■連載/石野純也のガチレビュー
当初はハイエンドモデル中心だった5Gスマートフォンだが、ミドルレンジモデルが徐々に増え、価格の選択肢が広がっている。そんな中、4万円を下回った5Gスマートフォンが登場した。しかも、開発したのは日本メーカーのシャープ。「AQUOS sense5G」がそれだ。同モデルは、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が発売。ドコモやauのオンラインストアでは、3万9600円で販売されている。ソフトバンク版は4万円を超えるが、いずれにしても低価格であることは確かだ。
単に低価格なだけでなく、スペックのバランスが取れているのもAQUOS sense5Gが注目を集める理由だ。チップセットには、クアルコムの「Snapdragon 690」を採用。この価格ながら、広角、標準、望遠のトリプルカメラを搭載しており、おサイフケータイや防水・防塵といった日本向けの仕様も完備している。ハイエンドの5Gスマホのように尖った機能はないものの、バランスのよさはAQUOS senseシリーズならではだ。
コストパフォーマンス抜群のAQUOS sense5Gをレビューした
とはいえ、5Gスマホが軒並み7万円を超える中、4万円を下回る価格で、本当にきちんと使えるのかと不安を覚える人もいるはずだ。Snapdragon 690を搭載したスマホがまだほかにないこともあり、処理能力などのパフォーマンスも気になるかもしれない。そこで、ドコモ版のAQUOS sense5Gを実際に使い、実力をチェックしてみた。
ちょうどいいサイズ感で、ディスプレイの解像度も十分
ちょうどいいスペックを備えつつ、手に取りやすい価格を追求してきたAQUOS senseシリーズの最新モデルだけに、AQUOS sense5Gもバランスのいい仕上がりだ。デザインは、ごくごく普通にまとめられており、ポジティブな意味で安心感がある。それもそのはずで、筐体はアンテナのスリットなどを除くと、4G版のAQUOS sense4とほぼ共通。パッと見では、4Gスマホと見分けがつかないというわけだ。
ディスプレイも、大きすぎず小さすぎずで、手のひらへの収まりがよく、画面に表示されたコンテンツも見やすい。ディスプレイ上部にせり出す形でインカメラのノッチがあるのは、映像を視聴する際に少々残念な点だが、IGZO液晶を採用したディスプレイは明るくて見やすい。解像度はフルHD+と十分高いため、文字なども滑らかに表示される。
ボディは金属製で、バスタブ構造になっている。バスタブのような器に、ディスプレイ側をはめ込む形状と言えばイメージしやすいだろう。画面を取り囲むフレームに、前面と背面のガラスをはめ込んでいるスマートフォンとは構造が異なるが、剛性が高く、手に取った時に、質感の高さも伝わってくる。側面は端がカットされているため、手に持った時のフィット感もいい。
バスタブ構造のボディで、側面は持ちやすいよう、角度がつけられている
生体認証は、指紋認証と顔認証の両対応。指紋センサーは本体前面に配置されている。指紋センサーをディスプレイと一体化させたり、側面に置いたりするのが最近のトレンドで、前面に配置した指紋センサーにはやや古さも感じる一方で、こちらの方が分かりやすいのも事実。片手で持った時に、親指が自然と当たるため、使い勝手も悪くない。前面に指紋センサーを置くと、そのぶんディスプレイが狭くなってしまうのが難点だが、細長い形状にすることで、ベゼルは最小限の幅に抑えられている。
ミドルレンジモデルとしては十分なパフォーマンスでサクサク動く
Snapdragon 690を搭載しているAQUOS sense5Gだが、実際の処理能力はどの程度なのか。結論から言うと、ブラウジングしたり、SNSアプリを使ったりする程度では、ハイエンドモデルと比べても、大きな差は感じられない。ただし、ハイエンドモデルのようなキビキビ感があるかというと、操作に対するレスポンスはやや緩やかなようにも思えた。この点は、チップセットの性能ではなく、ソフトウェエアのチューニングの可能性もあるため一概には言えないが、素早く操作しようとした時に、気になるポイントだ。
ベンチマークスコアは、6シリーズのSnapdragonと思えないほど高い。以下は、Geekbench 5で計測したスコア。CPUのスコアはシングルコアが585点、マルチコアが1652点で、7シリーズのSnapdragonに迫る数値をたたき出している。グラフィックス処理の性能を測るCOMPUTEスコアの数値も939点と、6シリーズのSnapdragonにしては高めだ。ハイエンドモデルには及ばないが、限りなく7シリーズのSnapdragonに近い性能を持っていることが分かる。
シングルコア、マルチコアともに、6シリーズのSnapdragonとしては高い数値だ
GPUも十分な性能。グラフィックスに凝ったゲームでなければ、スムーズに動く
4万円を下回るミドルレンジモデルながら、処理能力だけでなく、通信性能も充実している。ど真ん中のミドルレンジモデルで5Gに対応しているモデルはまだまだ少ないため、同価格帯の端末の中では、トップクラスの通信速度が出る。5G接続時の通信速度に関しては、ハイエンドモデルとそん色ないレベルで、ある程度サイズの大きなアプリのダウンロードも一瞬で終わってしまう。以下は、東京都・渋谷区の5Gエリアで計測した通信速度だが、ダウンロードのスピードは平均で700Mbps以上だった。
まだまだ一部のスポットだが、5Gに接続すれば4Gまでとは比べ物にならない速度が出る
5Gのエリアはまだまだ限定的だが、各社とも、21年春から拡大のペースを上げていく方針。KDDIやソフトバンクは、プラチナバンドの700MHz帯を含む、4Gの周波数帯を5Gに転用するため、これまで5Gが入らなかった屋内でも、電波をつかめるようになる可能性が高くなる。ドコモは周波数転用に慎重な方針だが、5G用に割り当てられた基地局の出力を上げるなどして、エリア化を急ぐ。比較的大きな駅前などで5Gが当たり前のようにつかめるようになれば、この端末の価値はさらに上がるはずだ。
この5Gの速度を生かす機能として、AQUOS sense5Gには「テザリングオート」が搭載されている。この機能は、文字通りテザリングを自動的にオンにするためのもの。あらかじめ設定しておいた場所に入るか、指定した場所を出ると、テザリングが起動する。自宅に帰った時だけ、AQUOS sense5Gをルーターとして使うことができるというわけだ。家族で暮らしていると、家に光回線などを引いているかもしれないが、一人暮らしの場合は、必ずしも固定回線は必要ではない。5Gなら、各社とも、データ容量が無制限の料金プランを利用できるため、AQUOS sense5Gが1台あれば家の中の回線もまかなえる。手動でオンにするのは意外と面倒なため、かゆいところに手が届く機能と言えそうだ。
カメラは価格以上の完成度、日本仕様にもフル対応
ミドルレンジモデルの場合、トレードオフとしてカメラ機能が犠牲になりがちだ。同じトリプルカメラでも、メインの広角カメラ以外は画素数が低い深度測定用のカメラだったり、マクロカメラだったりすることがある。確かにそれでもカメラであることに違いはないが、実際に使うかどうかは別の話。トリプルカメラをうたいつつも、実態はデュアル/シングルカメラに近い。
これに対し、AQUOS sense5Gのトリプルカメラの構成は、ハイエンドモデルのそれに近い。1つが35mm判換算で18mm相当の広角カメラ、もう1つが24mm相当の標準カメラ、3つ目が53mm相当の望遠カメラだ。画素数は望遠カメラのみ800万画素で、残り2つは1200万画素になっている。望遠のみ、画素数が低いのは少々残念なところだが、画角違いで3つのカメラが搭載されているのは、使い勝手がいい。
写真のクオリティも、ミドルレンジモデルとしては十分に見える。以下は、広角、標準、望遠で撮った風景写真。青い空がパキっと写りつつ、ノイズが少なく、ディテールの描写もしっかりできている。望遠カメラで撮った写真は画素数が低いぶん、細部は甘く出てしまうものの、全体のバランスは悪くない。料理写真も同様で、色が暖色寄りになり、おいしく見えるように撮れる。シャッターラグは少々気になったところだが、写真の質はお値段以上と言えそうだ。
上からそれぞれ、広角、標準、望遠で撮った写真。青空の発色がよく、ディテールもしっかり描写されている
シーンを認識して、色味などを調整するため、ご飯の写真からは温かさが伝わってくる
この価格帯でも、しっかり日本仕様に対応しているのがAQUOS senseシリーズの安心なポイント。おサイフケータイが利用でき、モバイルSuicaやiD、QUICPayといったサービスはすべて登録できる。防水・防塵にも対応する。難点なのが、本体側面のGoogleアシスタントボタン。Googleアシスタントを一発で呼び出せるのが特徴だが、電源キーと間違えて押してしまうことがあった。このキーは、シャープのエモパーや、ドコモのmy daizに置き換えることもできるが、任意のアプリを指定できるようにしてほしかった。
おサイフケータイに対応。電子マネーをきちんと使えるのがうれしい
こうした細かな不満要素がないわけではないが、AQUOS sense5Gは、総じてバランスがよく、4万円を下回る端末として、性能は十分だ。ひと言で言えば、コストパフォーマンスのいいスマホだと評価できる。5Gに非対応のAQUOS sense4なら、価格はもう少し安くなるものの、ある程度、長い期間使うのであれば、5Gのエリアは徐々に広がっていくため、こちらを選んだ方がいい。価格の高さから5Gデビューに二の足を踏んでいたユーザーに、オススメしたい1台と言える。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
生体認証 ★★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。