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引退した元日本代表の内田篤人や中村憲剛が指導者になるために通るべき道

2020.11.26

Getty Images/Etsuo Hara

 川崎フロンターレが史上最速のJ1制覇に王手をかけ、ブラウブリッツ秋田のJ2初昇格が決まるなど、シーズン終盤を迎えた2020年Jリーグ。今季は新型コロナウイルスの影響で4か月もの長期中断を余儀なくされ、6月末の再開後は超過密日程が続くといった紆余曲折に直面しながら、何とかここまで辿り着いた。コロナ陽性者は今後も何人かは出るだろうが、今のところラストまで試合を消化できそうな見通しだ。

 ただ、11月末ともなれば、チーム編成の見直しを余儀なくされる時期。大幅減収を強いられる各クラブが高年俸ベテラン選手との契約見直し、あるいは打ち切りに踏み切るケースも増えるのではないかという懸念も強まっている。そういう流れが加速すれば、現役引退を決断する者も増えそうだ。

選手と指導者は「全く別の職業」

 すでにシーズン途中に元日本代表の内田篤人(現JFAロールモデルコーチ)がユニフォームを脱ぎ、11月1日には40歳の大ベテラン・中村憲剛(川崎)も今季限りでピッチを去ることを発表している。2018年末の川口能活(U-23日本代表GKコーチ)や楢崎正剛(名古屋CSF)、中澤佑二(解説者)、2019年末の田中マルクス闘莉王ら、2010年南アフリカワールドカップ経験組の引退が近年続いているだけに、今後も大きな動きがないとも限らないのだ。

 その多くが指導者として第2の人生を踏み出している。川口はすでに東京五輪世代の守護神を指導しているし、楢崎も今年から名古屋のアカデミーで本格的に子供たちを教え始めた。内田も指導者ライセンスは持たないものの、ロールモデルコーチという特別な役職を与えられ、U-19日本代表に直々にアドバイスを与えている。中村憲剛も川崎で指導者人生を歩む可能性が高いと見られるが、彼ほどの戦術眼とサッカー知識を持っていれば、いずれJリーグの監督就任はもちろん、日本代表コーチングスタッフ就任も期待される。
 しかしながら、98年フランスワールドカップで日本代表エースナンバー10を背負った名波浩(解説者)がジュビロ磐田で苦労し、2002年日韓・2006年ドイツの両ワールドカップでキャプテンマークを巻いた宮本恒靖(G大阪監督)も就任1・2年目の2018・19年はJ2降格危機に瀕したように、名選手が名監督になるのは非常に難しい。

 というのも、選手と指導者は「全く別の職業」だからだ。

 日本サッカー協会の反町康治技術委員長は常日頃からそのことを強調している。
「私はJリーガーだった頃から指導者養成コースに通い、最初に取得したJFA公認C級指導者ラインセンスを足場にバルセロナに留学したり、高校のチームの指導したりしながら最上位のS級にたどり着き、36歳でアルビレックス新潟の監督になったが、本気で監督の仕事をしようと思うのなら、取るべきライセンスはきちんと取った方がいいと断言できる。選手と監督は全く別の仕事であり、監督気分で選手をやってはいけないし、選手気分のまま監督をやってもいけないからだ」

 JFA公式サイト上の同技術委員長のコラム「指導者への思い」でもこう記しているように、多様化・専門化するサッカーをつねにアップデートし、選手のフィジカル・メンタルなどの状態を把握して、最善のアプローチ方法を導き出していくためには、やはりそれ相応の勉強は必要だろう。

 幼児や小学校低学年に対しては「サッカーの楽しさ」を伝えるのが第一だろうし、ゴールデンエイジの小学校高学年には基本技術の習得を最優先にしなければいけない。思春期の中学生であればメンタル面のケアや成長期特有の傷害の対応は必須だし、高校生になってくればプロ予備軍として戦術的な要素も取り入れた指導があっていい。GKはキャッチングやセービングなどスペシャルなスキルを叩き込む必要があるし、フィジカル面を強化する専門的なコーチも存在しなければならない。

 こうした幅広い選手たちに合った指導法や指導経験を身に着けるのは一朝一夕にはいかない。カンボジア代表の事実上の監督を務めている本田圭佑(ボタフォゴ)は「ライセンスはいらない」と主張しているが、何の勉強もしないでいいとは断定できない。反町技術委員長も「圭佑の意見も一理あるだろうし、賛否両論があるのも分かっているが、やはりコツコツ勉強してライセンスは取るべき」と主張する。それは理解できるところだ。

トップ選手の指導者転身を阻むライセンス取得の壁

 とはいえ、内田や中村憲剛、本田のような高度な選手キャリアを持った人々が全くゼロからスタートしなければならないというのも問題ではある。現役時代にトップ・オブ・トップを走り、試合に出続け、代表にも参加してきた超多忙な人間ほど、現役選手対象のライセンス講習会に参加する余裕がなかったりする。協会は海外クラブ所属選手対象の特別講習会も年に数回開催しているし、現役プロ選手や日本代表キャップ数20試合以上の人に対してはEラーニングでC級・B級の専門科目受講を認めるなど、時間的な問題を少しでも解消しようと努めているが、なかなか参加者が増えないのが実情のようだ。

 前述の通り、内田もライセンスは未取得だが、U-19代表合宿に断続的に参加することで勉強の必要性を感じているだろう。おそらく来年から講習を受けると見られるが、S級取得るまでには4~5年は覚悟しなければならないのが実情だ。「現役の間は最高のパフォーマンスを出すことを最優先に考えるべき」と考える選手が依然として多いだけに、その時間的な問題をどうするか考えていくことも必要だ。

 例えば、自動車運転免許取得のように、引退後に集中的に指導者に必要な知識や教養を学ぶ合宿に通って座学を終え、所属していたクラブや高校・大学などで指導実践ができるような形になれば、最高峰ライセンス取得までの時間は多少なりとも短縮できる。内田や中村憲剛が引退から3年後くらいにJリーグ指揮官になれるようなスピード感になれば、もっと「サッカーを見てみたい」というファン拡大やサッカー人気向上にもつながる。そのあたりは反町技術委員長を中心に改善策を早急に考えてほしい。

 指導者ライセンスに関するもう1つの大きな問題は、JFAのライセンスが欧州で使えないこと。日本で取得したライセンスはアジアサッカー連盟(AFC)管轄内のチームでは有効だから、タイの西野朗監督を筆頭にアジア諸国を率いる日本人監督は何人かいる。けれども、AFCと欧州サッカー連盟(UEFA)のライセンスは互換性がないため、いくら日本で勉強に勤しんでも、欧州クラブや代表の指導はできない。世界中を渡り歩いてグローバルな発想を持つ本田が「ライセンスは必要ない」と主張している背景にはその現実もあるのだろう。

 実際、レノファ山口の霜田正浩監督も2017年に赴いたベルギー1部・シントトロイデンでU-23チームの監督になろうとしたが、ライセンスの壁に阻まれているし、オランダ1部・VVVフェンロで長年コーチを務めた藤田俊哉・JFA強化部会員も再三の主張が認められずに辛酸をなめている。
「オランダ協会に日本のライセンスを認めてもらえるよう掛け合っていたけど、『検討する』と言われるばかり。『あえてアジア人に指導者の資格を認める必要はない』という考えも根強かったと思います。実際、オランダのプロ指導者はとても狭き門。アマチュアから10年がかりで1、2部クラブのトップコーチになる人も少なくないですからね。
 選手として欧州でプレーする日本人は増えたけど、指導者としてはハードルが依然として高い。これから日本サッカーがさらに飛躍していくには、指導者としても欧州で認められることが必要。日本のライセンスが欧州でも認められるように今後も主張していきたい」と藤田強化部会員も厳しい現状を語っていたことがある。

 欧州で長年プレーし、語学力もある川島永嗣(ストラスブール)や長谷部誠(フランクフルト)らがクラブから推薦を受けて、各国協会のライセンス講習会を受講し、欧州トップライセンスを取るなどで、風穴を開けてくれれば状況も変わるかもしれない。
「引退後は指導者に」と一口で言っても、その道は非常に険しい。海外を視野に入れればよりハードルが上がる。それでも、内田や中村憲剛らスターたちには日本サッカーのレベルアップのために高い領域を目指してほしい。彼らがピッチ上で手腕を振るう雄姿を近い将来、ぜひ見たい。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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