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「IR(アイアール)」と聞いて、まず何をイメージするだろうか。略語であるこの言葉、実は使われる場面によってまったく違う意味になる。
そこで本記事では、「IR」と略される言葉の種類、日本で使われる代表的な3つの意味について詳しく解説する。シーンごとに、どの意味で使われているのか見極めて欲しい。
IRとはさまざまな意味を持つ略語
まずは、どれだけ広い分野で「IR」の言葉が使われているか紹介しよう。
化学分野
例えば化学分野では、元素「/Iridium」を表す記号として「Ir」が用いられていることは有名だ。また、合成天然ゴムの一種であるイソプレンゴム(Isoprene Rubber)や、赤外線(Infrared)も「IR」と略されることがある。
航空業界、その他
さらに、航空分野では中東のイラン(Iran)の国名コード、イラン航空(Iran Air)の航空コードとして「IR」が使われる。他にも「情報検索(Information Retrieval)」「中間表現(Intermediate Representation)」「国際政治学(International Relations)」「インターネットランキング (Internet Ranking)」など、英語の頭文字が「I」と「R」で構成されるている言葉の多くがIRと略されている。
「いしかわ鉄道(Ishikawa Railway)」のように名称が略される例もあるため、今後も身の回りで「IR」が増えていく可能性がありそうだ。
これほどたくさんの意味を持つIRだが、日本では主に以下の3つの意味で用いられるケースが多い。
1.企業の投資家向け広報活動(investor relations)
2.大学におけるIR(Institutional Research)
3.統合型リゾート(integrated resort)
1.インベスター・リレーションズ(investor relations):企業と投資家との関係
企業サイトでよく見かけるIRは、一般的に「インベスター・リレーションズ」を指す。直訳すると「投資家との関係」 で、投資家向けの広報活動のことだ。
PRとIRの違い、同じ広報でも目的が異なる
広報と聞くと、「PRと何が違うのか?」と疑問に思う方もいるかもしれない。PRは「Public Relations」の略で、公衆(Public)に向けられたもの。一般消費者を含む社会全体に向け、企業が行う広報活動のことだ。企業が社会から理解や賛同を得るのことが目的のPRは、良いイメージに繋がる情報が積極的に発信されるケースが多い。
一方IRは、企業が投資家や株主らとの信頼関係を築くためのもの。信頼を得るために、業績や財務状況、経営方針などについて、リスク情報も含めた開示が行われる点がPRと異なっている。
IR活動の実態
元々は投資家や株主など、主に自社株の評価に関わる人に対しての活動を目的としていたIR。そのため、開示される情報(IR情報)は「企業のありのままの姿」により近いとも言われる。近年では、就活生が企業を選ぶ際の”基準の一つ”とするケースも増えているようだ。
日本IR協議会の第27回「IR活動の実態調査」(2020年5月)によると、「IR 活動を実施している」と回答した企業は全体の98.1%にも及んでいる。(回答企業1,047社)
【参考】日本IR協議会>調査・研究
会社の決算とIRの関係
IRは先述の通り、企業が投資家や市場アナリストに対して、自社の財務状況、経営戦略、業績予測などの重要情報を発信する活動だ。
特に決算情報の共有はIR活動の中心を成しており、企業の透明性と信頼性を高める上で重要な要素の一つ。決算発表を通じて、企業は過去の業績を公表し、将来のビジョンや戦略について投資家とコミュニケーションを図る。この過程は、投資家がその企業の株式を保有するか、新たに投資するかを決定する際の基礎情報を提供することになる。
IRの効果的な実施は、企業価値の向上に直接関連している。透明で正確な情報提供は、市場の信頼を獲得し、株価の安定や投資家からの資金調達の容易化に繋がるからだ。
また、定期的な決算報告やIR活動を通じて、企業は市場の期待を管理し、企業と投資家間の理解のギャップを埋める機会を持つことができる。さらに、投資家フィードバックの収集は、経営戦略の調整や事業運営の改善にも役立つ。
IRとCSRとの違い
IRと同様、目にする機会の多い「CSR(Corporate Social Responsibility)」という言葉。IRは企業と投資家間のコミュニケーションを意味し、財務情報や経営戦略の透明性を高めることで投資家からの信頼を獲得し、企業価値の向上を目指すことが目的だ。
一方、CSRは企業が「社会的責任」を果たすことを指し、環境保護、社会貢献、倫理的経営など、利益追求のみならず社会全体の利益を考慮する活動のこと。IRは経済的価値の創出に重点を置いているが、CSRは社会的価値の創出に焦点を当てている点に違いがある。
2.大学におけるIR(Institutional Research)
「大学IR」とは、教育や研究、経営や財務など、大学運営に関するあらゆる情報の収集・分析する活動、もしくはそれらを担当する部署を指す。
アメリカやカナダは大学にIRの部署が設けらていのが一般的だが、日本では近年ようやく注目されるようになったばかり。文部科学省が大学に対し「学修成果の可視化と情報公開」を求めていることからも、大学におけるIRは今後も加速していきそうだ。
また、少子化が進む今、大学においてもいかにIRを活用し、魅力ある運営に繋げられるかが、生き残りのカギとなるかもしれない。
3.統合型リゾート(integrated resort)
2016年12月に成立した「IR推進法(通称「カジノ法案」)」。ここで使われるIR(integrated resort)は、「カジノを含んだ統合型リゾート」を指している。では、そもそも「統合型リゾート」とは何だろうか。
IRは「カジノを含む統合型リゾート」
ここでいう「IR」は、シンガポールがカジノを導入する際に広く知られるようになった言葉で、「カジノを含んだ統合型リゾート」のこと。
カジノばかりが注目されがちだが、ベースはMICE施設(国際会議場や展示施設など)をはじめ、ショッピングモールやホテル、劇場、スパなど、家族連れでも楽しめるエンターテインメント・リゾートだ。国内外から多くの集客が期待できるIRの存在は、地域の活性や再生をもたらすと期待されている。
世界のIR
カジノ都市を代表するラスベガスには多くのIRが存在するが、中でも世界最初のカジノホテルとして知られる「フラミンゴ・ラスベガス」が有名だ。
また、アジアでは近年トレンド産業としてIRが注目を集め、世界一のカジノ売上を誇るマカオでは、カジノによる税収が歳入の80%を占めるという。シンガポールでは、新たな2つのIRが開業したことにより「観光収入が倍になった」という例からも、導入を検討する国が増えるのも頷ける。
日本が目指すIR
日本がIRの導入によって目指すのは、「外国人観光客の集客」と「地域活性化」。主な候補地は、東京、神奈川、愛知、大阪、和歌山の5都市で、中でも横浜と大阪が有力候補となっている。オープン時期は2029年頃を目指しているが、計画の進捗や開業時期については、状況に応じて変化する可能性がある。
文/oki