優しく思慮深く、叡智と人生経験に富み、洗練されていて、迷える若者に無限の可能性を示し、明るい未来へと導いてくれる。まさに“理想の大人像”にぴったりのダンディな大学准教授、それがフランクおじさんだ。
そんな憧れの人が、もし“異端である”というだけで長年迫害され続け、深く傷つけられていたとしたら……あなたは何と声をかけるだろうか。そして、どんな風に手を差し伸べるだろうか。
2020年11月よりAmazon Prime Videoにて独占配信中の映画『フランクおじさん』は、同性愛者の男性フランクの苦しみや葛藤を、彼を慕う姪の目線から描いたヒューマンドラマ。
本作の脚本も手掛けた『アメリカン・ビューティー』のアラン・ボール監督は、自身もゲイであることを公表済み。本作のストーリーは、ボール監督の父親のエピソードに基づいている。
大手映画批評サイト『Rotten Tometoes』では批評家支持率78%、高く評価されている。
あらすじ
70年代アメリカ。サウスカロライナ州の小さな田舎町で生まれ育った10代の少女ベス(ソフィア・リリス)は、家族親戚の中で唯一思慮深く知的な叔父フランク(ポール・ベタニー)のことを慕っていた。
ベスは高校卒業後、フランクが文学部で教鞭を執るニューヨーク大学に進学。
学生生活を送る中でベスは、フランクが同性愛者であり、ウォーリーという家族同然の恋人がいることも知る。
そんなある日、フランクの父親(ベスの祖父)の訃報が届く。フランクの少年時代に起こった“ある事件”をきっかけにフランクと父親の間には根深い確執が残ったままだった。
ベスとフランクとウォーリーの3人は、父親の葬儀に出席するためにサウスカロライナへ帰省する。
見どころ
同じストーリーであっても、主人公目線なのか第三者目線なのかによって、まったく印象が変わるもの。自分事として捉えると勇気を貰えるストーリーでも、第三者目線では痛ましく慈しみたい気持ちになったりするものだ。
本作は、もの静かでネガティブな感情をめったに表に出さない“フランクおじさん”が内に秘めた悲しみや苦しみを、彼に憧れる10代の姪っ子の瑞々しい眼差しを通して、温かく見つめているところが良かった。
他人や社会から傷つけられたとき、反撃や八つ当たりで即座に発散させようとする人がいる一方、フランクのようにじっと耐え忍んで内側に抱え込む人もいる。
たしかにフランクはとても知的で教養深い人なので、ある程度までは苦しみを自らの糧にできるのかもしれない。
しかし一見“パーフェクトな理想の大人”に見えるフランクとて生身の人間だ。
どれだけ辛い目に遭っても愚痴も悪口もほとんど言わないフランクだが、その分飲酒量は少しずつ増えていく。
後半では、フランクが積年の悲しみを爆発させるシーンがあり、胸を打つ。
本作を観たあとは、今までよりも少し人に優しくなれる気がする。コロナ禍をはじめ色々あった2020年だが、この年末年始は心あたたまる感動作で涙を流して心の洗濯をしてみては。
映画『フランクおじさん』
Amazon Prime Videoにて独占配信中
Courtesy of Amazon Studios
文/吉野潤子