「サバイバルゲーム」という競技は、一般層にも普及する可能性がある。
かつて、サバゲはミリタリーマニアだけの遊びだった。現在では厳格なパワー規制が導入され、細かいルールも存在する。サバゲとはゴルフのように、自己申告がモノを言う競技なのだ。
そんなサバゲが、もしもオリンピック競技になったらどうだろうか?
「痛くないサバゲ」を確立する
静岡県静岡市清水区に伊佐布という地区がある。目の前に新東名高速道路の新清水ジャンクションがあり、交通に難儀する土地ではない。
この伊佐布に、Hot Springsというスタートアップがオフィスを構えている。
「我が社の光線銃は、太陽光を加味しても120m先の標的に届きます。射程が200mに達することもあります」
代表取締役社長の永井宏樹氏は、BB弾を使用しない「進化系サバゲ」の確立と普及を目指している。
サバゲの赤外線化プロジェクト『B2i』は、すでにクラウドファンディングMakuakeで資金調達を実施した。目標金額100万円に対して、集まったのは342万700円。
サバゲの銃を赤外線仕様にするという取り組み自体は、海外でも行われている。が、それらの光線銃は決して安価ではない。銃1挺に日本円で5万円ないし6万円ほど払わないといけない。
一方でB2iのそれは、既存のエアソフトガンの銃口に設置するモジュールだ。Makuakeの超早割価格枠では、プレイヤーの身体に装着する赤外線読み取りセンサーも含めて1組9100円で公開されていた。
この光線銃の形状は、特に変哲のない円筒である。が、実はスマートフォンとのペアリング機能もある最先端テクノロジーの塊だ。
そして上述の通り、赤外線の確実な射程は120m。BB弾の実用射程距離はせいぜい40mほどだから、これは驚異的な数字と言える。
きっかけは合コンから
永井氏は自衛官である。「元自衛官」と呼ぶのは、恐らく適切ではない。年間に決められた日数の訓練をこなす予備自衛官だ。
「私は常備自衛官の“出会いの場”を設定するイベントを主催していました。基地や駐屯地で暮らす自衛官は、異性との出会いがあまりないですから」
筆者も国家公務員の息子だからよく分かるが、彼らにとって「外部の人」と関わる場は極めて重要だ。民間企業の勤め人とは違い、こちらが何もしなければ本当に出会いは訪れない。
「ただ、中にはまったく異性と会話できない自衛官もいます。女性を前にしても、まるで話が進まない。では、どうするか。自衛官だから、女性たちとサバゲをやって仲良くなってもらおうと考えました」
何かしらのゲームを催して男女の相互理解を深めるのは、合コンの基本である。が、実際にサバゲをすると女性側から不満が噴出した。
「サバゲという競技は身体が汚れるし、化粧も崩れるし、BB弾に当たると痛いです」
せっかくお洒落をしてきたのに、それが台無しになる。女性にとっては何としても避けなければならない事態だ。
「それをある人に相談したら、“BB弾ではなく赤外線を飛ばせるようにしたらどうか”という話が出たんですよ」
電子化=合理化
サバゲは大量のBB弾を発生させる競技だ。
これがあるから、野外フィールドも屋内フィールドも管理に手間がかかる。誰かが発射済みのBB弾を処理しなければならない。
何より、BB弾の衝突は当たり所によっては耐え難いもの。具体的に言えば、手首の骨の部分や指、唇などはかなり痛いポイントである。もちろん、防具でダメージを軽減できればそれに越したことはないが……。
これが赤外線なら、撃たれる痛みに歯を噛み締める必要がなくなる。しかも赤外線を読み取るセンサーとスマホを連動させることで、サバゲ自体の電子化が可能になる。
「1回のゲームで最後まで生き残る人は、必ずしも強い人ではありません。極端な話、時間まで逃げ回っていればいいわけですから。逆に開始数分でやられてしまったけれど、その間に何人もの敵を倒す人もいるわけです。それを記録としてスマホアプリで管理できたら……と我々は考えています」
電子化とは、合理化に等しいといえる。
たとえば、個々のサバゲプレイヤーをスマホアプリでマッチングし、「〇月〇日午前10時に〇〇フィールドでチーム戦開始!」と告知できるようにすれば、それだけでサバゲの裾野は広がるはずだ。無論、B2iが目指すのはそれだけではない。
「セガサミーグループのダーツライブは、ダーツという競技が一般普及する大きな要因になりました。それはオンライン対戦が可能で、スコアもデジタル管理されるからです」
これと同じ仕組みを、赤外線サバゲにも導入することができると永井氏は語る。
各プレイヤーの平均サバイバル時間、撃破数、被撃破数などをオンラインゲームと同じようにシェアできれば、世界ランキングを作成することもできる。これは『荒野行動』や『PUBG』を自らの肉体でやるようなもので、eスポーツとフィジカルスポーツの融合にほかならない。
サバゲは五輪を目指す
「我々は2028年ロサンゼルスオリンピックでの“赤外線サバゲ種目採用”を目指しています」
永井氏は力強くそう話す。
決して突飛な夢ではない。5Gの通信速度は、4Gまでのそれとは比べものにならない。「別世界の技術」と表現してもいいだろう。
今現在は5Gの整備を待っている状態で、同時にそれを活用した各種プラットフォームを構築している最中である。
そのような技術の進歩は、当然ながらオリンピックにも反映されるはずだ。
8年後、筆者はロサンゼルスで赤外線サバゲ日本代表の取材をしているのだろうか。もしそうであれば、何とか読み応えのある記事に仕上げて読者の皆様にお伝えしたいと考えている。
※クラウドファンディングには立案会社の問題でプロジェクトが頓挫する可能性や支援金が戻らなくなるリスクも稀にあります。
出資に当たっては、読者様ご自身でご判断いただきますようお願い致します。(編集部)
【参考】
サバゲ赤外線化プロジェクト「B2i」-Makuake
取材・文/澤田真一