態はいわゆる『吐き気・嘔吐』など、まさに酔っ払いの症状と変わらないのです。ついでに『頭痛・めまい』も脱水症状の徴候。ですから酔っ払いと脱水はお互いに必要最低条件の関係と言えばわかりやすいでしょうか。
『喉カラカラ』は意外と飲んだ翌朝しか感じませんので、飲んだ後、症状が軽いうちに水分を十分取ることをおすすめします」
――二日酔いを防ぐために、頻繁にトイレに行って尿として出したほうがいいなど、排出面で差を出す方法はありますか?
「まったくありません。生ビールをジョッキでガンガン飲むと確かに利尿作用でトイレが近くなりますが、出したからといってアルコールは分解されません。先に述べた通り、酔いの原因はアルコールから代謝されたアセトアルデヒドが主ですので、むしろ水分は余計に必要なのです。ここは勘違いしないように注意しましょう」
――二日酔い予防のために、水や経口補水液のほかに有効な飲み物、食べ物はありますか?
「よく牛乳を飲めば悪酔いしないと言う人がいますが、関係ありません。胃の粘膜を刺激から守る作用はあっても、アルコールの吸収抑制や分解促進をサポートするものではありません。
ただお茶はなかなかのものですよ。まず水分そのものが脱水改善の筆頭ですし、カテキンは抗酸化作用があり、粘膜保護などアルコールからの身体のダメージを守ります。ビタミンCも含まれていますから、アセトアルデヒドの分解促進に有効ですし、カフェインの利尿作用も、飲酒後ならばアセトアルデヒドを排出させるのに役立ちます。飲酒後は経口補水液が一番のおすすめですが、なければ普通の水よりお茶のほうが良いと思います」
――翌日、二日酔いになってしまった後の早期改善にも、水分摂取は有効ですか?
「もちろんです。こういうときこそ経口補水液は吸収スピードが非常に速く効果的です」
二日酔いについてのQ&A
ここで、二日酔いについての素朴な疑問も靏医師にぶつけてみた。
――二日酔いになるときとならないときがあるのはなぜですか?
「いろいろな説がありますが、個人個人の飲み方やそのときの環境、誰と飲む・どこで飲むなどや、その日の体調にもよるので、明確なエビデンスはありません。またお酒の種類にもよるでしょう。日本酒(冷酒)や白ワイン等は口当たりが良いため、ついつい量が増えますし。基本的には翌朝に残っている体内のアルコール(アセトアルデヒド)量で二日酔いの程度が決まるわけですから、先にも述べた水分補給をしっかり行っておくのが肝ですね」
――酒の種類によって二日酔いの程度は変わりますか?
「先にも述べたように、アルコール度数や口当たりの感じで変わると言っても過言ではありません。今は日本酒の人気が盛り返してきて、全国で質の高い日本酒が造られています。ワインも相変わらずの人気でついつい飲み過ぎる傾向があるようです。
アルコールの度数というよりはむしろ、ついオーバードリンキングになる酒が危険のようです。度数の高いウィスキーも人気ですが、むしろハイボールが好んで飲まれているので、二日酔いになりにくいようです。個人的に言うと、今は日本酒・ワインが要注意、ハイボールやサワーなど比較的、全体水分量の多いものは二日酔いしにくいといって良いでしょう。焼酎なども食事と一緒に飲む傾向が多いので、それほど二日酔いにはなりにくいようです。しかし、どれも許容量を超えれば同じです。古い表現ですが『飲み過ぎシール』を貼られたら終わりです(笑)」
二日酔いを防ぐには、基本の「飲み過ぎない」のを前提として、賢く水分補給を行い、脱水を防ぐのがポイント。家飲みを楽しくするためにも、二日酔い予防をマスターしよう。
取材・文/石原亜香利