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正しい敬語を使うことは、社会人としての基本です。
しかし、実際には使い方が紛らわしく、誤って使われることが多い言葉もあります。今回はそんな言葉の一つである『僭越ながら』の正しい意味や使い方、さらに英語での表現方法について紹介します。
「僭越ながら」「僭越ですが」の意味は?
敬語には『尊敬語』『謙譲語』『丁寧語』の3種類があり、日本語のネイティブスピーカーでも正しく使い分けるのは難しいものです。
自分では正しく使っているつもりでも、実は誤った使い方をしていて、思わぬところで恥をかくことがあります。
その中でも『僭越ながら』という言葉は、パーティーや結婚式でのスピーチなど人が集まる場でよく使われます。そうしたお祝いの席での間違った言葉づかいは特に失礼にあたるため、注意が必要な敬語の一つです。
「失礼ながら」「身の程をわきまえず」という意味
『僭越』には、自身の立場をこえた発言や態度をとるという意味があり、「失礼ながら」「身の程をわきまえず」という場合に使われる言葉です。
『僭』には、「おごる(思い上がった振る舞いをする)」「目上の人を軽んじて振る舞う」「誇張した表現をする」などの意味があります。『越』の意味は、「物事の範囲・程度をこえる」「順序をふまないで進む」といった意味です。
つまり、『僭越ながら』という言葉は「自分の身分・地位をこえて出過ぎたことをする」という意味で、派生して「出過ぎた態度をとる」という意味を含んでいます。
結婚式のスピーチなどで『僭越ながら』という言葉を使った場合は、『若輩者が諸先輩方を差し置いて、一段高い場所からスピーチなどをして申し訳ありません』といった気持ちを表しているのです。
類語は「厚顔ながら」「及ばずながら」など
『僭越ながら』には、いくつかの類語があります。代表的な言葉は以下のようなものです。
- 厚顔ながら
- 厚かましいですが
- 生意気ですが
- 及ばずながら
- 出過ぎたことですが
- 失礼を承知の上で
- 恐縮ながら
- 微力ながら
- 恐縮ですが
これらの類語は『僭越ながら』と同じ意味を持っていますが、『僭越ながら』より比較的柔らかい印象を与える言葉が多いです。その場の年齢構成や自分の立場、シーンに合わせて上手に使い分けるようにしましょう。
正しい使い方とふさわしいシーン
冒頭で説明したように、『僭越ながら』は自分を下げて相手を立てるときに使う言葉です。ビジネスシーンなどで上手に使いこなすことができれば、相手に好感を持ってもらいやすくなるでしょう。
ここでは、『僭越ながら』の正しい使い方をシーン別に紹介します。
手紙、ビジネスメールで
ビジネスシーンの中で『僭越ながら』という言葉を使うときには、枕詞のように前置きの形で使われることが多いです。
その後に続く言葉の印象を和らげることができるので、断りのメールを送るときなどに適しています。
具体的な使い方は以下の通りです。
【例文】
- 僭越ながら、書面をもちましてご挨拶とさせていただきます
- 僭越ながら、今回いただいたオファーはお断りさせていただきたく存じます
- 僭越ながら、いくつか気になった点がございましたので、確認させていただきます
結婚式など乾杯の音頭
『僭越ながら』は、結婚式などの乾杯の音頭で使われる決まり文句の一つです。スピーチ冒頭に使うことで謙遜の姿勢が伝わるので、上手に取り入れてみましょう。
例えば、以下のように使ってみてください。
【例文】
- ご指名をいただきましたので、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます
- 僭越ではございますが、お二人の健康と幸せを願って、乾杯の音頭をとらせていただきます
- 誠に僭越ながら、親族を代表してご挨拶させていただきます
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意見を述べる場面で
『僭越ながら』『僭越ですが』というフレーズは、上司や目上の人に自分の意見を言いたいときにも使えます。
自分の立場をわきまえている印象を与えられるので、反対意見を主張するときなどに使えば、相手の抵抗感を和らげられるでしょう。
以下のような言い方で使ってみてください。
【例文】
- 誠に僭越ではございますが、こちらの提案がふさわしいと考えます
- 僭越ながら、私からも意見を述べさせていただきます
「僭越ですが」を使う際の注意点
『僭越ながら』をはじめとする敬語を使う際には、過剰に丁寧になり過ぎて慇懃無礼になり、かえって失礼な印象を与えないように注意しましょう。敬語を使うタイミングや頻度を間違えると、逆効果になってしまう場合があるのです。
ここでは、『僭越ですが』を使う際の注意点を紹介していきます。
日常会話には適さない
『僭越ですが』という言葉は、ビジネスの場や結婚式のスピーチ、乾杯の音頭といったシーンで使われていることでも分かるように、フォーマルなフレーズです。
そのため、カジュアルな日常会話にはあまり適さない言葉です。
もし、日常会話で『僭越ですが』といったニュアンスを伝えたいのなら、類語である『恐縮ですが』といった言葉に置き換えた方が、自然な会話になるでしょう。
嫌味な言い方にならないよう注意
『僭越ですが』は、自分の身分・地位をこえて出過ぎたことをすることをする場合に用いられる言葉です。
そのため、周囲から出過ぎていると思われない立場の人が使うと、かえって嫌味な言い方になってしまいます。
結婚式でスピーチするのにふさわしい立場の人が使ったり、会議で自分の意見を発表するのが当たり前の立場の人が使ったりすると、周囲は「なぜ、わざわざそんな言い方をするのか」と感じてしまうでしょう。
立場・肩書きを踏まえて使う
『僭越ですが』を使う際は、その言葉を聞く人の立場や権限、肩書きに注意して使う必要があります。
例えば、社長が部下の結婚式の乾杯の音頭をとる際、肩書きからすればその場を仕切って当然なので、『僭越ですが』というフレーズを入れるのは誤りです。
また、会社の会議で上司が部下に自分の意見を伝える際も、上司は会議の中心となるべき立場であるため、『僭越ですが』と言う必要はありません。
英語で表現する方法
よく、『英語には敬語が存在しない』といわれます。確かに、謙譲語のように自分を下げて相手を立てる言い回しはほとんどありません。
しかし、英語でも日常会話とフォーマルな場では言葉の言い回しには違いがあるのです。
そこで最後に、『僭越ながら』の持つニュアンスを英語ではどのように表現するのか、二つの事例をあげて解説していきます。
「With all due respect~」
ビジネスシーンなどで使える『僭越ながら』に近いニュアンスの英語表現の一つが、『With all due respect(お言葉ですが)』です。
この表現の直訳は『然るべき敬意を持って』で、意訳すると『あなたの考えには敬意を持っていますが』という意味になります。
相手の意見を尊重しつつ、自分の意見を述べたいときに使えます。とりわけ、反対意見などを伝える際の冒頭に入れると効果的です。
「I do not mean to be rude, but~」
もう一つの『僭越ながら』に近いニュアンスの英語表現に、『I don’t mean to be rude, but(無礼を承知で申し上げますが)』があります。
『失礼なことを言うつもりはないのですが』という意味があり、自分の意見で相手が傷つく可能性がある場合に使うと、相手からの反感の緩和が可能です。
『With all due respect』が相手に反論する場合に使われることが多いのに対し、『I don’t meant to be rude, but』は賛成・反対のどちらにも使えます。
構成/編集部