■連載/大森弘恵のアウトドアへGO!
キャンピングカー市場が好調だ。
「キャンプ人気の上昇とともにキャンピングカーの販売は右肩上がり。レジャー利用がメインですが、リモートワークやワーケーション利用、防災のためにキャンピングカー購入を検討している人からの問い合せも増えています」と教えてくれたのはナッツの佐藤健一さん。
ナッツは福岡に本社を置くキャンピングカービルダーで、簡単に対面ダイネット(食事ができるダイニングスペース)を作れる軽キャンピングカー、ミニバンベースのバンコン、そして独自の充電システムを搭載したキャブコン(トラックベースのキャンピングカー)まで揃えた充実のラインナップと手厚いアフターサービスが評判だ。佐藤さんはナッツ愛知豊川店の店長で、作り手であると同時に使い手でありユーザーとしての経験も豊富。そこで“初めてのキャンピングカー購入”のヒントを教えてもらった。
案外小回りが効くキャブコン
キャンピングカーには軽キャンピングカー、バンコン、キャブコン、マイクロバスがベースのバスコン、運転席まで独自設計のフルコン、キャンピングトレーラーがあるが、いきなりキャブコンやバスコン、フルコンを運転するのはハードルが高い。
ところが佐藤さんによると、運転しやすそうだからと軽キャンピングカーやバンコンを購入しても、結局窮屈だったりベッド展開が面倒だったりで買い換える人が多いというのだ。また日常生活に使うからバンコンを選んでも、普段使いにはギャレーが邪魔な人もいるし、ハイエースのワイドボディだと狭い道での切り返しが大変。
「バンコン以上は大きくて運転しづらいイメージがありますが、多くのキャブコンのベース車両となっているカムロードは最小回転半径4.9m。フィットと同じなんですね。
一方、ハイエースは5m以上でスーパーロングだと6.3mになるものもあり、必ずしもバンコンが扱いやすいわけではありません」(佐藤さん)
▲写真はカムロードを用いた「クレソンジャーニー エボライト タイプW」(733万6000円〜)で大きく見えても小回りが効く
価格で比較すると、バンコンは400〜700万円、キャブコンは500万円〜900万円。
レジャー利用のキャンピングカーだからあまりに高額なのはためらうが、運転の楽さを考えると平日も休日もバンコン1台ですますより、日常の足のコンパクトカー+キャブコンの2台持ちのほうが実用的で、場合によっては購入価格がさほど変わらないという。
もちろん、キャブコンは背が高くて風の影響を受けやすいし、山道では上のほうにある枝に当たりそうになることも。高速道路をグイグイ走るというよりは焦らずゆっくり進む旅向きなので、それが好みじゃないという人もいるだろう。
「ナッツでは定期的に試乗会を開催していますし、全国にキャンピングカーのレンタルができる店が増えています。キャブコンにせよバンコン、軽キャンピングカーにせよ、一度自分でハンドルを握って運転操作性を確認。それから自分にあった装備を決めるほうがいいのでは」(佐藤さん)
その上で「今はバンコンで。いずれはキャブコンに」と考えているなら、最初からキャブコンを選ぶほうが、バンコン1台分の予算が無駄にならないともアドバイスする。
必要な装備、レイアウトは人それぞれ
キャンピングカーを購入しようと思ったら、Webメディアや雑誌で評判のキャンピングカーを調べ、比較する。軽キャンピングカーであっても200万円ほどするので慎重になるのは当然だ。
なかでもYouTuberの影響は大きく、佐藤さんによると有名YouTuberがすすめた車両は問い合せがぐんと増えるという。しかし「YouTubeや記事で勉強するのはいいんですが、それだけで車両を決める人が多いのが残念」とも。キャンピングカーはクルマであり家でもある。YouTuberが推薦するモデルが必ずしも自分のベストとはならないためだ。
「予算、家族構成だけでなく、ペットの有無、ライフスタイルによって必要な装備は変わります。YouTubeで見つけた気になる車両だけでなく、自分がキャンピングカーでどんな風に過ごすかのイメージを販売店に伝えれば、シート生地や床材選びからレイアウトまで、よりよいプランを提案してくれるので、それを比較検討しては」(佐藤さん)
「自転車を載せたい」、「第二の書斎に」というふんわりしたイメージよりも、「全国の友達に会いに行くから3泊以上の旅になる。山が好きなので夏のビーチにはいかないけれど冬はスキー場へ。仕事はしないけれど車内で映画をみてくつろぎたい。いざというときは避難場所としても使いたい」「いかにもキャンピングカーというよりはバンライフっぽいのが好み。荷物が多いし食にこだわりはないから、車内にギャレーがなくてもいい」など、イメージが明確なほど、使いやすいキャンピングカーに近づく。
以下、「ふじのくにキャンピングカーショー」で見つけた個性派キャンピングカーを紹介しよう。
▲ナッツ「クレア エボリューション5.3W」(754万5000円〜)。高断熱パネル、そしてエンジン停止時もバッテリー残量分家庭用エアコンを使える新電装システム“エボライト”を搭載しており、災害など長期にわたる停電時の避難場所としても役立つ
▲写真はオートワンの軽キャンパー「愛犬くん」(202万2446円〜)。ソーラーパネルのほかに、ケージの置き場所、ペットの洗い場を確保している
▲ハイエースベースのバンコン、カスタムワールドハタナカ「ラフィネ」(566万2400円〜)は、運転席側に寄せがちなギャレーを、運転席と助手席の後ろに装備。後部座席でゆったりすごせる。また、人工大理石を用いた調理台は広く、料理好きも納得の仕様だ
▲キャンピングカー長野「スペースキャンパーC」(498万円〜)はハイエースにウインドウエアコンを搭載。家庭用エアコンを装備する場合、室外機を床下に取り付けると泥汚れの心配があるが、ウインドウエアコンは室外機一体なのでその不安を解消している。カバーを取り付けるので雨の日の走行も大丈夫
キャンピングカーの寿命
乗用車は走行距離10万km、7年目や9年目の車検前に買い替えを検討するが、キャンピングカーの場合はどうなのだろうか。
「キャンピングカーの居住部分は装備が古くなってもリノベできるので、ベース車が動かなくなるまでが寿命です。手を加えながら10年以上乗っているユーザーさんは珍しくありません。20年前の中古車を買って、自分で内装に手を加えている若い人が増えていて、こうしたキャンピングカーの使い方もいいですね」(佐藤さん)
▲2007年、ホンジュラスのジャングルを走っていたランクル。当時、走行距離30万km以上でもまだまだ現役
▲家作りとともにクルマの知識も必要だが、車内を自分好みに作り変えればいつまでも新鮮
日本で10万km走ったクルマが輸出され、輸出先ではさらに20万km、30万kmと走り続けているので、メンテナンス次第で40万km、50万kmは乗れそうだ。
ただし、古い車両は新車よりも手がかかり、高速道路や外出先で不具合がおきる確率は高まる。トラブルに対応できる知恵がないと立ち往生して後続車や周辺住民に迷惑をかけかねないので、少しずつでもクルマのことを学ぶことでより長くキャンピングカーライフを楽しめる。
キャンピングカーは移動するためだけの道具ではない。
親子で使っていたキャンピングカーも、子どもが巣立てばベッドの一部を収納に変える。ペットを迎えればペットにやさしい床材や毛が付着しにくいシート生地に交換するといった具合に、家族のスタイルの変化とともに内装を変えてオンリーワンに育てることがキャンピングカーのおもしろさ。
今だけでなく5年後、10年後を想像することで、長く付き合えるとっておきの1台に出会える。
協力/ふじのくにキャンピングカーショー、ナッツ
取材・文/大森弘恵