トラッキングは、「追跡する」「分析する」という意味を持つ言葉。専門用語として使われることが多く、あまり聞き慣れない人もいるかもしれないが、実はスマホや家電製品といった身近なものとも関連がある。
本記事では、トラッキングの正しい意味や使用例を解説する。なんとなく意味を理解している人も、改めてトラッキングについての理解を深めてほしい。
トラッキングとはどんな意味?
はじめに、トラッキングという言葉の語源について見ていこう。ちなみに、よく似た言葉に「trucking」という英語があるが、こちらは「トラック輸送」や「取引」のことを指し、今回取り上げるトラッキングとは意味が異なる。
トラッキングは「追跡」「軌跡」を表す英語が由来
日本で使われているトラッキングは、英語の「tracking」が由来。「(人や車などが)通った跡」「軌道」「通り道」という意味を持つ「track」に「ing」をつけた単語で、「追跡」や「軌跡」と訳される。後述するが、日本ではここから派生しさまざまな分野で専門用語としても使われている。
iPhoneに表示される「トラッキングの許可」は何を意味する?
iPhone、特にiOS14搭載の端末ユーザーなら、アプリやネットを利用する際に「トラッキングを許可する」という表示を目にしたことがあるはず。この場合のトラッキングとは「情報収集や分析のためにユーザーのデータを追跡すること」を指している。
トラッキングを許可すると、過去の利用履歴に基づき、自動的に最適な広告やニュースが表示されるようになる。興味のない情報が表示されないメリットがある反面、プライバシー保護の観点からの課題もあるようだ。
トラッキングを拒否したい場合は、デバイスの設定である程度の制限が可能だ(なお、Android端末でもアプリ単位でトラッキングの設定が可能)。ただし、サイトに登録したユーザーIDやパスワードが自動的に記憶されなくなるなど、トラッキング拒否により手間が増えることもある。
漏電の原因になるトラッキング現象とは?
コンセントや配電盤が漏電して起こる火災を「トラッキング火災」と呼ぶ。電源プラグとコンセントの間に溜まったホコリが湿気を帯びることで、プラグの刃の間に微量の放電が起こり、その熱がコンセントの絶縁部を溶かし、さらに大きな放電を起こしてしまうことが原因だ。
これをトラッキング現象と言い、刃の間に電気の道、つまり「トラック」ができることに由来する。湿度が高い場所では、長時間コンセントを指しっぱなしにせず、まめに水気を拭き取りホコリが溜まらないようにしておこう。
専門用語として使用されるトラッキングの意味
ここからは、専門的な分野で使われているそれぞれのトラッキングの意味を紹介する。どれも元となっている言葉は同じだが、業界によって意味が異なる点は覚えておきたい。
カメラ、映像分野におけるトラッキング
カメラ用語として使われるトラッキングは、自動的に特定の被写体を追尾する機能のことを指す。予測できない動きをする子供や動物を撮影する時に有効な機能で、一眼レフをはじめとしたハイエンドカメラに搭載されている。
また、映像分野では、CG映像を実写映像と重ね合わせる際、実写映像を撮影したカメラの動きを検出することを指す。
機械工学で使われるトラッキング制御とは
機械工学で用いられている「トラッキング制御」は、ある特定の信号を「追跡して合わせる」ための技術のこと。例えば、CDやDVDを再生する際、データが書き込まれている所(track)をヘッドが自動的に読み取れるように、この技術が活用されている。一部の車で実装されている自動運転システムも、トラッキング制御を活用している代表例の一つだ。
医療分野で使われるトラッキングとは
人工血管やペースメーカーのように、病気の治療のために体内に埋め込まれた医療機器を「特定医療機器」という。これらの機器に不具合が生じた場合、患者の生命にかかわる事態が予測されるため、医療機関は迅速に対応しなくてはならない。そのため医療機関では、特定医療機器の利用者の連絡先情報などを記録・保存しておくことが義務付けられている。利用者を追跡する(track)ことから、これらを「トラッキング制度」と呼ぶ。
教育におけるトラッキングシステムとは
教育の分野で使われているトラッキングは、生徒を学力別にクラス分けし、それぞれに異なる授業や指導を行う手法を指す。元々はアメリカの中等教育研究で使われていた言葉で、日本においては入試の難易度による高校の序列を表すことが多い。
学力レベルが近い生徒が集中するため、効率的な授業が行えるという利点もあるが「進学校の生徒はみんな大学に行く」「難易度の低い学校の生徒は就職するのが当然」のように、レベルによってレッテルが貼られてしまい、そこに所属する生徒たちの間で社会的格差が生まれやすくなる問題も指摘されている。
文/oki