例年2月ごろに発表されるフラグシップスマートフォンである「Galaxy Sシリーズ」。世界を代表するシリーズであるため、1年間スマートフォンがどのように進化していくのか、基準ともなるモデルです。
今年は例年よりもひと足早く、1月に「Galaxy S21 5G」「Galaxy S21+ 5G」「Galaxy S21 Ultra 5G」の3モデルが発表されました。では、その詳細を詳しく見ながら、2021年にスマートフォンが進む道を確認しておきましょう。
2021年版ハイエンドスマートフォンはスペックより価格を重視?
近年のハイエンドスマートフォンといえば、折りたたみ端末などの特殊な技術を用いたものを除いても、10万円から15万円ほどするモデルが多いです。「iPhone 12 Pro Max」は最小構成でも11万7800円(税抜)となっています。
技術の革新は進み、スマートフォンはどんどん高性能になってきていますが、「そこまでのハイスペックをユーザーがどれだけ求めているか」といわれると話は別でしょう。
今回発表されたGalaxy S21シリーズは日本での発売が正式に発表されていないため、日本での販売価格こそ未定ですが、アメリカでの販売価格は発表済み。
Galaxy S21 5Gが799ドル、Galaxy S21+ 5Gが999ドル、Galaxy S21 Ultra 5Gが1199ドル。昨年のモデルである「Galaxy S20 5G」は999ドル、「Galaxy S20+ 5G」は1199ドル、「Galaxy S20 Ultra 5G」は1399ドルで、それぞれ200ドルずつ安価に設定されています。
Galaxy S21シリーズがコスパを重視したわけ
Galaxyといえば、グローバル市場でシェアナンバー1を長年キープしている、世界的に人気のシリーズ。しかし、カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチ社の調査によると、2020年第2四半期のスマートフォン出荷台数では、HUAWEIに首位の座を明け渡しています。
【出典】Counterpoint Research: Quarterly Market Monitor 2020年第2四半期
第3四半期には首位に返り咲いてはいますが、Galaxyのプライドにかけて2021年は通年首位をキープするため、シェアを確保したいところでしょう。
そのため、従来は最先端の技術を盛り込んだ仕様だったSシリーズの最新モデルも、スペックを少し控えめにし、戦略的に価格を抑えてきたと考えられます。
例えば、Galaxy S20シリーズには12GBと大容量のメモリを搭載していましたが、Galaxy S21シリーズでは8GBと縮小されています。8GBでもハイエンドスマートフォンとして十分な容量ではあるので、コストを削減するために控えめにしたといえる部分でしょう。
2021年版ハイエンドスマートフォンはコスパ重視になる?
ハイエンドスマートフォンの指標ともなり得るGalaxy Sシリーズがコスパを重視したことから、各社、2021年に発売するハイエンドスマートフォンが例年よりも安価な方向で開発される可能性が出てきました。
昨年ではありますが、10月に発売された「Google Pixel 5」は、従来であればハイエンドラインにもかかわらず、スペックを極端に盛り込むことなく、約8万円で販売されているように、「ハイエンドだけどコスパ重視」の端末は増えていくでしょう。
この「コスパ重視」の流れには、少なからず新型コロナウイルスの影響もあるでしょう。2020年第1四半期のスマートフォン出荷台数は前年同期比13%減、四半期当たりの出荷台数が3億台を下回ったのは2014年第4四半期以来初めてのことです。
【参照】新型コロナの影響でスマートフォンの世界出荷台数は激減、2014年第4四半期以来初めて3億台を下回る
未曽有のウイルスの影響で従来通りの仕事ができず、収入が減ってしまった人も多いでしょう。そのため高価な買い物であるハイエンドスマートフォンが売れにくくなっているとも考えられます。
2021年1月現在も猛威をふるい続けている新型コロナウイルス。各メーカーは、スペック重視のハイエンド仕様ではなく、コスパを重視して売れやすい端末を開発することに注力していくかもしれません。
“コスパ重視”でも進化しているGalaxy S21シリーズ
従来のモデルよりも価格を抑えているとはいえ、Galaxy S21シリーズは紛れもないハイエンドスマートフォンです。前モデル「Galaxy S20シリーズ」からもしっかりと進化しています。
高性能カメラ=高画素数の時代は終わり?
Galaxy Sシリーズといえば、高いカメラ性能が特徴的なスマートフォンです。2020年発売のGalaxy S20 5Gは12MP・12MP・64MPの3眼構成、S20+ 5GはここにVGAが組み込まれ、30倍ズームを搭載、S20 Ultra 5Gは108MP・12MP・48MP・VGAで100倍ズームを搭載しました。
Galaxy S21 5G/S21+ 5Gは12MP・12MP・64MPの3眼構成と数字的な変化は見られません。S21 Ultra 5Gは12MP・108MP・10MPですが、10MPの望遠カメラは2つ搭載されています。
2つの望遠カメラを搭載したことで、100倍ズーム時の画質も改善されるとのことです。
しかし、カメラ性能が進化していないというわけではありません。主に変わったのはAIによる処理性能部分で、例えばワンタップで複数パターンの動画が撮影できる「シングルテイク機能」には従来より5倍速いAI処理を導入しています。
また、ポートレート撮影においてもAIの力で背景・奥行きを確認し、より自然なぼかしを加えられるとのこと。手ぶれ補正にもAIの力が加わり、より安定した写真・動画の撮影ができるようになります。
2020年終盤から、カメラ性能は画素数勝負というよりもAIでどのように処理するか、主戦場が移りつつあるように感じます。
iPhone 12シリーズの圧倒的なポートレート性能やHUAWEI P40 Proの写りこんだ通行人を自動で削除する機能、Google Pixel 5が2眼レンズながらきれいな夜景が撮れるのもAIの力によるものです。
2021年も写真撮影という点では、各メーカーが“撮った写真をどうAIできれいに処理するのか”に注力していくでしょう。
コンパクトから大画面までそろうディスプレイ
S21 5Gは約6.2インチディスプレイを搭載。厚さ約7.9mm、幅約71.2mmと薄く細身なので、握りやすい仕上がりになるでしょう。コンパクトサイズのスマートフォンは、操作性・携帯性に優れているので根強い人気があります。
大画面スマートフォンがトレンドではありますが、「iPhone 12 mini」が発売されたようにコンパクトサイズのスマートフォンが増える可能性もあるでしょう。
一方、S21+ 5Gは約6.7インチ、S21 Ultra 5Gは約6.8インチとどちらも大画面。2021年はより5G通信が浸透していくと考えると、外出先でも気軽に高画質な動画を楽しむ人も増えるでしょう。そういったコンテンツをより楽しむための大画面化は自然な流れとも考えられます。
しかし、7インチを超える端末となると携帯性に問題が出てくるのも事実。それ以上のディスプレイを搭載する端末は、折りたたみといった工夫が必要になってくるかもしれません。2021年は折りたたみスマートフォンが各社から登場する可能性もあります。
また、Galaxy Sシリーズの大きな特徴でもあった、ディスプレイ左右が湾曲している「エッジディスプレイ」をGalaxy S21 5G/S21+ 5Gでは廃止。フラットディスプレイを搭載しています。
S21 Ultra 5GはSペンに対応!
これまでGalaxy Noteシリーズにのみ搭載されていた「Sペン」というタッチペンにS21 Ultra 5Gが対応しました。Noteシリーズでは本体にSペンが内蔵されていますが、S21 Ultra 5Gは別売りという形になります。
前述の通り、大画面スマートフォンは2021年もトレンドになっていくはずなので、タッチペン対応モデルや、Noteシリーズのようにタッチペンを内蔵したモデルが増えてもおかしくないでしょう。
5nmプロセスプロセッサを搭載
S21シリーズには「Snapdragon 888」もしくは自社開発の「Exynos 2100」というチップセットが内蔵されています。どちらも5Gネットワークに対応したチップセットで、5nmプロセスを採用しています。
iPhone 12シリーズに搭載されている「A14 Bionic」に、スマートフォンのチップセットとしては初めて搭載された5nmプロセスを、Galaxyもしっかりと追従した形。「Snapdragon 888」は今後様々なAndroidスマートフォンに搭載されることが発表されています。
5nmプロセスは省電力にも役立つので、バッテリーの持ち時間も必然的に長くなります。S21シリーズはS20シリーズとほぼ同じバッテリー容量(S21+ 5Gだけ300mAh増加)なのですが、実稼働時間は伸びるでしょう。
AIとチップセットの力で高性能・高処理能力化が進む2021年
Galaxy S21シリーズから見て取れるスマートフォンの進む道は、「画像処理を含めたAI処理能力の向上」と「チップセットの高性能化で処理能力や省電力機能が進化」をしながら、スペックを盛り込みすぎることなく、コスパにも注力していくといったところでしょう。
AIもチップセットもはたから見た数字だけでは判断しきれない部分です。今後の端末選びは、それぞれのメーカーの特色をしっかりとつかむことが重要になるかもしれません。
取材・文/佐藤文彦