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LP盤のジャケ買いで鍛えた眼力で楽しむ!久住昌之の一か八かの〝ジャケ食い〟はリアル「孤独のグルメ」だった

2020.12.24PR

コミックやドラマが日本は言うに及ばず海外でも愛されている『孤独のグルメ』。その原作者である久住昌之さんの新刊エッセイ『面食い』が12月23日に発売された。「面食い」と書いて、「ジャケ食い」と読む。「ジャケ食い」とは久住さんの造語で、「腹が減った!」ときに、己の勘だけを頼りに飲食店に入ること。美味しいかマズイか、いい店かハズレの店かは、店内に入ってみるまでわからない。ドキドキハラハラの真剣勝負を挑んだ合計45軒の店では、毎回、悲喜こもごものドラマが静かに巻き起こっている。そんな「ジャケ食い」の醍醐味や貴重なエピソードを久住さんに伺った。

長年にわたり「食」に関する漫画やエッセイを書きながら、決して「上から目線」「権威」にならず、常にクスッと笑えるエピソードを描き続ける東海林さだおさんの姿勢を尊敬しているそう。

勝負の店! 便利なネットの情報に頼らないからこその楽しさ

『孤独のグルメ』の原作者としてもお馴染みの久住さんの最新刊『ジャケ食い』。一度聞いたら忘れられないユニークなタイトルだが、いったいどこからその言葉は生まれたのだろう。

「10代、20代の若い頃、バンドを組んで音楽を作ることに夢中でした。そのため、いつも新しい音楽に飢えていたし、1曲でも多く自分の知らない曲を聴きたかった。でも、インターネットもYouTubeもない時代だったから、知らないアーティストの曲を聴くにはレコードを買うしかない。当時、LP1枚の値段は約2000円。手持ちの金が常に乏しかった自分にとって、ハズレを選んでしまったら、大きな痛手なんです。そこで、毎回、ジャケットの裏表を穴の開くほど眺めてから、真剣勝負でLPを買うことを“ジャケ買い”と呼んでいたんです。旅行や仕事で訪ねた街で、知らない飲食店に入るときも、それと同じ感覚で。1食ヘタ打つと、「ああ、失敗した~」ってダメージが大きいじゃないですか。こちらも「毎回勝負!」という意味で、“ジャケ食い”と名づけたんです」

見知らぬ店と勝負するとき、世の中にあふれているグルメサイトの情報を、久住さんはいっさいチェックしないという。それは、いったいなぜなのか?

「いちばんの理由は、お店の方に失礼だから。食サイトが出始めた頃、僕もコメントを読んでみたんですけど、見ているうちにすごくイヤな気持ちになってしまった。だって、お店の人たちは、毎日、毎日、一生懸命作った料理をお客さんに提供し、それで生活しているわけでしょう。それなのに、その店に初めて入った客が、一度の経験だけで『評判の割には、美味くない』とか『店主の愛想が悪い』なんて、偉そうな態度で評価している。それは傲慢じゃないかなって。それ以来、気分が悪くなるので、ネットの評価は見ないようにしているんです」

もうひとつの理由は、「他人の情報をうのみにするのではなく、自分の足で歩き回って店を見つけ、己の勘をフルに活用して観察して勝負しないと、自分好みの店を見つける能力は磨かれないから」と、久住さんは語る。だが、それでいざ店に入って、「失敗した!」と、目の前が真っ暗……なんてこともありそうだ。

「もちろん、『これは大変なことになった!』と後悔した経験は何度もありますよ。扉を開けた瞬間、どう見てもその筋の人がやっている居酒屋だと踵を返したこともあったし、客が誰もいなくって、おばあさんが寝ていた店は、さすがに入り口をそっと閉めて静かに退散してきたりとか(笑)。常連客にジロジロ睨まれて居心地の悪い思いをしたり、50インチもある巨大な画面のテレビでバラエティ番組がかかっている店内で、ひとりでビールを飲む羽目になったりとか。でも、そうした窮地に立たされたとき、この傷をどうしたら少しでも浅くできるだろう? と考えることが、決して嫌いじゃないんです」

中学生のとき、母親が渡してくれたお弁当を開けてみたら、白いご飯に、前日の夕飯の残り物のさつま芋の天ぷらの煮つけが1枚だけ入っていたことがあったそうだ。
(これを、いったい、どうやって食べろと?)と絶望的な気分になりながらも、(ならば、白飯の隅に詰めてあるこの小さなカリカリ梅を、芋を食べる合間にこんなふうに使って食べ進んでいこう)と、作戦を立てて乗り切ったとか。

「飲食店に入って、『失敗した』と感じたときも同じです。『この店はダメ』と、即座に切り捨てるのではなく、『どうしよう?』と、あれこれ起死回生策を考えているうちに、『なんだ、意外といい店じゃん』と、印象が変わったり、『もう一度行ってみよう』という気持ちになることさえもありますからね」

そんなドラマの数々も、『ジャケ食い』では存分に楽しめる。出会ったお店に対する久住さんのつきない好奇心と比類のない観察眼に支えられて、繰り広げられるエピソードの数々が文句なしに面白い。

デビューエッセイ以来、タッグを組む漫画家・イラストレーターの和泉晴紀さんによる劇画タッチのカバーは迫力満点。キングクリムゾンのデビューアルバムを想起させる正方形の絵にも久住さんの遊び心があふれている。

『面食い』(ジャケぐい)12月23日発売
1500円+税(光文社・刊)

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くすみ・まさゆき 1958年、東京都生まれ。1981年、原作を担当し「泉昌之」名義でマンガ家デビュー。その後、数多くの作品を発表。近年では、人気ドラマにもなった『孤独のグルメ』『花のズボラ飯』『食の軍師』などの原作も手がける。マンガ関連の仕事に加え、エッセイスト、ミュージシャン、切り絵師など、幅広いジャンルで活動している。2021年1月8日20:00~、目黒「蔦屋書店」でオンラインイベントも決定!(詳しくは光文社書籍サイト「本がすき。」にて)

取材/内山靖子 撮影/角田慎太郎(Gran)

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