ITベンチャーをはじめ、いま、世界がその先端技術に注目する国、イスラエル。
ここに、「キブツ」と言われる社会システムがあることはご存知だろうか?
分かりやすく言えば、”集団農場”である。
かつてのソ連に存在した「コルホーズ」のようなもので、ここで集団経営による農業が営まれ、利益などもキブツの組合員・住人に等しく配分される形だ。
手前味噌になるが、筆者の手掛ける美容オイルブランド「精油とわたし」でもイスラエル産の上質なホホバオイルを使用している。これも、とあるキブツによる生産品である。
”終わった”と思われていたキブツへ人々が回帰
そのようにイスラエルの農業を支えてきたシステムであるが、特に昨今、旧来のシステムとして衰退しつつあるのが現状。
最新状況で、イスラエル全土に265のキブツが存在し、全人口900万人のうち、約2%(約17万人)が居住。
そして、イスラエルの全産業の総収入のうち、9%がキブツでの事業によるものとの報告がある。
そんな、”終わった”・”教科書で見かける言葉”のようなキブツだが、筆者も旅するビジネスマンとしてイスラエルの企業といろいろお付き合いしているところ、特にこの数年だろうか、気になることが出てきた。それは、イスラエルの新興企業なのに、キブツに帰属しているところが少なからずあるのである。
(キブツって終わったシステムでなかったの!?)
過去の歴史や上述の数字だけでは、はっきり言って、終わった世界と見える。
ところが、実際には、いま、このキブツが形を変え、新たな社会システムとして再度クローズアップされているのである。
キーワードは、民営化されたキブツだ。
組合員での協議の結果、キブツの中に農業だけでなく新たに工業を取り入れ、更に外部からプロ経営者を招聘し企業運営をするキブツが増えてきているのである。
冒頭で述べた265のキブツのうち、実は約8割はこの民営化されたキブツだ。
代表的なところだと、先進的な灌漑技術を提供するネタフィム社、眼鏡等のレンズを開発・製造するシャミル・オプティカ社、軍事用車両を開発・製造するプラサン・ササ社など、かつての”集団農場”のイメージとは程遠い、世界的一流企業が100年前から存在するキブツという社会システムを拠点としているのだ。
そして、いま、”終わった”と思われていたキブツへ人々が回帰する風潮も高まりつつある。
理由は、主に以下3点。
① 自然との共生(キブツは基本的に郊外型)
② (郊外型ゆえ)住宅などの生活コストが低い
③ 雇用機会はキブツにあり(=招聘した企業)、そして、かつての集団農場ではないので、実力次第で大きな報酬を得られる
ここまで書いたらお気づきかもしれないが、日本でもテレワークなどで地方移住がトレンドとなりつつあるが、まさにそれを先取りしていると言えるのである。
教科書で習うような社会システム”キブツ”、先端的な国として注目されるイスラエルで、カタチを変え、21世紀の時代に適応した新たな社会システムとして注目されているという事実は大変興味深く、日本も学べるところが少なからずあるだろう。
これまでの流れで、キブツの数は少なく、結果、現状の(キブツへの回帰希望者の)受け皿は限られているようだが、今後の”ニューノーマル”な社会システムという観点で、キブツという社会システムの行く末には是非とも注目したい。
文/小林邦宏
旅するビジネスマン。これまで行った国は100ヶ国以上。色んな国で新しいビジネスをつくるおじさん。
現在は新型コロナウィルスの影響で海外渡航制限中により国内で活動中。
オフィシャルサイト:https://kunihiro-kobayashi.com/
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Twitter: @kunikobagp
著書:『なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか?』(幻冬舎)