仕事、地域、住居選びは、地方移住計画の核ともいえる3大要素。そこで地方移住経験者でもあるファイナンシャルプランナーに直撃。地方移住で得するテクニックを伝授する。
FP事務所f-design
代表 清水 斐さん
新築や空き家購入は後回し。〝まずは賃貸〟が正解!
東京から地方へ移住することで、生活費が下がると期待している人は多いはずだ。しかし、実際はほぼ平行線。物価の差はほとんどなく、前述の教育費のように出費が増えてしまうケースも少なくない。そんな中、唯一コストが下がると話すのが住居費だ。
だが、そこに落とし穴がある。
「いくら憧れの一軒家が安く買えるからといっても移住と同時に新築や中古物件などを購入するのはおすすめしません」と清水さん。
懸念点は大きく2つある。ひとつは、収入が低くなる可能性のある移住者にとって、金額の大きな買い物自体がリスキーであること。そして、地域に対する理解が不十分であることを指摘する。
「移住者の失敗談としてよく耳にするのが、なじみの薄い山奥に理想の家を新築するケースです。そもそも地方と都会では、必要な間取りや設備が異なります。都会で過ごすのと同じ感覚で家を建ててしまうと、四季の変化に対応できず、結局、余計なコストをかけてしまうことになります。思い切って手放すにしても、地方は不動産の動きが鈍いため、売るに売れない状況に陥る可能性も少なくありません。それは住居として利用するために改修を前提とする空き家の購入にも同じことがいえます」
中には改修を必要としない空き家もあるが、立地条件など、住みやすいかどうかは実際に住んでみないと分からない。
もちろん、裏技はある。
「地方に買い手がつかずに、売り物件が放置されていることもあります。そういった物件を狙って〝気に入ったら購入するので、賃貸させてくれないか?〟と不動産屋さんに相談してみてください。都会ではあり得ない話に聞こえますが、物件を遊ばせておくくらいなら…
…と、大家さんに交渉してくれることもあるんですよ(笑)」
移住直後は何かと生活の変化を強いられることもある。予算を抑える意味でも、地方移住は賃貸物件からスタートするのがベター。どうしても物件を購入したい場合は、少なくとも1年間は暮らして四季の変化を肌で感じるなど、移住先への理解を深めてから物件取得に動く。これが住居探しの正攻法だ。
住居探しの3つのポイント
【1】移住生活は賃貸から。売り物件に掘り出し物アリ!
【2】改修が必要な空き家の購入は慎重に検討すべし
【3】不動産相場や移住先の雰囲気を理解したうえで物件を取得すべし
住居探しで得をする自治体制度の実例
定番は新築費補助。茨城県境町のように特定年数住み続けると家と土地がもらえるなどお得感の強い制度も!
住宅取得支援
●愛知県設楽町
中学生以下の子供がいる世帯または夫婦の年齢の合計が80歳以下の世帯は
住宅新築費の一部として最大500万円補助
●愛媛県東温市
居住を目的に市内の空き家バンク制度登録物件を成約した場合
改修工事などの費用を最大500万円補助、清掃などに対する費用を最大20万円補助
家賃助成
●香川県
新規転入者が県内の民間賃貸住宅に住む場合
最長2年間、家賃の一部として月額最大2万円
さらに礼金や仲介手数料を最大6万円助成
●長崎県諫早市
複式学級のある小学校区へ新規転入した世帯は
賃貸住宅家賃や改修費、引っ越し費用などを1世帯当たり最大150万円支援
土地取得支援
●栃木県那須郡那珂川町
1世帯2人以上の新規居住者は住宅用地を20年間無償貸与
さらに家屋の固定資産税相当額を3年間交付
●茨城県境町
町内所定の新築戸建て賃貸住宅に町外からの新規転入者が
20年間住み続けると土地・建物を無償譲渡
ふるさと体験支援
●長崎県松浦市、岐阜県揖斐川町など
最大30日間住居費無料で現地に滞在できる!
●新潟県糸魚川市
SNSなどで体験情報を発信すれば最大5万円支援
●秋田県大仙市、秋田県小坂町など
移住体験ツアーへの参加経費として最大5万円補助
※掲載した制度は2020年8月現在のものです。適用条件などの詳細は各市町村の担当窓口にご確認ください。
東京都から神奈川県逗子市へ移住した先輩移住者のホンネ
ライター 廣田俊介さん
一生に一度の決断だからこそじっくり選ぶべきだと感じました
コロナ禍で逗子へ移住しました。まず驚いたのは、物件の安さ。東京から1時間でアクセスできるのに、物件の販売価格は都内の何と約3分の1! ただ、引っ越し時期を先に決めていたため、物件の選定やリフォーム内容をじっくりと検討できなかったことが唯一の心残り。『移住したらSUP(サップ)を始めよう』と思っていたのですが、物件のほかに家具や家電などの費用が予想以上にかさんでしまい……。しばらく我慢の時期が続きそうです(笑)。
取材・文/渡辺和博、廣田俊介