一見不可思議に見える事件の謎を、一つ一つ解き明かしていくミステリー小説。秀逸なトリックに感心したり、意外な結末に驚愕したりとその楽しみ方はさまざまだ。また、ミステリーの定番は「フーダニット」、すなわち「誰が犯人か?」を明らかにしていくものだが、結末よりも推理の過程そのものを楽しむような作品も少なくない。
本記事では、ミステリー小説の定義について改めて解説した上で、おすすめの作品を紹介する。
【目次】
ミステリー小説とは?種類とおすすめの作品の選び方
ミステリー小説は、「推理小説」とほぼ同義。作中で何らかの”謎”が提示され、それを解決することが物語の主軸となる作品のことだ。一般的に、その”謎”は物語の最後まで明かされないケースが多く、読者は真相が何なのかハラハラしながら読み進めるため、「不安や緊張を抱く」という意味のサスペンスとジャンル分けにおいて重なることが多い。
ミステリー小説の中にも犯人が誰なのかを解明することに重点を置く「フーダニット」、なんらかの事情で外界から隔絶された場所(嵐の孤島、吹雪の山荘など)で事件が起こる「クローズド・サークル」、犯人の側から物語が進んでいく「倒叙形式」などさまざまな要素があり、一つあるいは複数の要素が絡み合って構成されている。
ミステリー小説は、その作者によって作風がある程度固定されているケースも多い。どのような展開が好みかによってジャンル、作家を選ぶのがおすすめ。
【一例】
・宮部みゆき:推理だけでなく人間ドラマも楽しめる
・湊かなえ:いわゆるイヤミスと呼ばれる、読んだ後に嫌な気持ちが残る作品が多い
・東野圭吾:映像化された作品が多く、シリーズものも豊富 など
また、複雑なトリックを楽しみたいなら長編作品を、読みやすさを重視するなら短編集を選ぶのも良いだろう。
2020年に出版された新刊
有名な作品や出版されてから時間が経った作品の場合、ふとした拍子にトリックのネタバレを目にしてしまう可能性がある。そういったことを避けたい時は新作のミステリー小説や、文庫になったばかりのものがおすすめ。シリーズものの作品の場合、作風が好みならそれ以前の作品も併せて読んでみよう。
マスカレード・ナイト 東野圭吾
「ホテル・コルテシア東京」を舞台に、捜査一課の若手刑事・新田と女性フロントクラーク・山岸の活躍を描いた人気シリーズの3作目となる『マスカレード・ナイト』。マンションの一室で若い女性が他殺体で発見され、その犯人がホテル・コルテシアのカウントダウン・パーティに現れる、という密告状が警察の元に届く。新田と山岸は、顔も分からない犯人を、捕まえることができるのか。シリーズ第1作「マスカレード・ホテル」は映画化もされており、そちらから入るのもおすすめ。
出典 公式サイト|マスカレード・ナイト 東野圭吾
ミステリークロック 貴志祐介
『ミステリークロック』は、防犯コンサルタント榎本と弁護士青砥の異色コンビが活躍する防犯探偵シリーズの第4弾。人里離れた山荘で巻き起こった殺人事件の謎を解明する表題作と他1編が収録されている。鍵の仕組みや侵入方法に異常に詳しく、飄々としながらどこか不穏な空気が漂う榎本と、正義感に溢れ真っすぐだがトンチンカンな方向に突き進む青砥の掛け合いもこのシリーズの魅力の一つ。公式サイトからは無料の試し読みもできる。
出典 公式サイト|ミステリークロック 貴志祐介
盤上の向日葵 柚月裕子
2020年11月現在、公式サイトの総合ランキング1位になっている『盤上の向日葵』。山中で身元不明の白骨死体が発見された。その遺留品である将棋駒の足取りを追う二人の刑事の姿と、奨励会を経ずに実業会からプロ棋士となった天才棋士、上条の半生が平行して描かれる。この二つの物語はどのようにして絡み合うのか?グイグイ引き込まれる展開と丁寧な描写が光る、傑作ミステリーだ。
出典 公式サイト|盤上の向日葵 柚月裕子
日本のミステリー小説
日本のミステリー小説にも名作が数多く存在する。日本ならではの時代背景や日常を生かした世界観、言葉を巧みに用いた伏線など、日本の作家だからこそ作り出せる独自のミステリーを楽しもう。
葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ』は、第4回本格ミステリ大賞など数々の賞を獲得している名作恋愛ミステリー。元私立探偵成瀬と、自殺を図ろうとしていた女性さくらの運命的な出会いから物語は展開していく。文中で語られる様々な物語が、最後に一本の線になり、同時に衝撃の事実が明らかに。どんでん返しの定番ともいえる作品だ。
出典 公式サイト|葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
刀と傘 伊吹亜門
2019年に本格ミステリ大賞を受賞した『刀と傘』は、幕末から明治初期の京が舞台。江戸から明治へ変換する時代の中で起きるいくつもの事件を、尾張出身の若き武士と初代司法卿が解決へ導いていく時代ミステリーだ。相容れない性質の二人が推理を戦わせる場面が見どころで、歴史が苦手という人でも読みやすい。5つの事件からなる短編集として構成された、筆者のデビュー作。
出典 公式サイト|刀と傘 伊吹亜門
氷菓 米澤穂信
映画化、アニメ化、コミカライズなど様々なメディアミックスが行われた『氷菓』。人が死なない日常系のミステリーとして、中学生や高校生でも手に取りやすい作品だ。文化部活動が盛んな進学校、神山高校の「古典部」に入部した生徒たちがさまざまな謎を解いていく「古典部シリーズ」の第一作目でもあり、本作では、古典部のメンバーが文集「氷菓」に隠された33年前のある出来事の真相に迫る。
出典 公式サイト|氷菓 米澤穂信
海外のミステリー小説
海外のミステリー、特に古典と呼ばれるような作品は、ミステリー小説の王道ともいうべき手法が多く用いられた名作ばかり。これぞミステリー!という作品を読みたければ、選択肢に入れてみよう。
そして誰もいなくなった アガサ・クリスティ
アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』は、読んだことがなくても一度は名前を聞いたことがあるのではないだろうか。ある孤島に招かれた、年齢や職業がバラバラな10人の客。しかし招待主の姿はなく、夕食時には彼らの過去の犯罪を暴き立てる謎の声が。そして1人、また1人と、不気味な童謡になぞらえた殺人事件により招待客はいなくなっていく……。クローズド・サークルの真骨頂が楽しめる、「ミステリーの女王」アガサ・クリスティの最高傑作のひとつ。
出典 公式サイト|そして誰もいなくなった アガサ・クリスティ
ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー
元地方検事局の捜査官である私立探偵、フィリップマーロウ。レイモンド・チャンドラーが生み出した名探偵で、そのハードボイルドな所作、数々の名言で多くのファンを虜にした。この『ロング・グッドバイ』は、マーロウを主人公とする作品の6作目。妻殺しの容疑をかけられたことで自殺してしまったマーロウの知人の男、その裏に隠された悲しくも奥深い真相とは。村上春樹が新訳を行ったことでも有名な本作。どちらのファンも必読の書だ。
出典 公式サイト|ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー
シャーロック・ホームズの冒険(Adventures of Sherlock Homes)コナン・ドイル
海外ミステリーを原文で読んでみたい!という人におすすめなのがコナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』だ。特にこのラダーシリーズは、使用語彙が1,600語程度に抑えられており、初心者でも読みやすい。シリーズの中でも特に有名な「まだらの紐」や、「唇のねじれた男」「赤毛組合」など計5編を収録。ホームズの華麗な推理を楽しみながら、英語の上達も期待できる。
出典 公式サイト|シャーロック・ホームズの冒険(Adventures of Sherlock Homes)コナン・ドイル
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文/oki