「どうせボクはできないから」「私はこれが下手だから」など、我が子から発言が出ていないだろうか。内閣府の調査では、日本は先進国の中で「自己肯定感」が特に低い国ということが分かっており、日本人にとって自己肯定感を育むことは広く取り組むべきテーマといわれている。
しかし、具体的な「自己肯定感」の育み方がわからないということもあり、知らずに子どもの自己肯定感を下げる声がけを行ってしまうこともある。
そこで今回は、日本財団が設置し、困難を抱えている子どもを支援する「子ども第三の居場所」で自己肯定感についても教えている拠点スタッフに、自己肯定感の育むための親の接し方・声がけ方法を聞いた。
我が子は「自己肯定感」が低い?
子どもの自己肯定感を育みたいと考える親は、きっと何かしら子どもの自己肯定感が低い兆しを感じているだろう。次の項目に当てはまれば、自己肯定感が低い可能性があるという。
・何かに取り組む前に、「どうせできない」や「これは下手だから」などネガティブな姿勢が目立つ
・何かに取り組む前に、初めの一歩がなかなか出ない
・自分の容姿や、自分の得意・不得意についての発言が目立つ
大阪府の「子ども第三の居場所」スタッフである特定非営利活動法人トイボックスの第三の居場所事業マネージャー山本将氏と、第三の居場所事業チーフ廣瀬麻以子氏はこれらの項目について次のように解説する。
「何かに取り組む前にネガティブな発言をしたり、初めの一歩がなかなか出なかったりするのは、苦手なことに対して不安を感じるネガティブな姿勢の表れです。『成功することしかやってはいけない』という、挑戦に消極的な姿勢は、自己肯定感が低い子どもの特徴です」
これに対して、自己肯定感が高い子どもは、次のような特徴があるそうだ。
・自分の気持ちや感じたことを伝えることができる
・物事に「とりあえずやってみよう」という姿勢で、結果を気にせずにトライすることができる
・選択肢に対して、どちらか好きなほうを選ぶことができる
・取り組みの中で困難に直面しても「できるかもしれない」と最後までやり抜くことができる
親が子どもの「自己肯定感」を下げてしまうNGな言動
我が子の自己肯定感が低いと感じる場合、普段からこんなNGな言動をしていないかチェックしてみたい。山本氏と廣瀬氏によると、次の言動は、子どもの自己肯定感を下げてしまうという。
1.夫婦や親同士で「あの子は●●ができないのよ」「うちの子は●●が苦手なの~」などと話す
「大人同士の会話は、子どもは聞いていないようで、しっかり聞いています。子どもに対する否定的な発言や悩みごとは、子ども自身が耳にすることで自信喪失につながるケースもあるので控えましょう。まずは子どもに『自分は認めてもらっている』という認識を持たせることが大切です」
2.「●●はだめ!」「なんで●●しないの?」などの否定的な言葉で叱る
「お仕事をしながら子育てをされている方は少ない時間で子どもたちに接するため、どうしても『早くしなさい』『なんでできないの』と追い立ててしまうこともあるかと思います。しかし子どもを叱るときに、してはいけないことやダメなことを伝えてしまうと、否定的な表現になってしまい、子どもには『受け入れられなかった』という感情だけが残ってしまいます。
そういったときは『してはいけないこと』を伝えるのではなく『してほしいこと』を伝えることで否定的な発言を避けることができます。基本的には『~をしてほしいな』などの希望を伝えるようにし、それでもしっかり叱るべきときは、『次、同じことをしないためにどうすればいい?』『どうやって解決する?』など子どもと一緒に考え、子ども自身が答えにたどり着くように導きましょう。また、夜に子どもと接する際に、今日1日、何をしたのか聞く時間や、週末何したいか計画する時間を少しでも作ると、いい循環になります」
子どもの「自己肯定感」を上げるには「受け止める姿勢」が必要
先ほどから対策も出てきているが、山本氏と廣瀬氏は子どもの自己肯定感を上げるには、次のような対応が重要だと話す。
「第三の居場所では、忙しい中でも時間を作り、子どもの話にしっかり耳を傾けることで子どもの自己肯定感を育むことができると考えています。実際に自己肯定感の高い子は、保護者の方が丁寧に子どもの話を聞いて、きちんと自分の思いを言葉にして返すというケースが多いです。
また、容姿や物事の得意・不得意について、周りの大人が軽い気持ちで言った否定的な言葉を受け止め、子どもの自信喪失につながるパターンもあるので、子どもの取り組みに対してはまず『受け止める姿勢』が必要です」
日本財団の「子ども第三の居場所」とは、家庭の抱える困難が複雑・深刻化し、地域のつながりも希薄になる中で、安心して過ごせる居場所がなく、孤立してしまう子どもたちを支援するための場所だ。現在、全国20道府県に全37ヶ所設置されており、409名の子どもたちが利用している。将来的に100ヶ所ほど設置する目標だという。
ここでは、「生き抜く力」を育むために、豊富な体験機会を提供する「チャレンジタイム」という時間を毎日設けている。チャレンジタイムでは、自己肯定感のほか、小学校の学習指導要領に追加された「非認知能力」や、コミュニケーション能力、生活習慣など総合的な自立を目指す。
ちなみに非認知能力とは、目標に向かって頑張る力、他の人とうまく関わる力、感情をコントロールする力のことを指し、IQなどで測れない内面の力のこと。自己肯定力を強化することも非認知能力を育める要因の一つだと注目されている。
子ども第三の居場所では、子どもたちの「やってみたい!」という気持ちに寄り添い、豊富で多様な体験を提供することで、子どもたちが好きなもの、関心があるものを一緒に見つけていくという。
スモールステップで成功体験を積み重ねることが大切
何かに取り組む前にネガティブな発言をしたり、初めの一歩がなかなか出なかったりするのが、自己肯定感の低い子どもの特徴であると先ほど説明されたが、自己肯定感を育むためには、子どもには新しいことに挑戦させたほうがいいのだろうか? 廣瀬氏は次のように話す。
「そもそも新しいことに挑戦する機会があまりない、という子どもたちも少なくないので、さまざまなジャンルの物事に触れる機会をつくることは子どもの持ち味や得意を見つけ、世界を広げるきっかけになると思います。ですが、スペシャルな体験を提供することだけが自己肯定感を育むとは限りません。むずかしいことにどんどん挑戦させる、というよりは、スモールステップで『やってみたら楽しかった』『知らなかったけど面白かった』という小さな成功体験を積み重ねることが大切だと考えています」
もし、子どもが新しいことに取り組むときにネガティブな姿勢を見せたら、どんな声がけがおすすめだろうか。
「子ども第三の居場所では、時には大人も一緒になって挑戦することもあります。うまくいったら一緒に喜び、失敗しても『むずかしいね!』と笑い合ったり、感想を言い合ったり。同じ時間を共有しながら『とにかくやってみる』のハードルを下げること、そして大人だってうまくいかないこともあるのだから、失敗してもいいんだ、ということを知ってもらうことを第一に考えています。ですので、『こうしたら』『ああしたら』と声がけするよりも、一緒にやってみる、大人が楽しんでいる姿を見せる、というのがおすすめです」
親が子どもの自己肯定感を育むためには、普段のふるまいが大きな影響を及ぼすようだ。ポイントをしっかりと押さえつつ、子どもを否定するような言動は控え、親自身も一緒になって新しいことにトライし続ける姿勢が大事であるようだ。
【参考】
日本財団「子ども第三の居場所」
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/child_support
取材・文/石原亜香利