新聞の見出しやスポーツの実況中継などで、『虚々実々』という言葉を耳にすることがあります。日常会話で使用されることは少ないですが、正しい意味を知っておいて損はありません。『虚々実々』の意味や正しい使い方を紹介します。
「虚々実々」の意味
『虚々実々』は「きょきょじつじつ」と読み、ドラマや小説だけでなく、スポーツの実況やビジネスシーンなど現実でも使われます。複数の意味があるので、間違って使いやすい言葉でもあります。
社会人として恥ずかしい思いをしないよう、正しい意味を理解しておきましょう。
持てる力を出し尽くし戦う
虚々実々は、正反対の意味を持つ漢字を組み合わせた四字熟語です。
「考え得る策略を全て使用し、手段を選ばずに戦うこと」を意味し、主にスポーツの試合や、重要な商談を控えた場面などで使用されます。漢字ごとの意味は以下の通りです。
- 虚…偽り・嘘・中身がない
- 実…真実・ありのまま・中身が詰まっている
兵法における『相手の力が集中している部分を避け、弱い部分を攻める』という戦略が元になった言葉で、転じて『持てる力の全てを出し尽くす』という意味になりました。
例文「虚々実々な試合展開」
意味だけだと使い方が分かりにくいので、使用例を見てみましょう。スポーツの実況中継などで、力や戦略を出し尽くし、全身全霊で戦っている様子に対して使用されます。
例文は以下の通りです。
- 虚々実々な試合展開になることを期待して、わくわくしている
- どちらが勝つのか見当がつかない、虚々実々な試合だ
- この試合に勝つには、敵の裏をかいた虚々実々の攻防をすることが重要だ
嘘か真実か分からない
『虚々実々』のもう一つの意味が、「嘘か本当か分からない状態」です。
ある言動に対して、全てが嘘ではなく真実も混ざっている状態に対して使用します。字面からイメージしやすいのは、こちらの意味かもしれません。
『虚々実々』を熟語に分解すると、虚実という言葉が入っています。この言葉を二度繰り返すことで、虚実が持つ「虚構と事実」「嘘と本当」という熟語の意味を強調しているのです。
例文「虚々実々な言動」
「嘘か本当か分からない状態」という意味の虚々実々は、相手が信頼に足るかどうか、互いに腹を探り合うような場面で使用します。
全てを嘘で塗り固めるのではなく、嘘の中に真実も含めることで、見分けることが難しくさせる様子をイメージすると分かりやすいでしょう。
ここでは、以下のような例文を紹介します。
- 虚々実々な言動で、相手を惑わせる
- 遅刻の言い訳の内容が虚々実々で、信頼できそうにない
- この映画の登場人物の虚々実々な言動が、作品におもしろみを与えている
「虚々実々」の由来とは?
『虚々実々』は二つの意味を持っているので混乱しがちですが、言葉の由来を知ると納得でき、覚えやすくなります。どんな由来がある言葉なのか、見ていきましょう。
中国の兵法書「孫子」
虚々実々の由来は、中国の兵法書『孫子』の中に登場する「実を避けて虚を撃つ」という一節です。
この一節は、『勝つためには守りが堅い部分を避け、弱い部分を狙うことが重要である』という意味であると伝わっています。
戦争に勝つには、相手の兵力の弱い部分を狙う必要があります。しかし、敵も同じように守りが薄い所を狙ってくるため、互いに裏をかいて立ち回る必要がありました。
勝利を勝ち取るには、考えられる方法を全て使用して敵の狙いを読み、相手を出し抜いて優位に立つことが重要だったのです。
この考え方は古典の中だけのことではなく、現代のビジネスシーンでも参考になるでしょう。
「虚々実々」の類語
『虚々実々』と似たような意味を持つ四字熟語を紹介します。意味を知って、正しく使い分けましょう。
「手練手管」
『手練手管』は「てれんてくだ」と読み、「人をだまして利用するために策を講じること」を意味する四字熟語です。手練は『技が優れている』という意味で、手管は『人を操る手段』のことを指します。
『さまざまな手段で目的を達成する』という意味では近いですが、虚々実々とは違い『人をだまして操るための手段』を指す言葉であることがポイントです。
ネガティブな意味合いが強いので、間違った使い方をしないように注意しましょう。
手練手管の例文は以下の通りです。
- 人に必要以上の物を買わせる手練手管に長けた人物だ
- 手練手管を使おうと考えずに、誠実に対応した方がよい
「権謀術数」
『権謀術数』は「けんぼうじゅっすう」と読み、「自分の地位や評価を上げたいときに取る手段や策略」を表します。権謀は策略、術数は計略やもくろみを意味する熟語です。
手段そのものを指すこともあれば、策を講じようと行動をしている様子を指すこともあります。
虚々実々とは、使用される場面やニュアンスが微妙に異なる言葉です。どちらかというと、目的を達成するために相手を欺く場面に使用されることが多いでしょう。
手練手管と同様に、ネガティブな意味に感じられる場合がほとんどなので、権謀術数も使い方に注意が必要です。
権謀術数の例文には、以下のようなものがあります。
- あの人は、権謀術数の才能でのし上がってきた
- 権謀術数をめぐらし、ライバルを蹴落とす
構成/編集部