■連載/石野純也のガチレビュー
2画面利用できる「LGデュアルスクリーン」を打ち出すLGエレクトロニクスから、新たなスマートフォンが登場した。ミドルレンジモデルの「LG VELVET」がそれだ。同モデルは、スリムなボディと必要十分なパフォーマンスを両立させた1台だが、それ以上に特徴的なのがデュアルスクリーンケースのあり/なしを選べるところにある。
コスパのいい普通のスマホとして使いたければケースなし、デュアルスクリーンで画面に目いっぱいコンテンツを表示させたければケースありと、選択の自由がある。もちろん、ケースなしの場合は、そのぶん価格も安くなる。ケースなしでも一般的なスレート型のスマホとして成立するのは、端末そのものを折りたためるフォルダブルスマホとの大きな違いと言えそうだ。
ミドルレンジモデルだが、その性能はどちらかというとハイエンドに近い。チップセットにはSnapdragon 765Gを採用。ディスプレイも6.8インチの有機ELで、背面には広角、標準、深度センサーのトリプルカメラを搭載する。音を立体的に再生できる「LG 3Dサウンド」に対応しているのもこのモデルの特徴と言えるだろう。そんなLG VELVETの使い勝手や性能を、デュアルスクリーンケースとともにテストした。
デュアルスクリーン対応のLG VELVET。取り扱いキャリアはドコモのみとなる
ケースなしでも魅力的な薄型スマホ、大画面や高画質なカメラが特徴
“飛び道具”として目立つデュアルスクリーンケースだが、LG VELVETは、それなしでも十分魅力的なスマホだ。ディスプレイは6.8インチで、左右がなだらかにカーブしているため、ボディは非常に薄く、ポケットなどにも収納しやすい。数値にすると、薄さは約7.9mm。大画面ながら、ボディがカーブしていることもあり、手にしっかりとフィットする。
背面の光沢感のある仕上げも、上質だ。ハイエンドスマホの多くは、カメラ機能を重視するあまり、レンズ部分が大きく盛り上がってしまっている一方で、LG VELVETはデザインも重視。4800万画素のメインカメラはさすがに本体より厚みがあるものの、その他2つのカメラはフラットに収められている。レンズ3つを縦に並べて、まるでしずくが落ちるような見た目に仕上げているのも特徴だ。
このカメラの画質も、評価できるポイント。メインカメラは4800万画素と画素数が高く、ここから切り出すことで、ズームした際の画質の劣化が少なくなる。3つのうち1つは深度測定用のカメラになるため、実質的にはデュアルカメラだが、広角撮影には対応。望遠側は高画素のメインカメラで補いつつ、それでは捉えられない画角は広角カメラに切り替えて撮るという設計になっているようだ。
広角、標準と10倍ズームで撮った写真。10倍まで引き延ばしても、元の画素数が高いため劣化が少ない
撮影時には、AIで被写体に合わせた補正がかけられる。以下に掲載したような風景写真や料理の写真も、解像感が高く、室内で撮ってもノイズは少ない。ハイエンドモデルに搭載されているカメラほど高画質というわけではないものの、HDRなどもしっかり効いているため、シーンによっては違いがわからないほどだ。また、4800万画素そのままで撮って、後から自分で切り出したいときには、設定で画像のサイズを変更できる。ファイルのサイズは大きくなってしまう難点もあるため、用途に合わせて選択するといい。
屋内でも、ノイズが少なくきれい。AIで料理の温かさが感じられる色味に仕上がっている
4800万画素モードで撮った写真を、後から拡大したもの。肉の質感までよく表現されている
ディスプレイは、有機EL特有の発色よさで、コントラストが高い。黒が締まって見えるのも、有機ELならではの特徴と言えるだろう。先に挙げた薄さも、間接的だが有機ELのメリットだ。通知や時計などを常時表示できるAOD(always-on display)に対応しており、端末を点灯させる必要なく、時間や電池残量、通知の確認ができる。これも部分点灯が可能な、有機ELの特徴を生かしたものだ。
スマホの利用シーンを広げるデュアルスクリーンケース
単体でもミドルレンジ上位のスマホとして活躍するLG VELVETだが、その真価は、やはりデュアルスクリーンにある。装着すると、2つの画面を同時に使えて、使い勝手が大きく高上する。ただし、そのぶん、LG VELVETの魅力である薄さは損なわれてしまううえに、重量も増して持ち運びづらくなる。厚みは7.9mmから14.4mmに、重さは180gから309gと、倍増まではしないものの、かなり大型化してしまう。そのため、普段は単体で持ち運びつつ、必要な場面でだけデュアルスクリーンケースを装着する使い方をお勧めしたい。
ディスプレイ2枚分が重なるため、折りたたんだときの厚みは増す
実際に使ってみてわかったデュアルスクリーンの利点は、主に3つだ。1つは、左右で異なるアプリを表示できること。メールを見ながらスケジュールを確認したり、ブラウザで店舗の情報をチェックしながらマップで所在地を調べたりと、まるでPCのようにマルチタスクをこなせる。Androidは、画面分割で2つのアプリを同時に表示できるが、縦長のディスプレイを上下に分けると、どうしてもサイズが小さくなりがち。デュアルスクリーンなら、通常のスマホと同じサイズで、2つのアプリを表示し、見比べることができる。
2つ目のメリットは、写真や動画などを大画面の「ワイドモード」で再生できる点だ。ただし、こちらは、画面中央のベゼルが我慢できればの話。ディスプレイそのものを折り曲げるフォルダブルスマホとは異なり、中央にヒンジがきてしまうため、デュアルスクリーンではどうやっても1つの大きなディスプレイにはならない。写真や動画を全画面再生すると、バツっと真ん中で映像が途切れてしまう。この点を考えると、表示のきれいさが重要な映像よりも、マップやブラウザなどの実用的なアプリの表示に向いたモードと言えそうだ。
2つの画面をつなげて表示するワイドモード。情報を一覧できて、便利だ
ただし、ワイドモードは対応するアプリが限られてしまうのが難点。標準アプリのChromeやYouTube、Googleフォト、Googleマップなどはワイドモードで利用できるが、サードパーティ系のアプリの多くは非対応だ。また、単純に2つの画面を1つと見なすだけで、上下に分割して上は映像、下はコントロール系のメニューといった形にユーザーインターフェイスが変わるわけではない。半開きの状態で机の上などに置いて使えるため、この点はもうひと工夫ほしいと感じた。
写真や動画などの迫力は増すが、ベゼルで真ん中が切れてしまうのが難点
この“置ける”というのが、デュアルスクリーンの3つ目のメリットだ。新型コロナウイルスの拡大で、テレワークを取り入れる企業が急増したが、常に自宅から接続できるとは限らない。スケジュールの都合がつかず、外出先でビデオ会議をしなければいけないシーンもあるはずだ。もちろん、Zoomなどのアプリは普通のスマホでも利用できるが、デュアルスクリーンを装着したLG VELVETなら、そのまま机やテーブルに置いて会議を始められる。スタンドなどを別途持ち歩く必要がないのは、うれしいポイントだ。
ただし、ビデオ会議を利用する場合、重量のある端末側を立てなければならず、バランスが悪くなる。インカメラが、端末側にしか搭載されていないためだ。直角に折り曲げた状態だと安定して置くことが可能な一方で、少し開く方向に角度をつけると、端末側の重量に引っ張られて倒れてしまうことがあった。カメラで顔全体を写そうとすると、ある程度端末と自身の距離を離さなければならず、映像が見づらくなる。インカメラをより広角にするなど、もう一工夫がほしかった印象だ。
処理能力も必要十分で、ソフトウエアの使い勝手もいい
ミドルレンジモデルと聞くと、処理能力に不安を感じる人もいるかもしれないが、LG VELVETに搭載されるチップセットはSnapdragon 765Gで、限りなくハイエンドに近い。メモリも6GB搭載されているため、動作は非常にスムーズ。ブラウザや各種SNSなどのアプリを動かす程度では、ハイエンドモデルとの大きな差は感じられない。ベンチマークアプリのスコアも、それを裏付ける。Geekbench 5では、シングルコアスコアが601、マルチコアスコアが1949。ハイエンドモデルには及ばないが、ミドルレンジモデルの中ではトップクラスだ。
おサイフケータイに対応しており、キャッシュレス決済にも活用できる点も評価できる。同じアプリを2つインストールして、別々のアカウントで使い分ける「デュアルアプリ」や、動画として画面遷移をそのまま記録しておくことができる「画面録画」機能など、細かいながらも便利な機能が多いのもLG VELVETの特徴。ハードウェアはもちろん、ソフトウェアもきちんとカスタマイズが行き届いていて、使い勝手がいい端末に仕上がっている。
デュアルアプリや画面録画など、かゆいところに手が届くカスタマイズが施されている
一方で、少々気になったのは生体認証。有機ELの特性を生かし、指紋センサーはディスプレイ内部に組み込まれているが、この読み取りの速度が少々遅い。端末外部にくぼみなどがある通常の指紋センサーとは違って、どこに指を当てたらいいのかが画面を見ないと分からないのも難点だ。顔認証には対応していないため、生体認証は必然的に指紋認証を使うことになるが、画面のロック解除が遅いのは地味にストレスがたまる。
指紋センサーはディスプレイ一体型だが、読み取り速度の遅さが気になった
とはいえ、コストパフォーマンスを考えれば、十分合格点をつけられる端末だ。LG VELVETはドコモ専売だが、ドコモオンラインストアでは単体での価格が約7万円。デュアルスクリーンつきで約8万8000円と、1万8000円程度の差がある。この価格差なら、デュアルスクリーンつきをお勧めしたい。コストパフォーマンスの高いミドルレンジモデルはほかにもあるが、デュアルスクリーン対応となると選択肢は限られるからだ。価格的にはハイエンドモデルに近づいてしまうが、フォルダブルスマホよりリーズナブルで手が届きやすい端末と言えそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
生体認証 ★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。