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季節が切り替わるタイミングや年末に、「クリアランスセール」と書かれた広告を見たことはないだろうか。「クリアランス」はこのように「セール」とセットで使われることが多く、この場合は「取り払う、片付ける」の意味だ。
しかし、クリアランスには他にもさまざまな意味があるのをご存知だろうか。実はこの言葉、医療用語や建築用語としても使われている。本記事では、クリアランスはそもそもどのような意味なのかを解説した上で、業界ごとに異なる使われ方を紹介したい。
クリアランスとはわかりやすく言うとどんな意味?語源は?
“セール”のイメージが強いクリアランスだが、元々はどのような意味、語源を持っているのだろうか。はじめに、言葉の成り立ちと日本での使われ方を解説する。
クリアランスの語源は英語の「clearance」
クリアランスの語源である英語「clearance」は、「明るい、晴れた、澄んだ、はっきりした」などの意味を持つ形容詞「clear」に、名詞にする語尾「ance」を加えたもの。「片付け、(不要物の)除去、出港(認可)、通関(手続き)、清算」の意味で、要らないものをきれいにしたり、手続きを終了させるといったニュアンスで使われる。
日本では主に2つの意味で使われている
日本における「クリアランス」の意味は、大きく分けて2つ。一つは英語と同じように「片付ける、除去する」の意味で、冒頭で挙げた「クリアランスセール」もこれに該当する。
もう一つは、「隙間、間隔」という意味。あまり一般的ではない用法だが、専門用語としてのクリアランスは、この意味で使われることが多い。
ビジネスシーンでの使い方
ショップなどでは「今日からクリアランスセールを始める」といった表現でクリアランスを使用する。ここでのクリアランスは「片付ける」といった意味合いが強い。
また、建築業界などでは「クリアランスを広くとっている」などと使う。この時のクリアランスは「隙間、間隔」といったニュアンスが強い。
設計や医学など、業界ごとに異なるクリアランスの意味
では、専門用語としてはどのような意味で使われているのだろうか。先述の通り、専門用語の場合クリアランスは「隙間、間隔」の意味で使われることが多いが、その対象物が大きく異なっている点に注目してみよう。
建築・機械工業用語のクリアランスは隙間、余裕の意味
建築業界ではクリアランスが「隙間、ゆとり、余裕」の意味で使われる。大きな建物を建築する際、あらゆる建材を1mmの誤差もなく組み立てるのは不可能だ。そのため、設計上ある程度の誤差が認められており「誤差を吸収できるよう設けられた隙間やゆとりのこと」をクリアランスと呼ぶ。
また、建材として多く使われるコンクリートは熱や熱気で伸縮を繰り返す性質があり、クリアランスがないと周りの建材を傷め、ヒビ割れなどの原因となってしまう。こうした熱膨張もクリアランスを設ける一つの理由で、外壁や屋根といった多くの場所で用いられている。
なお、機械工業用語としては「可動域における隙間」「遊びの部分」といった意味で使われることが多い。
車の機能の1つ「クリアランスソナー」は安全をサポートする設備
テクノロジーにより、近年ますます車の機能が充実してきている。「クリアランスソナー」もその一つ。物体に超音波を発射し、反射して戻ってくるまでの時間で、車とその物体の「隙間」、つまり距離がどのくらいあるのかを測定する装置だ。
障害物が近づくと運転席のディスプレイ表示やブザーで知らせてくれるため、気づきにくい死角の障害物などの事故の原因になりそうな物をあらかじめ回避できる。
「ブレーキの踏み間違えサポート」や車線をはみ出さない「操作サポート」などの機能がついているものもあり、運転に自信のない人や高齢者からの人気が高い。
医療では尿中に排泄する能力の大きさや歩行に関する言葉を指す
医療用語として使われるクリアランスは、「血漿(けっしょう)クリアランス」とも呼ばれ、「腎臓が1分間にどれくらいの血漿を浄化できたか」を示す値を意味する。腎臓は、血液中の尿素窒素やクレアチニン、尿酸といった老廃物を濾過し、余分な水分と一緒に尿として排出する役割を担っているが、この値が低いと腎臓機能が正常に機能していない可能性がある。
また、リハビリ現場では「トゥクリアランス」という言葉が使われており、これは歩行時の「つま先から床までの距離」を意味する。トゥクリアランスが低いと、それだけつま先が床に近い所にあることになり、つまずきや転倒の原因となる。高齢の方、脳卒中や脳梗塞の患者によく見られる。
薬学では「薬物を排出する能力」のこと
薬学におけるクリアランスは、体内に入った薬物を排出する能力、つまり「単位時間あたりどのくらいの血液を処理できたか」を指し、「全血液量×処理能力(割合)」の式で表される。
薬物を体内から除去するために重要な臓器は、肝臓と腎臓。肝臓クリアランスと腎臓クリアランスを合計したものを「全身クリアランス」と呼ぶ。
歯科用語としてのクリアランスは歯を入れるスペースのこと
歯の治療の際、クラウンやブリッジといった人工の歯を被せることがある。この時の「歯の上下のスペース」をクリアランスと言う。
クリアランスがしっかり確保できている場合、被せた歯の高さが維持しやすくなり取れにくくなるが、クリアランスが少ないと維持力が下がり取れやすくなってしまう。そのため、クリアランスを正確に計測するための「クリアランスゲージ」という器具が存在する。
航空業界では航空機に与えられる許可のこと
航空業界における「クリアランス」は、航空管制官が航空機に与える許可のことを指す。飛行機がIFR(計器飛行方式)で飛行するにはフライトプランを提出しなければならない。このフライトプランが管制機関に承認されていることを確認するための許可が「クリアランス」だ。
また、航空機が着陸する際にも「クリアランス」が必要となり、これらの許可を得ることで、航空機は安全に運行することができる。
文/oki