■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は「Galaxy S21」シリーズのグローバルデビューから見えてきた、ハイエンドスマホのトレンドについて議論します。
前モデルから値引きしたGalaxy S21シリーズの思惑とは
房野氏:グローバルで発表された「Galaxy S21 5G」シリーズですが、昨年の「Galaxy S20 5G」シリーズと比較すると値下げされています。どのようにお考えでしょうか。
石野氏:昨年登場したS20シリーズは、一番安いモデルでも価格が999ドルと高すぎた気がします。また、S20シリーズは発売のタイミングが新型コロナウイルス感染拡大と重なってしまったこともあって、販売計画が想定通りにいかなかったという噂もあるので、S21シリーズの値下げはやむなしという印象です。でも、筐体に金属を使わなかったりとうまくコストダウンしていますね。
そもそもスマートフォンのハイエンドモデルって、価格が5万円程度だったものが、いつのまにか10万円を超え、15万円以上も当たり前になっていて、中には20万円を超える端末も出ています。その中でチョイスの幅を広げたという意味で今回の、Galaxy S21 5Gが799ドル、Galaxy S21+ 5Gが999ドル、Galaxy S21 Ultra 5Gが1199ドルという値付けは正解かなと思います。
石川氏:毎年スマートフォンの性能を進化させるのは難しい話で、2年に1回大きくステップアップさせるという流れがあります。Galaxyは昨年かなり頑張って進化させたから、今年は逆に進化の幅が狭かったともいえます。Galaxyだけでなく、各社とも今年の進化は小規模にとどまるのはないでしょうか。
石野氏:型番も“S30”ではなく“S21”でしたからね。
法林氏:そこだよね。最近、ライバル各社がモデルチェンジで〝10〟単位の名称変更をしている中で、なぜか21になった(笑) ハイエンドのスマートフォンにそこまでの高性能が必要かという議論は去年、おととしあたりから出ていたし、さすがに価格が20万円に近付くと、普通に「ノートパソコンが買える」とも思う。便利とはいえそこまで高価なものを、ポケットに入れたりして持ち歩くのはどうかとも思いますし、落として壊したりすることもあると思えば、10万円前後の価格が上限じゃないでしょうか。
そんな中、ミドルレンジ帯のスマートフォンがかなり性能を上げているので、ハイエンドのスマートフォンの価格をどこまで落とすのが適正なのかという問題もある。Galaxyとしては、高機能全部盛りのプレミアムラインと、スマートフォンとしてのハイエンドを分ける兆候が見られます。例えば「Galaxy Z Fold2 5G」のような端末も出始めているので、これらをプレミアムライン、SシリーズやNoteシリーズを10万円前後のハイエンドスマートフォンとするのかもしれない。「Note」シリーズはなくなる噂もありますが。
石野氏:Galaxy S21 Ultra 5GはSペンにも対応しましたからね。Noteにもなにかしらの影響はあるでしょう。海外の噂だとNoteは“Fan Edition”だけになるという話もありますし、次はFoldシリーズがSペンに対応するかもしれません。
房野氏:昨年、Galaxyは2020年第2四半期のスマートフォン出荷台数で。HUAWEIにシェアナンバー1の座を奪われましたが、その影響はあるでしょうか。
石野氏:値下げしたのにはその影響もあると思います。その後出荷台数で再び首位になっていますが、それもインドなどでミドルレンジがかなり売れてシェアが伸びたという話。メーカーはハイエンドでイメージを作ってミドルレンジで台数を売るのが一般的で、ミドルレンジ端末ばかり売れていると先が続きません。
法林氏:日本で販売している端末としては「Galaxy A51 5G」が性能・価格を見てもかなり優秀な端末です。A51が売れるとなるとS21シリーズはどこまで力を入れるのか、日本で3モデルとも出るのかは疑問ですね。
石野氏:今年のGalaxyは再編していくだろうと予感させる、Galaxy S21シリーズのラインアップでしたね。
コロナ禍でスマートフォンはPC代わりになり得る?
石川氏:今年出るスマートフォンとしては、まだまだコロナの影響で自由に外に出れない環境の中で、オンライン会議のためにインカメラの強化など在宅を意識したモデルが多く出てくるかもしれません。
法林氏:コロナでスマートフォンの使い方が変わる人もいる中で、スタンドなどのアクセサリーなども含めて考え直す時期に来ていると感じます。GalaxyのDeX機能なども、バッテリーのことなどを考えるとほかのやり方もあるかもしれません。各社の工夫に期待したいですね。
石野氏:Snapdragonも新しい世代の「Snapdragon 888」のほかに、昨年の865のクロックアップ版である「Snapdragon 870」も登場しました。これは“安ハイエンド”みたいなイメージのチップセットで、今年のトレンドにもなり得ると思います。
房野氏:スマートフォンとPCの連携という面では、2021年どのように進化していくでしょうか。
石川氏:まずPCも作っているスマートフォンメーカーが少ないという話ではありますね。HUAWEIやLG、Samsungぐらいのものなので、アップルがどうしても先に行ってしまいますよね。
法林氏:アップルは各製品のOSが似通っている部分があるので、連携しやすいのが強みです。WindowsはAndroidに歩み寄ろうとしていますが、Android側の対応が今一つという状況です。アップルとしては連携こそできていますが、iPhoneユーザーのなかにMacシリーズを使用している人がどのくらいいるのかという話ですし、アーキテクチャが変わる時期ではあるので、購入を踏みとどまっている人も多いでしょう。
石野氏:PCを意識しているスマートフォンメーカーとなるとHUAWEIですかね。SamsungもMicrosoftと協力していろいろやっています。
法林氏:文字入力だけでなく様々なことをやろうとすると、PCがないとどうにもならないことはあるので、PCのポジションはそこまで変わらないでしょう。ただ、PC側はスマートフォンがあることを前提としていろいろやり始めているので、すぐではありませんが、形上の変化が見られる可能性もあります。
世代間のギャップもあって、例えばPCのタッチディスプレイ1つでも、スマートフォンネイティブ世代は「タッチ操作できて当たり前」という感覚ですが、僕ら世代としては「ディスプレイが汚れるからやめよう」という感覚。このギャップがどう市場に影響していくかはわかりません。
これからのノートPCは携帯性やインカメラ、タッチディスプレイの“2in1”になっていくとなると、数年前からsurfaceがやってきた方向性は間違ってなかったと思わされます。
房野氏:ハイエンドスマートフォンがモバイルPCの代わりのようになるのは難しいでしょうか。
法林氏:スマートフォンのデスクトップ化はあくまで緊急事態用でしょう。
石川氏:ハイエンドスマートフォンとしても昔からPCのように利用する方法は試行錯誤されてきましたがあまりうまくいっていません。いまのところ文章を書くときにはノートPCの形のほうがフィットしますし、人間が進化しないことには形を変えるのは難しい気がします。
法林氏:例えば僕らが長めの原稿を書く時に何を使って書くかといわれると、やはりスマートフォンで書くのは無理がある。また、グラフィックデザイナーさんだとアイコンを動かしたりするのにマウスがないとダメだったりするので、スマートフォンでの作業は厳しい。スマートフォンでもできることは多いですが、あくまで補足的なんです。
石川氏:出張先でGalaxyのDeX機能を使うために、マウスとキーボードを別で持っていくとなると、ノートPCでよくないかとも思う。画面サイズはまだしも、入力という面で厳しさがあります。
石野氏:原稿を書くという話だと、キーボードこそマストですがiPadでも書けます。そう考えると画面がもう少し大きく、キーボードが接続しやすくてタッチペンが使いやすくとなると、仕事でも使えるかもしれませんね。
……続く!
次回は、MVNOの新料金プランについて話し合う予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦