2月26日の1日だけで前日比1,200円を超える値下がりとなりました。その値下がりは歴代10番目となるほどの大きな値下がりで、その主な下落要因は前日米国の長期金利が急騰したことが原因でした。ここまで大きく値上がりしてきた株式市場で、なぜ長期金利が上がると株価が下落するのでしょうか?
長期金利とは?短期金利との違い
金利には、大きく分けて短期金利と長期金利の2種類あります。
短期金利は、1年以内の資金を融通しあう短期金融市場で形成される金利のことをいいます。そのなかで、日本の短期金利の指標とされているのが「無担保コール翌日物レート」です。
中央銀行である日本銀行(以下日銀という)は、適正な金融操作によって経済を安定化することを責務としており、金融政策決定会合により決められた内容に基づき短期金利を操作しています。もともとの金融政策としての短期金利操作は、「銀行の銀行」とよばれる日銀が、民間銀行に資金を貸し出すときの金利「公定歩合」を変更することでした。その後、民間銀行の金利自由化により公定歩合で短期金利を操作することができなくなり、無担保コール翌日物レートの金利を操作することにより金利操作を行うようになりました。無担保コール翌日物レートは銀行間で短期資金を融通しあうときの金利のことで、この金利の操作によって短期金利を操作することができます。さらに、2013年4月にはこの無担保コール翌日物レートの操作ではなく、「量的・質的金融緩和」として市中に出回るお金と日銀当座預金の合計額である「マネタリーベース」を拡大し、2016年には日銀に預ける民間銀行の当座預金をマイナス金利にして強い金融緩和を行っています。
米国では、民間銀行が中央銀行に預けるときの金利「FF金利(フェである・ファンドレート)」によって短期金利の金利操作をしています。
短期金利は、私たちの身近なところでは普通預金、1年以内の定期預金、住宅ローンの変動金利などに影響を与えています。
一方、長期金利は10年物国債の利回りが指標とされています。これは日米ともに共通です。10年物国債は日々市場で取引されており、償還期間が長いことから短期金利より変動幅は大きくなります。債券と利回りの関係は、シーソーのような関係で、債券価格が上昇(債券が買われる)すれば利回りが低下し、債券価格が下落(債券が売られる)すれば利回りは上昇します。本来は、景気の先高感で長期金利が上昇し、景気悪化懸念があれば株式より債券が買われて金利が低下します。
しかし、デフレ、新型コロナウィルス感染症による景気悪化懸念などから、日銀とFRBはこの長期金利を調整するために長期の国債を購入する資産買い入れを行うようになりました。
そのため、本来は市場の需要に応じて長期金利は変動するのですが、日銀とFRBによって金利が低く抑制されています。
長期金利は、身近なところで住宅ローンの長期固定金利、企業の設備投資のための借入金利等が基準としています。そのため、この金利が下がれば借入れしやすくなり借入需要は増え、逆にこの金利が上がれば借入れしにくくなり資金需要が下がります。
金利が上がると株価が下がるのはなぜ?
株式市場は先行指標といわれており、現在の実態より先の経済事象(予想)に対して株価は変動します。
「長期金利が上昇する→借入需要の減少→設備投資や住宅購入が減る→景気後退」
と株式市場は予想して見越して株安となるわけです。
ただし、長期金利が上がったからといって景気後退となるかどうかは時期尚早です。なぜなら、現在日銀と米国FRBはこの長期金利を低下させるために国債の買い入れを行っているからです。そのため、本格的に金利が上がるかどうかはこの中央銀行の政策によるところになるでしょう。
日銀とFRBは長期金利をどうするか?低金利のデメリットとのバランス
株が下がったり、景気後退になったりするなら、中央銀行が長期金利上昇させることはないのではないかと考えるかもしれません。ただ、以下のような長期金利を低下させることでの副作用が出始めており、その副作用とのバランスを考えて継続するかどうか判断を迫られそうです。
■銀行の利ざやが減る
銀行の本業は、個人等から預かった預金を企業や個人に長期で貸し出すことで、預金金利と貸出金利の差額で儲けます。この預金金利と貸出金利の利ざや(金利差)は、通常長期になるほど大きくなります。
現在、長期金利を低金利にさせる金融政策のもとでは、長期の貸出しでもこの利ざやは大きくならず、銀行の収益源の減少となります。そのため、銀行の再編(規模拡大によるコスト低減)や本業以外で儲ける多角化が進む要因ともなります。
■資産バブルになり、反動が怖い
低金利により借入がしやすいことで、金融市場でも借入(信用取引やデリバティブ取引など)を使った買い入れが行われ、株式市場はもちろんビットコインなどの仮想通貨、原油などの資源等あらゆる資産が急騰しています。バブルのように余った資金が市場に投入され上がるほど、その後の下落時の反動が大きく、日本ではバブル崩壊後失われた20年といわれ、不良債権処理やデフレに見舞われました。
■景気過熱
日本で急激な物価上昇の可能性は低いと考えられるものの、米国では低金利であることにより住宅購入などの需要が旺盛で、それにより景気に過熱感、インフレとなることが考えられます。新型コロナウィルス感染症のワクチン接種が進み経済が正常化し、今まで抑えていた反動でさらに消費旺盛となれば、市中の物価が上がりFRBは今の低金利を修正する必要が出てくるでしょう。
FRBは「物価上昇は続かず現在のゼロ金利政策を続ける。」と表明していますが、先を見る株式市場は実態経済の回復、株式市場の上昇で長期金利上昇し、今後現在の日米の異次元の長期国債の買い入れ、米国のゼロ金利等の金融政策が縮小または解除されるのではないかということを見越していると考えられます。
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文/大堀貴子
フリーライターとしてマネージャンルの記事を得意とする。おおほりFP事務所代表、CFP認定者、第Ⅰ種証券外務員。