『月極(つきぎめ)』という読み方は、学校では習いません。そのため、街でこの文字を見かけても、ピンとこない人がいるようです。この言葉にはどのような意味があるのでしょうか。正しい読み方や意味、さらには言葉の由来も紹介します。
「月極」の正しい読み方とは?
街や路地などを歩いているときに、『月極駐車場』などの文字を見たことがある人は多いでしょう。
「地名かな?」「店の名前かな?」と思うかもしれませんが、どちらでもありません。月に極めると書いてどのように読むのか、正しい読み方を確認しましょう。
「つきぎめ」と読む
『月極』とあると、「げっきょく」とそのまま読んでしまいがちです。しかしこれは間違いで、正しくは『つきぎめ』と読みます。
『月』は『つき』とそのまま読めばよいので、特に問題はないでしょう。一方『極』は音読みで『きょく』、訓読みで『きわ』と読むのが一般的で、『極める』『極まる』などと使います。
『きめる』とはなかなか読まないので、読み方を知らない人がいてもおかしくないでしょう。
「極」を「きめる」と読むのは常用外
『きめる』という読み方は、極の常用漢字の読みには含まれていません。つまりこの読み方は、小中高のどこでも習わないのです。学校以外で誰かから教えてもらわなければ、知るチャンスはあまりないでしょう。
常用漢字とは、現代の国語を書き表す場合に使用する漢字の範囲の目安となるものです。日本語を母語とする人たちが社会生活を円滑に送れるよう、日常生活で頻出する漢字が選ばれました。
しかし、常用漢字に指定されているのは5万個以上あるといわれる漢字のうちの、わずか2000個ほどに過ぎません。
『極める』を『きめる』と読むように、読みにくかったり意味が分からなかったりする漢字は、まだまだたくさんあるのです。
「月極」の意味や由来
『月極』を「つきぎめ」と読むことが分かれば、言葉の意味が何となく分かった人もいるのではないでしょうか。この言葉の意味や由来について紹介します。
月ごとに契約をすること
『月極』と書かれていた場合は、月ごとの契約がある状態を意味しています。月は『1カ月』のことを指すのが一般的なので、この場合は「1カ月ごとのきめごとになっている契約」と考えればよいでしょう。
例えば、街のあちこちで頻繁に目にする『月極駐車場』は、マンスリー契約で貸し出す『月単位で賃料を支払う駐車場』のことです。
また、同じく月単位で契約するマンスリーマンションなども『月極賃貸』と呼ばれることがあります。
昔使われていた「極」の意味が元
その昔、『極』は『取り決める、決める』という意味で使われていました。
例えば、『東京朝日新聞』に明治42年6月27日から10月14日まで連載された夏目漱石の『それから』には、「仕様がない。覚悟を極めませう」という文章があります。
これを見れば分かる通り、『極』を『決める』と読むのはごく一般的でした。現在でもこのときの名残で、『極』を『きめる』という意味で用いていると考えられます。
しかし、常用漢字から『きめる』という読みが取り除かれている現在では、『極』を『きめる』といわれてもピンときません。『月極』という字面を見ても、言葉が示すもののイメージが浮かびにくくなっているのです。
「月決」ではないのはなぜ?
『つきぎめ』なら『決定』の『決』で『月決』と読ませてもよさそうです。しかし、なぜあえて古い言い回しの『極』の字を使っているのでしょうか。『月決』が一般的に使われない理由を見ていきましょう。
「極める」に契約の意味があるから
現在『決める』というと、何かを決定することを意味します。しかし『極める』の場合、これだけで『契約する』『みんなで取り決める』という意味があるのです。
『決める』『極める』のどちらもが日常的に使われていた昔は、契約を指すときは『極める』を使用していました。事実、かなり古い時代から『月極』という言葉があったといわれます。
昔からの用法にならえば、『契約する』の意味で使う『きめる』は『極める』の方が適しています。
現代では違和感を覚える人がいるものの、月ごとの契約で借りるマンスリー駐車場なら、『月極駐車場』と書くのがベターでしょう。
「月決」も間違いではない?
常用漢字では、『きめる』については『決める』と書くと習います。『つきぎめ』と読ませるのなら『月決』でもよさそうです。しかし、現在習っている決めるという言葉には、契約するという意味がありません。
前述の通り、『極める』には契約の意味が含まれるので、月極駐車場には『月極』が適しているでしょう。
とはいえ、日常的に使う漢字は常用漢字を使う方が望ましいとされます。『極め』が使えないのであれば『月ぎめ』とするのがよいかもしれません。
地域によっては「月決」が多いところも
「全国チェーンの駐車場かと思った」と言う人もいるほど『月極駐車場』は全国に浸透しており、頻繁に目にします。しかし、一部の地域では『月極』と書かず『月決』とするところもあるようです。
例えば、高知県は『月決駐車場』が多いことで知られています。このほか青森、秋田、北海道などでも『月決』が多いそうです。
ただし、これは日本のごく一部の地域に限られます。全国の月極駐車場のオーナーの約90%が『つきぎめ』に『月極』の漢字を充てているといわれています。