「速読日本一」として知られる角田和将(つのだ かずまさ)さん。
実は、生まれつき速読の才に恵まれていたわけでなく、むしろ読書が嫌いだったという。しかし、借金返済のため投資の勉強をせざるを得なくなり、500ページを超える課題図書と向き合ったときに一念発起。速読を学び始めたところ、ぐんぐん上達し、1年足らずで日本速脳速読協会主催のコンテストで首位となったという。
以来、速読関連の著書を出すとともに、教える側にも回り、「1日で16 冊読めるようになった」など、多くの受講生の支持を得ている。
誰でもできる速読術
筆者は、過去いくつかの速読メソッドに挑戦しては挫折した経験から、「速読ができるのは、素質のある一握りの人だけ」と思っていたが、そうでもないようだ。
角田さんのメソッドは、「95% 以上の高い再現性」を誇るほどで、やる気さえあればほぼ誰でも上達可能とのこと。また、11月には著書『5分見るだけでどんな人でも高速で本が読めるようになるドリル』(ワニブックス)を上梓。子どもから大人まで、読書が苦手という人も難なく取り組める内容になっている。
速読日本一が編み出した、万人向けの速読術はどんなものなのだろうか? 本書よりその一端を紹介したい。
クイズ形式で速く読むコツがつかめる
下にあるたくさんの「桃」の中に、1つだけ異なる漢字が紛れこんでいる。15秒以内に見つけ出せるだろうか?
のっけからクイズになったが、本書に収載の速読術の多くは、こうしたクイズ形式になっている。
これには、一度に見る文字量を増やすねらいがある。遅読の人は、個々の単語や短い文節ごとに区切って読むのがクセになっているが、それだと速読は難しい。コツは「文章全体」を見る。本書の前半のクイズは、広い範囲の文字を見る習慣づけに役立つ。
また、解くまでの時間制限を設けるのも、速く読むコツ。「時間を決めて読むことで、脳にエンジンがかかりやすくなり、集中力もアップする」と、角田さんは説く。
全体を見てイメージ力をアップ
次は、下の3つのイラストと記号(A~C)を5秒間だけながめてほしい。
ながめ終わったら、以下の言葉の左横に、該当する記号を当てはめてみよう。
□ クモ
□ お釈迦様
□ はすの花
これは、「イメージ力」がアップするトレーニングの1つ。イメージ力とは、文字を見て場面を思い浮かべる力を指し、この能力が高まるほど、読んだ内容が記憶に残りやすくなる。上の設問のように、短時間でイラスト・文字を覚えるには、やはり「全体を見渡す」のがコツになる。
角田さんは、「『Aがお釈迦様でBが蓮の花で…』と、一字一句頭の中で覚えようとすると、かえって忘れてしまいます。ページ全体を見ながら『右上にお釈迦様が、右下に蜘蛛が描かれていた』といった感じで、どこに何があったかを思い出していくと、イメージで覚える力がアップします」とアドバイスする。速く読めるようになっても、全部忘れてしまっては意味がない。イメージ力をつけることで、長く記憶にとどめることが可能になる。
視点を変え数回読む
本書には、短い説話・小説を読み、速読力を養うものもいくつかある。例えば『桃太郎』。設問は、『桃太郎』には、「桃太郎のほうが悪い」という意見もあるが、それはなぜか?
引用すると長くなりすぎるので、青空文庫に掲載されている『桃太郎』の後半部分(三~四)を、(上の問いを念頭におきながら)読んでほしい。目標時間は5分。
「桃太郎のほうが悪い」理由の解答として、「話もせず、いきなり鬼に暴力を振るっているから。鬼は桃太郎たちがおそってきたので、自分たちを守るためにしかたなく戦った可能性もある」など、数通り考えられる。
角田さんは、1回だけ読んですべてを記憶・理解しようと頑張るのでなく、同じ文を何度か読み返すことをすすめている。また、その際は、主人公以外の立場など異なる視点で速読してみる。その効果として「主人公の立場に立って一度だけゆっくり読むよりも、様々な立場から三回速く読んだほうが、その物語が伝えたいメッセージにも気づきやすくなります」という点を、角田さんは挙げる。
ずいぶん前から、世代を問わず読書離れが指摘されてきた。しかし、コロナ禍でひとり室内にいる時間が増えたことで、読書回帰の流れがあるという。これを機会に、本書で速読力を高めてみてはいかがだろう。
イラスト/村山宇希(ぽるか)
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)