義務教育の頃はもちろん、社会人になった今も英会話を勉強しているのに、「ネイティブと話せる自信がない」―こう悩んでいる人は多いはず。
なかなか話せるようにならないのは、「勉強時間の不足」だろうか?「英会話教室の先生との相性」だろうか? それとも…? テキストを広げたまま、こうして悩んでいるうちに日が暮れる。英会話学習のあるあるかもしれない。
日本語のテンプレートが上達を阻む
英会話挫折の真の原因は、「日本語のテンプレートに沿ってしゃべろうとするから」。そう指摘するのは、ニック・ウィリアムソンさん。
英会話教室「ニック式英会話」を主宰するニックさんは、英語指導20年の大ベテラン。2年前にはYouTubeチャンネルを開設し、チャンネル登録者数 30万人を超える人気講師だ。
ニックさんのYouTubeチャンネル「ニック式英会話」
そんなニックさんが言う「日本語のテンプレート」云々とは、日本語の文法構造に、英単語をなんとなく当てはめてしまうという、多くの学習者が陥っているクセのこと。これに、文法・解釈偏重の受験英語の記憶が追い打ちをかける。
例として、「買い物はいつも銀座です」を、いますぐ英語で言ってみよう。
もしも、
My shopping is always Ginza.
みたいな英文になったら要注意。日本語のテンプレートに引きずられた、「すごく変な英語」だからだ。
正解は、I go shopping in Ginza.
正解を見て、「“いつも”に相当する単語がないじゃないか」と思ってしまうのも、日本語のテンプレートにこだわってしまっているせい。
たった1枚のシートが英会話力を爆上げ
では、どっぷりとハマった日本語テンプレ沼から脱出するには、どうしたらいいのか。ニックさんは、こう語る。
「英語でのコミュニケーションを楽しく自然にできるようにするためには、英語のテンプレートに沿ってしゃべることが大事なんです」
そして、それを実現するためニックさんが編み出したのが、「魔法のA4一枚シート」。1月に刊行された著書『見るだけで英語ペラペラになる A4一枚英語勉強法』(SBクリエイティブ)に綴じ込まれているのがそれだ。
ニックさんの著書『A4一枚英語勉強法』に付いている「魔法のA4一枚シート」
「魔法のA4一枚シート」は、パーツAからパーツDの4つのパーツに分かれている。パーツAは、「基本的なパターン」。I’m busy.、I was busy.、I’m going to be busy.など、ごく短い英文が時制ごとに載っている。その下にあるパーツBは、「それに当てはめるだけで応用ができるフレーズ」として、hungry、kind、go homeなど形容詞、あるいはグループ化した動詞が並んでいる。その両側にあるパーツCとパーツDは、「さらに前後に付け加えるフレーズ」。I’m gladやIt’s too badなど文頭に置く言い回しと、後に付け足す形容詞や”with 名詞”などがある。
パーツ内の語句を組み合わせ、何度も声に出して練習するというのが、「A4一枚英語勉強法」の基本。「このシートで繰り返し練習することで、英会話スキルが劇的に上達するのを実感できるはずです」と、ニックさん。
では具体的に、本書にもあるシンプルな文例を挙げよう。
「私は昇格できなさそう」。
これを英語にするとどうなるか。
まず考えるのが「時制」。パーツAには4種類の時制があり、そこから選ぶ。次に、肯定、否定、疑問のどれかを判断する。
上の日本語の文は、時制は未来、そして否定だということはすぐわかる。もう一度パーツAを見て、該当するI’m not going toが導き出される。あとは、パーツBのグループ化した動詞からget promotedを選んで、以下の英文ができあがる。
I’m not going to get promoted.
さて、もしこのシートを知らないで、これまでの英作文の感覚でやってみるとどうなるか。
「できなさそう」=「できない」+「しそう」なので、
I seem to not be able to get promoted.
と答える日本人が多いと思う。「でも、それはとっても不自然です」と、ニックさんは指摘する。
「“未来形”で“否定文”とだけ考えるのが英語の感覚です。日本語表現の“しそう”や“できない”に引っ張られて、そこにこだわって英語に訳そうとしてしまうのは、まったく必要のない努力です。むしろ逆に、英語で最も大事な“時制”を無視してしまうことになります。上の例文ですと、「昇格できなさそう」は未来のことなのに”I seem to not be able to…”は未来形になってないのです」
日本語習得の苦労から閃いた学習法
かくいうニックさんは、日本語を学び始めた頃に、同じような落とし穴にはまった経験がある。当時は文法中心の学習で、「4年間勉強しても、1つの簡単な文をつくるのが一苦労」だったという。例えば、「行きたくなければ行かなくてもいいよ」という一文をひねり出すのに、単語1つずつを語形変化させるやり方で苦心惨憺。
「“行く”の“く”を“き”に変えて“たい”を付けて“行きたい”。
“行きたい”の“い”をとって“くない”を付けて“行きたくない”。
“行きたくない”の“い”をまたとって“ければ”を付けて“行きたくなければ”。
次は“行く”の“く”を今度は“か”に変えて“ない”を付けて“行かない”。
“行かない”の“い”をとって“くて”を付けて“行かなくて”。
“行かなくて”に“もいい”を付けて“行かなくてもいい”がようやく作られます。これには参りました」
しかし、ある日「日本語の文を分解して、言葉のかたまりやテンプレートで考えた方が簡単じゃない?」と気づく。上の文なら、「~たくなければ + ~なくてもいい」となるが、この要領で覚えていったら、あっという間に日本語を話せるように。つまり、日本人がまったく無意識にやっているように、日本語のテンプレートに沿って話すことをマスターしたわけだ。
「英語も同じです。『ここでは動詞の原形を使う』『ここでは動詞のing形を使う』などと覚えてしまって、そしてそんな意識をしなくても間違えずに言えるようになるまで、いろ~な内容を、た~くさんそのテンプレートに当てはめていくだけです」
言うまでもなく、テンプレートをデスクにただ飾っておくだけでは上達しない。テンプレートの用例を組み合わせて文章を作って話すという、地道な練習が必須となる。応用をきかせるのはその後からだが、その時には英語を話すのはずっとラクになっているはずだ。
つづく後編では、パーツCとパーツDについて触れてみよう。
ニック・ウィリアムソンさん プロフィール
英会話教室「ニック式英会話」主宰。同名のYouTubeチャンネルは登録者数は30万人を超え、人気を博している。シドニー出身で、シドニー大学で心理学を専攻。同大学で3年間日本文学も勉強し、日本の文化にも明るい。在学中にオーストラリアの日本大使館が主催する全豪日本語弁論大会で優勝。日本の文部科学省の奨学金を得てシドニー大学卒業後、東京学芸大学に研究生として1年半在学。在学中にアルバイトとして英会話スクールで英語を教え始め、卒業後も看板講師として勤め上げる。英語講師として20年間のキャリアの中で、英会話教室をはじめ、企業向け英語研修や大学の講義、SKYPerfecTVの番組の司会やラジオのDJ、数々の雑誌のコラムや8冊の英語本の執筆など、活動の場は幅広い。『見るだけで英語ペラペラになる A4一枚英語勉強法』は最新の著作。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)