NSRやYZR、CBRといったレーサーレプリカが時代の先端を駆け抜けた1980年代末期に、“スクーターのレーサーレプリカ”とも呼べる1台があった。それが、「ホンダG’」(ジーダッシュ)だ。
メットインはない。だがFディスクブレーキとテレスコピックサスはある
昭和61年(1986年)7月5日から施行された、原動機付自転車の運転者に対する乗車用ヘルメットの着用義務規定。以後、いわゆる“原チャリ”もヘルメットが必要となり、駐停車などでヘルメットを収納できる「メットイン」が、スクーターの装備の常識になっていった。
そんな中、ジーダッシュはシート下に燃料タンクを持つ。そのためメットインはできない。
しかし、サイドカバー前部やアンダーカウルからエンジンへ走行風を導き、冷却効果を高めるべく、車体内側の空気の流れを考えたエアロボディデザインを採用する。
さらに、油圧ダンパー内蔵テレスコピック・サスペンション(ボトムケースはアルミ製)をフロント左右両側に装備。前輪ブレーキには孔あきタイプの160mm大径ブレーキディスクをおごる。
エンジンは吸・排気効率や燃焼効率を追求した空冷2サイクル49cc。最高出力は6.8ps/7000rpmを発揮する。
全長は1585mm。乾燥重量は59kgと50kg台をキープ。強力なエンジンと小型軽量ボディの組み合わせは、当時人気だったスクーターレースでの活躍を支えるものとなった。
発売当時の価格は14万3000円。
売れる売れないとは別軸の存在
ジーダッシュは一代限りと短命だった。正直、万人受けするような仕様ではないからだ。しかし、当時の若者にレースへ参加する機会を提供したことは事実だ。
効率化が最重要視される現在、こんなスクーターが存在できる時代が日本にあったことを、覚えておいていただければ幸いだ。
文/中馬幹弘