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『風が吹けば桶屋が儲かる』という言葉の由来は江戸時代にまで遡ります。現代でもビジネスの場などで使われるこの言葉の意味と使いどころを知り、正しく使用できるようになりましょう。似た意味を持つ表現についても、併せて解説します。
「風が吹けば桶屋が儲かる」の由来と意味
昔のことわざの中には、言葉だけを見ても意味が分かりにくいものが多くあります。『風が吹けば桶屋が儲かる』もその一つです。一見すると『風』と『桶屋』にはなんの関係もないように思えます。
この言葉の意味を知るには、言葉が使われた当時の時代背景を知らなければなりません。言葉の意味と由来について、まずは解説します。
ことわざの時代背景
『風が吹けば桶屋が儲かる』の言葉ができたのは、江戸時代と言われています。江戸時代の『世間学者気質』という草子の中には、次のように描かれています。
「今日の大風で土ほこりが立ちて人の目の中へ入れば 世間にめくらが大ぶん出来る そこで三味線がよふうれる そうすると猫の皮がたんといるによつて世界中の猫が大分へる そふなれば鼠があばれ出すによつて おのづから箱の類をかぢりおる 爰で箱屋をしたらば大分よかりそふなものじやと思案は仕だしても 是も元手がなふては埒明ず」
※無跡散人「世間学者気質」より引用
この逸話は、1800年頃に出版された十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の中にも見られます。なぜ、「風が吹くことで桶屋が儲かる」という言葉ができたのでしょうか?
意外な因果関係を示す
『風が吹けば桶屋が儲かる』の中にある『風』と『桶屋』には、直接的な因果関係はありません。「風が吹く」という原因から「桶屋が儲かる」という結果につながるまでには、次のステップがあるとされています。
- 風が吹いて、埃が立つ
- 埃が立って人の目に入ると、失明する人が増える
- 当時、失明した人は三味線で生計を立てる人が多かった
- 三味線の胴を張るために、猫の皮が必要になる
- 猫の皮の需要が増えると猫が減り、ネズミが増える
- ネズミが桶をかじるので、桶の需要が増える
- 桶屋が儲かる
このようなことから、「一見なんの関係もないようなところから、意外なところに影響が出る」という意味で、『風が吹けば桶屋が儲かる』ということわざが使われるようになりました。
現代人もなじみ深い因果関係の例
『風が吹けば桶屋が儲かる』は、現代人にもなじみ深いことわざと言えます。
とある市場調査によるデータによれば、2020年は外出自粛が呼びかけられる中で、『小麦粉』や『ホイップクリーム』など、お菓子の材料の売上が増加したとされています。
これは外出自粛により、家の中で子どもとのコミュニケーションをとるためにお菓子作りをする親御さんや、あるいは親子でお菓子作りをする機会が増えたためだという説もあります。
こうした身近な事例の他にも、株や不動産の世界では、一見無関係な事柄によって価格が上下するケースはよくあります。現代人にとっても『風が吹けば桶屋が儲かる』ということわざは、なじみのある言葉だと言えるのではないでしょうか。
あてにならないことに期待する意味も
『風が吹けば桶屋が儲かる』は、上記で紹介した「意外なところに影響が出る」という意味以外にも、「あてにならないことに期待する」という意味で使われることもあります。この点について詳しく見ていきましょう。
単なる思い込みのときにも使われる
十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に出てくる逸話では、実はまったく逆の意味として『風が吹けば桶屋が儲かる』が描かれています。
「強風が吹けば舞い上がった砂で盲人が増え、盲人が三味線を習うために猫が必要になるため、猫が減りネズミが増える。ネズミが桶をかじるため桶の需要が増えるのではないか」と考えたある男が、一念発起して全財産を投資して桶を買ったものの、結果的に全然儲からなかった、という逸話です。
この逸話から、現代では「無理矢理なこじつけ」や「単なる思い込み」として、このことわざが使われる機会も多くなっています。
「相場は相場に聞け」である
株式相場の格言の中に『相場は相場に聞け』というものがあります。これは、いくら分析を重ねて、綿密な予想を立てたところで、それらの分析や予想よりも実際の相場の方が正しい、という意味です。
自分の予想とは違う動きをしたとしても、自分の予想が正しいと思い込むのではなく、相場に従って臨機応変に対応することが大切、という教訓の込められた格言でしょう。
自分の判断にこだわりすぎてはいけない、という教訓としては『風が吹けば桶屋が儲かる』と類似点が多くあると言えます。
似ている表現との違い
『風が吹けば桶屋が儲かる』に似ている表現と、その表現との意味の違いについて解説します。
因果関係と相関関係の違い
相関関係とは、「二つの事象のうち、一方の変化によってもう一方も変化すること」を指します。数学の関数のようなものです。例えば、あるお店で買い物客が増えたことで売上が伸びれば、買い物客の人数と売上は相関関係にあると言えるでしょう。
因果関係とは、片方が『原因』、もう片方が『原因によって引き起こされる結果』という関係のことです。あるお店で、特売を行ったことで客数が増えたとすれば、『特売を行ったこと』が『客数が増えた』という結果につながったと言えます。
『風が吹けば桶屋が儲かる』は、複雑な因果関係を示したことわざと言えるでしょう。
バタフライエフェクトとの違い
『バタフライエフェクト』とは、蝶の羽ばたきがやがて竜巻に変わるといったように、ほんの小さな出来事が後々大きな出来事の引き金につながるという意味の言葉です。
『風が吹けば桶屋が儲かる』と似ていますが、こちらのことわざが「一見すると無関係なものが、意外なところに影響を及ぼす」という意味であるのに対し、バタフライエフェクトは「ほんの些細な出来事でも、やがて大きな変化につながるかもしれない」という、予測困難性を表す言葉として用いられます。
ほんの小さなきっかけにより、やがて大きな出来事が起こるときには『風が吹けば桶屋が儲かる』という言葉は用いません。
一方『思い込み』や『考えすぎ』の事柄に対して、バタフライエフェクトが使われることもありません。