卒業式や引っ越しなど、人生の節目となる行事が多い3月。環境の変化に伴って、お世話になった人や親しい人と連絡を取る機会も増える時期だ。昨今はメールやSNSでのやり取りが主流となりつつあるが、せっかくなら手紙で気持ちを伝えてみるのもおすすめ。
そこで本記事では、手紙の冒頭で季節の移り変わりを表現する「時候の挨拶」の中で、3月に使えるものを紹介する。ビジネスシーン、カジュアルシーンでは表現が少し異なるため、用途に応じて使い分けよう。
ビジネスやフォーマルなシーンで使える3月の時候の挨拶
転勤や異動の挨拶状、お祝いのお礼状のようにビジネスやフォーマルな場面で使う時候の挨拶には、漢語調と呼ばれる「◯◯の候」「◯◯の折」などが最適。ここでは、手紙を送る時期(上旬、中旬、下旬)ごとに適した挨拶を紹介する。また、卒業式の答辞や送辞に使う時候の挨拶も併せて解説したい。
上旬
二十四節気で「雨水」(2月19~3月5日頃)にあたるのが3月上旬。雨水とは、空から降ってくるものが雪から雨に変わる頃という意味。地域によってはこの頃が積雪のピークになることも多いが、この時期を境に少しずつ雨の量が増えていく。
<適した挨拶>
まだ寒い日も多い3月上旬。手紙の冒頭には、「三寒四温」や「解氷(かいひょう)」といった厳しい寒さの中にも少しずつ春の訪れが感じられるような言葉を使うと良い。また、見ごろを迎える「梅花」もこの時期ならではの挨拶。
例)「梅花の候、◯◯様におかれましてはますますご健勝のこととお喜び申し上げます」
中旬
冬眠していた虫が、春の訪れを感じて地面から出てくる頃という意味の「啓蟄(けいちつ)」の時期(3月6日~20日頃)が、3月中旬。冬の間に寒気や害虫から樹木を守っていた菰(こも)巻を外すのもこの頃が多く、次第に春の気配が強まる時期。
<適した挨拶>
春らしい気温に近づくという意味の「軽暖」や、春の日差しを表す「春陽」などが中旬に適した言葉。二十四節気の「啓蟄」も、この時期の時候の挨拶としてよく使われる。
例)「啓蟄の折、貴社におかれましては一層ご繁栄のことと存じます」
下旬
祝日にもなっている「春分」を過ぎてから次の二十四節気である「清明」までの間(3月21日~4月4日頃)が下旬にあたる。一般的に、春分の時期は昼夜の長さが同じであるという認識が広まっているが、厳密には昼間の方が少し長い。
<適した挨拶>
厳しい寒さも和らぎ、ようやく暖かさを感じられる季節。この時期には、「春色」や「春暖」など、より春らしさを表す挨拶が好まれる。いよいよ開花を迎える「桜花」も中旬~下旬にかけて使われる表現。
例)「春暖のみぎり、貴店いよいよご盛栄のこととお慶び申し上げます」
卒業式の答辞や送辞で使う時候の挨拶
卒業式の答辞や送辞では、ビジネス・フォーマルな場面で使われる漢語調の挨拶は使用しないことがほとんど。格式ばった表現よりも、生徒本人の心情を表現する言葉の方が良いだろう。
また、通常の手紙では実際の季節に沿った挨拶を添えるのが良いとされるが、送辞・答辞では、現実の季節との連動よりも巣立っていく喜びや将来への希望を優先させ、「春の訪れ」「桜のつぼみ」「心躍る季節」といった言葉が地域や時期に関わらず使われることが多い。
例)
「桜のつぼみがふくらみ、春の到来が感じられるこの頃~」
「日差しが一日ごとに暖かさを増し、校庭の桜も色づき始める季節~」
親しい人とのやり取りに使うカジュアルな3月の時候の挨拶
保育園や小学校の季節のお便りや、親しい人に送る手紙には、少しくだけた柔らかい文面の口語調の挨拶を添えると良い。身の回りの出来事や近況を付け加えると、より親しみやすい印象を与える。
上旬
まだ寒い日が続く中にも、春の気配が感じられる季節。間近に迫った春の訪れを心待ちにする気持ちを盛りこんだり、桃の節句や鶯といった春らしい言葉を交えると、より季節感のある挨拶になる。
例)
「うぐいすの声が聞こえる季節になりました。皆様いかがお過ごしでしょうか」
「桃の節句も過ぎ、春はもうすぐそこですね。お元気でいらっしゃいますか」
中旬
3月も中旬になると暖かい日が増え、春の到来を本格的に感じられるようになる。また、卒業式や引っ越しといった春の風物詩もこの時期がピーク。そうした言葉を挨拶にも上手に取り入れよう。
例)「春一番が吹き、いよいよ春本番です。なかなかお会いできませんが、お元気ですか」
下旬
いよいよ春本番となる下旬。さまざまな節目を迎える時期でもあり、一年の間で一番時候の挨拶が交わされる機会が多い。この時期から咲き始める桜を絡めると、より季節感を感じられる挨拶になる。
例)
「木々の芽吹きに春を感じられる今日この頃、いかがお過ごしですか?」
「朝晩はまだまだ冷え込みますが、こちらでは桜のつぼみがほころび始めました。ご家族の皆様はお元気ですか?」
3月にふさわしい結びの言葉
時候の挨拶で書き出した手紙の最後には、結びの挨拶を添えるのがマナー。最後に、3月の手紙の結びとして使える言葉をいくつか紹介しよう。入学・入社や進級に伴って4月から生活環境が変わる人に向けた挨拶には、新生活への励ましや期待が表れた言葉を添えるのがおすすめだ。
ビジネス・フォーマルに使える結びの言葉
「早春の折、貴社ますますのご繁栄を心よりお祈り申し上げます」
「皆様が良き門出を迎えられますようお祈りいたしております」
カジュアルな相手に使う結びの言葉
「桜の便りが待ち遠しい季節ですが、皆様体調にはお気をつけてお過ごしください」
「もうすぐ始まる新生活が実り多きものになるよう願っています」
文/oki