この15年で声優人口は約3倍に増え、本来は裏方であった声優が表舞台に立つなどマルチタレント化が加速した。では、どうして声優は活動の幅を広げるに至ったのか。その理由をアニメ市場の成長・変化から読み解く。
ジャーナリスト 数土直志さん
2002年にWebサイト「アニメ!アニメ!」を設立。2016年に独立し、業界の第一人者としてアニメを中心とした国内外のエンタメ産業に関する取材などを行なっている。
アニメ市場の多角化がマルチ声優登場の引き金に
アニメ市場が驚異的な成長を遂げている。一般社団法人日本動画協会が発行する『アニメ産業レポート2020』によると、2019年度の市場全体の売り上げは2兆5000億円を超える。『けいおん!』『化物語』といったテレビアニメが大ヒットし、水樹奈々が声優として初めてNHK紅白歌合戦に出場するなど、第4次声優ブームが加熱した2009年度の約2倍にまで市場規模は拡大した。
好調を維持する一方で、勢いを欠くジャンルがある。アニメDVDやBDといったビデオパッケージの売り上げだ。しかし、これこそが声優のマルチタレント化が進む引き金になった、とジャーナリストの数土直志さんは分析する。
「DVDが一気に普及した2000年代初めは、ビデオパッケージが市場を支える大きな柱でした。しかし、2005年をピークに売り上げは減少。2010年代にDVDバブルが弾けた時に救世主として現われたのが〝海外放送権・配給権〟です。それと並行して業界は、テレビなどでアニメを放送した後にビデオパッケージを販売して収益を獲得するという一本槍のビジネスモデルから多角化戦略へとシフトしました」
多角化戦略の軸となるのは、売り上げの約48%を占める海外関連消費。そして、声優ブームを支える〝配信〟〝劇場アニメ〟〝ライブエンターテインメント〟〝スマホゲーム〟の4本柱だ。
テレビアニメの劇場映画化が相次ぐ理由とは?
中でも配信アニメは今後の成長が最も期待される分野のひとつ。昨年10月、動画配信プラットフォームのNetflixが2021年に16作品のオリジナルアニメを配信すると発表。また同12月には、アニメ『鬼滅の刃』の制作で知られるアニプレックスを子会社に持つソニーグループが、アニメ配信サービスを手がけるクランチロールの買収を発表するとともに、エンターテインメント事業の強化をアピールした。今後、配信アニメが増えていくことは想像に難くない。
日本の劇場アニメのタイトル本数は2008年から急増しているが、その動きは少しユニークだ。
「2019年度における劇場アニメの上映本数は過去最高の91本。前年度の74本から大幅に増えました。劇場アニメが増加傾向にある理由のひとつに、作品をダイレクトに収益化できることが挙げられます。興行収入が140億円を突破した『天気の子』など、完全オリジナルアニメ作品がヒットした一方で、テレビアニメの最終回だけを劇場公開するケースや、当初はテレビ企画だったアニメをシリーズモノとして上映するケース、テレビアニメの総集編なども目立つようになりました」
総合動画配信サービスがアニメコンテンツを強化!
2019年度のVODの映像配信売り上げは前年比25.9%増の約2770億円。ラインアップの大幅な拡充を発表したNetflixのように、総合サービスでもアニメコンテンツの強化が始まっている。
『機動戦士ガンダムUC』はテレビアニメを分散化上映した草分け的作品。6部作として劇場公開した。