
京都にある長寿の町では「発酵性食物繊維」という食物繊維を含む食品がよく食べられているらしい。この町で暮らす人々はインフルエンザや肺炎になった経験も少ないという。そう聞くと、ますます気になってくる発酵性食物繊維。いったいどんなものなのか? 摂取できる食品は? 長寿腸内細菌「酪酸菌」研究の第一人者、京都府立医科大学 消化器内科学教室 准教授の内藤裕二先生の見解を紹介する。
発酵性食物繊維を多く摂取する京丹後市はインフルエンザが少ない
「我々は、京都府の京丹後市の高齢者を対象に長寿の研究を行っています。男性長寿世界一のギネス記録をもつ故・木村次郎右衛門さん(享年116歳)が暮らした地域で、100歳以上の高齢者の割合が全国平均の約3倍です。しかも、寝たきりではなく健康な高齢者が多く暮らしています」と内藤先生は述べている。
その高齢者の割合が高い理由にはどんなことがあるのか?
【取材協力】
内藤裕二先生
京都府立医科大学 消化器内科学教室 准教授
同附属病院内視鏡・超音波診療部 部長
消化器病学の専門家として最先端の研究を行う傍ら、臨床の場で30年以上にわたり5万人以上を診察した経験。長寿腸内細菌として知られるようになった「酪酸菌」研究の第一人者。
「京丹後市でよく食べられている食品には発酵性食物繊維が多く含まれており、在住高齢者の腸内細菌には酪酸を産生する菌が多いことがわかっています。そして、昨年行ったアンケート調査では、『インフルエンザに罹患したり、肺炎で入院したことがありますか?』という質問に、『はい』と答えたのは、わずか1.6%でした」
発酵性食物繊維とは、腸内で発酵しやすい食物繊維のことを指し、小麦ブランに含まれる「アラビノキシラン」、大麦に含まれる「βグルカン」に代表されるものだ。
発酵性食物繊維は免疫細胞の活性化に関係している
発酵性食物繊維と長寿とはどのように関係しているのか。内藤先生は次のように述べている。
「最近の研究では、発酵性食物繊維を多くとると、『CD8+』というT細胞が増えることがわかっています」
そもそもT細胞とは免疫細胞の一種。その中でもスナイパー的に働くエリート細胞であるキラーT細胞は「CD8+」というT細胞が変身して登場するという。つまり、発酵性食物繊維はキラーT細胞を活性化する働きがあるということだ。
それだけでなく、発酵性食物繊維は他の免疫システムにも働きかけを行うという。
「発酵性食物繊維は大腸の奥で発酵し、短鎖脂肪酸を産生します。この短鎖脂肪酸は、免疫抗体IgA、IgG抗体産生を活性化することが海外の研究でわかっています」
IgA抗体とは口の中や腸の粘膜に存在し、体の中に細菌やウイルスの侵入を防いでいる。IgG抗体とは、感染症でメインに働く抗体のこと。
発酵性食物繊維は免疫細胞の活性化にかかわっているということだ。
長寿の町では「大麦ご飯」「玄米ご飯」が多く食べられている
ところで、京丹後市でよく食べられている食品には発酵性食物繊維を含むというが、どんな食品なのか。
「『大麦ご飯』『玄米ご飯』などの全粒穀物がよく食べられていました。また、京丹後市の郷土料理を調べたところ、全粒穀類のほか『ひじき』や『わかめ』などの海藻類といった、発酵性食物繊維を含む食品を多く摂取していることがわかりました」
発酵性食物繊維を含む市販食品
「小麦ブランや大麦で発酵性食物繊維を摂取することで、腸内で短鎖脂肪酸が産生され、免疫細胞を活性化させます。毎日食べることが好ましいです」と内藤先生。
発酵性食物繊維を日頃の食事に取り入れたいものだ。
市販の食品の例を見ていこう。
1.小麦ブラン製品
小麦ブランとは、小麦の中でも、最も食物繊維が豊富といわれる外皮(ブラン)を主原料にした食物繊維のこと。牛乳やヨーグルトをかけて手軽に食べられるので、毎朝の習慣にするのもよさそうだ。
2.もち麦製品
もち麦は、大麦の一種で、粘り気の強いもち性を持つもの。ごはんと一緒に炊いたり、レトルト製品をごはんにそのままかけて食べたりできる製品もあるので、続けやすい。そのもちもちした食感で、食べ応えも得られる。
3.スーパー大麦「バーリーマックス®」を使用した製品
スーパー大麦「バーリーマックス」とはオーストラリア発の新種の機能性大麦で、食物繊維と難消化性でんぷんを多く含む。このスーパー大麦「バーリーマックス」を使用した製品は多く販売されており、例えばコンビニおにぎりなどは手軽にランチなどに取り入れられそうだ。
長寿の町で食べられていた大麦ご飯や玄米ご飯、ひじきやわかめなどのほか、小麦ブランやもち麦などを積極的に取り入れることで、元気な身体づくりに役立つ可能性があることがわかった。何を食べようか選択に迷ったときには候補に入れてみるのもいいだろう。
取材・文/石原亜香利