■連載/石川真禧照のラグジュアリーカーワールド
フェラーリのスポーツカーといえば、近年ではV8エンジンのミッドシップ2シータースポーツを思う人も多いだろう。しかし、真のフェラーリのロードカーは、12気筒のフロントエンジン、リアドライブだ、というマニアも存在する。というか、かつてはFRの12気筒こそフェラーリだった。中でも「スーパーファスト」という名称は「スーパーアメリカ」「テスタロッサ」と並ぶ12気筒シリーズのトップモデルだった。
その名称が久々に復活した。V12エンジンはフェラーリのプロダクション、エンジン史上最強の800馬力を発生する。ロングノーズ、ショートデッキのプロポーションも、FRフェラーリ独特のプロポーションだ。
日本市場には2017年初夏に発表されたが、当時の価格は3910万円(税込み)。さすがのフェラーリも「812スーパーファスト」の試乗車だけは、ドライバーを選別し、テストドライビングを許可している。
インプレッション
このクルマの試乗ほど、天気が気になったクルマは、最近ではなかった。何しろ、800馬力を後2輪で駆動するのだ。路面が濡れていたら、低速域でのシフトアップやアクセル全開なんて、その場でスピンは確実。さすがにビビッていたが、日頃の行ないのよさ(?)のおかげで、路面はドライ。目の前の「812スーパーファスト」は、フェラーリが初めて市販車を発表した時から、70周年を迎えた記念に開発された新色だった。外装はRosso70Anni(レッド)、インテリアはCharcoal(ダークグレー)を採用している。
ドライバーズシートに座る前に、ボディーをチェックしてみる。フロントからアンダーボディーに設けたアクティブフラップなどの「エアロ・デバイス・クラスター」が目につく。サイドに回り込むと、フロントホイールハウスとドアの間に大きなエアアウトレットが備わる。サイドからテールにかけても、エア吹き出しをフェンダーとリアウインドウの間の平らなところに設置するなど、空力とデザインを他車とは異なる視点から融合されているのが新しく、迫力もある。
ドライバーズシートに座ってみる。着座位置をやや高めにセットすると、長いボンネットが見える。但し、傾斜したフロントウインド上端で、やや圧迫感もある。ハンドルスポークにあるスタータボタンを押すと、V12、6.5Lエンジンが瞬時にかかり、ビル地下の駐車場に、咆哮が響きわたる。ボリュームは大きい。
7速ATのミッションは、センターパネルのボタンとパドルシフト。「AUTO」ボタンを押し、アクセルを踏みこむと、800馬力のモンスターは意外なほど素直にスタートした。D1からシフトをしていく。目の前のエンジン回転計は2000回転あたりを示しているが、ミッションは次々とシフトアップ。60km/hで7速に入ってしまった。ブレーキはやや重めだが、ツマ先でペダルを踏めばググッと効く。長いボンネットは車幅をつかみやすいし、街中でも乗りやすい、といったら、信じてもらえるだろうか。
センターパネルのシフトスイッチはR(リバース)、AUTO、LAUNCH。LAUNCHはトラックモード。さらにハンドルスポークのダイヤルはESCオフ、CTオフ、レース、スポーツ、ウェットの各モードが選択できる。
高速道路に入り、100km/hで巡航する。7速2200rpm、6速2800、5速で3600回転を示す。このあたりの走りは、エキゾースト音も大きくなく、平和なクルージングができる。7速1200回転からでも加速する。むしろ2000回転以下のほうが、ボワボワッとこもり音が大きめ。
やはり6.5L、V12エンジンを楽しむには、4000回転以上をキープしなければ、楽しめない。公道ではかなり覚悟が必要だ。スポーツモードを選択し、スタートする。アクセルを踏みつけ、後輪のグリップ限界を感じながら加速する。目の前の大きなエンジン回転計の針が勢いよく上昇する。レッドゾーンがはじまる9000回転目前の8600回転でリミッター作動。それにしても公道上でも0→100km/h加速は3秒台。ドイツのアウトバーンでもイタリアのアウトストラーダでもその実力を試すのは勇気が要る性能だ。
スポーツモードでもハンドリングはスパルタン。60km/h前後でハンドルを切るとかなり重く、抵抗がある。切り戻しも少ないので、コーナーでは忙しい。これがコーナーに入ると今度は戻しが強くなり、ハンドルと格闘することになる。V12フェラーリは男のスポーツカーなのだ。
とはいうものの、街中でも気難しさはなく、ジェントルに走ることもできるのが、魅力でもある。2021年春には一昨年に本国デビューしたオープンルーフの「812GTS」も上陸する。そのレポートも近いうちにお届けする予定だ。
■関連情報
https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/812-superfast
文/石川真禧照 撮影/萩原文博 動画/吉田海夕