■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
2018年に発表された三菱のミディアムサイズSUV「エクリプスクロス」に追加されたPHEV(プラグインハイブリッド)版に先日、箱根で1時間試乗した。2.4L、4気筒エンジンと2基のモーターを組み合わせて前後輪それぞれを駆動するシステムを備えている。ドライブモードは、エコ、ノーマル、スノー、ロック(グラベル)、ターマック(スポーツ)の5つ。
機械として優れているか? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
ノーマルで峠道を走り始める。上り勾配とコーナーが続いていて、目の前のエネルギーフロー表示を見ながら走ったが、一向にエンジンが掛からない。バッテリーに蓄えられていた電気でモーターを回して、走っていく。2基のモーターが備わっているが、どちらがどれだけの割合で駆動されているかわからないけれども、実にスムーズで静かに加速していく。ハンドルを切れば切っただけ、滑らかに曲がっていく様子は三菱自動車のかつての「ランサー・エボリューション」を思い起こされるほど痛快だ。
「エクリプスクロスPHEV」のシステムは、モーターが担う領域がとても広い。ノーマルモードでは、モーターだけでの走行とモーターで発電しながらの走行がほとんどを占める。エンジンパワーでタイヤを駆動し、それをモーターでアシストする走行も行なわれるが、開発担当者氏によれば「日本の公道の制限速度の範囲内では、ほぼない」そうだ。
つまり「エクリプスクロスPHEV」はほとんどの場面でモーターだけか発電しながらモーターで走行しており、他のプラグインハイブリッドおよびハイブリッド車のようにエンジンが駆動に用いられることがほとんどない。それがドライバーにどんなメリットをもたらすかといえば、ツインモーターによる滑らかで静かな力強い走りをつねに体感できることだろう。
走行モードを「ターマック」(スポーツ)に変更すると、エンジンが始動し、つねに充電しながらモーターで走行し、回生ブレーキが最も強く効く「B5」モードとなり、スポーティーな走行が楽しめるという。充電しているかいないかの違いで、バッテリーからの電気で走ることには変わりないのだから走りには関係ないはずではと開発担当者氏に質問すると、そうではないのだという。
「コーナーの脱出などでアクセルペダルを強く踏み込んだ時に多くの電流をモーターに流すために、ターマックモードではエンジンを始動させるのです」
ただ、わずか1時間走っただけでは、ノーマルモードとターマックモードの加速やコーナリングの違いは、あまり強くは感じなかったというのが正直な感想だ。というよりは、ノーマルモードでの、モーターだけによる走行の加速やコーナリングの素晴らしさに感心させられ続けていたので、ターマックモードとの違いにまで意識が向かなかったのかもしれない。
いずれにしろ“ほぼ電気だけで走る”「エクリプスクロスPHEV」の狙いは的を射ている。電欠や航続距離の短さを心配してEVに二の足を踏んでいるような人にはピッタリの一台だ。EVの敷居の高さを気にすることなく、電動ドライブの力強さと滑らかさを味わうことができるのだから。
欲を言えば、他車で実現されている回生ブレーキの強さをクルマ側で自動に切り替えてくれる“回生オートモード”があったら良かったが、いずれ次の改編などで加えられるのだろう。
商品として魅力的か? ★★★★ 4.0(★5つが満点)
顔つきもだいぶ変わった。すべてのライトがLED化され、鋭く見える角度もあれば、力強く見える角度もある。どこから見ても「エクリプスクロス」だと認識できて、マイナーチェンジは成功したのではないか。その一方で、リアスタイルは退歩した。先代のリアスタイルはダブルガラスが特徴的で、遠くからでも「エクリプスクロス」だとわかったのに、新型は凡庸でエンブレムが判読できるぐらい近づかないとどこのクルマだかわからない。
運転席に座ると、なつかしい感じがしてくる。2020年12月に発表されたクルマとしては、ドライバーインターフェースが古いのだ。具体的には、ボタン、レバー、スイッチの数が多い。走行機能やエアコンなど以外の操作はセンターモニターパネル内に集約し、そこからタッチや音声で呼び出して操作する方式が現在の主流となっているのに対して「エクリプスクロスPHEV」ではそうした集約が行なわれておらず、ひとつの機能にひとつのボタンやスイッチなどが割り当てられている。だから、その数の多さが目立っている。
「このクルマは、パワートレインなどは新しく改めていますが、それ以外の操作系などは2年前の登場時のままなので古く見えるのかもしれません」
もうひとりの開発担当者氏も次のように認めていた。
「テスラ・モデル3などと較べてしまうと、その違いは大きいですね」
「モデル3」はドライバーインターフェースにおいて、過激なくらいに先端を行っているので、違いは一目瞭然だ。「エクリプスクロスPHEV」の走りは素晴らしく、世界の自動車の電動化の流れの中での最先端の一台であることは間違いない。しかし、ドライバーインターフェースが古いままだったり、リアスタイルが退歩して凡庸だったり、一台のクルマの中に最新の部分と古い部分が混在してしまっている。これでは商品としての完成度が不十分と言わざるを得ず、メーカーがクルマを通じて顧客に何を訴えたいのかが伝わらない。そこがもったいない。
■関連情報
https://www.mitsubishi-motors.co.jp/lineup/eclipse-cross/
文/金子浩久(モータージャーナリスト)