引っ越しをすることになった。
局アナ時代から6年暮らした部屋は、
決して広くはないが、南向きで太陽の光がよく入り、
近くに公園があって暮らしやすく、とても気に入っていた。
夫も私も独立をし、お互いに家で仕事をする時間も増えたので、
もう少し広い部屋に移りたいと思いながら、
なかなか条件の合う物件を見つけられず、半年が過ぎていた。
ところが、急に出会ってしまった。
申し込みをすると、すぐに審査も通った。
そこから、引っ越しの日が決まり、荷物の整理を始め、
各所、手続きを進めていると、
あっという間に、最後の夜が訪れた。
そういえば、きちんとお別れをしていなかったなぁ。
その夜は、段ボール箱だらけのリビングで、
簡単なパスタを作って、ワインを開けた。
思い出が、ひとつ、またひとつとあふれてくる。
朝早い仕事をしていた頃は、
明るいうちから、この部屋で同僚とお酒を飲んだ。
両親をもてなしたり、学生時代の仲間が集まったり。
あの時赤ちゃんだったあの子は、来年小学校に入るのか……。
仕事に追われていると、
今や未来のことで精いっぱいになってしまうけど、
こうやって、きちんと時間をつくって、
過去を振り返ることの大切さに気がついた。
新しい生活は楽しみなのに、
何だか少し寂しくて、切なくなった。
出会いがあれば別れがある。
そんなこと、もうとっくに知っているし、
これまで何度も繰り返してきたのに、
いつまでも、慣れることはないんだなぁ。
写真は、最後の夜の直前。
ベランダから見上げた空が、ピンク色に染まっていた。
Natsumi Uga
テレビ朝日アナウンサーを経て、昨年からフリーとして活動。現在、『池上彰のニュースそうだったのか!!』(テレビ朝日)、自身初の冠番組『川柳居酒屋なつみ』(テレビ朝日)、『テンカイズ』(TBSラジオ)、MCを務める『土曜はナニする!?』(関西テレビ・フジテレビ系)などに出演中。
文/宇賀なつみ
※「宇賀なつみ 素顔のままで」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME1月号に掲載されたものです。