分娩時の硬膜外麻酔が子どもの自閉症リスクと関連
硬膜外麻酔を用いた無痛分娩で生まれた子どもは、自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症リスクがわずかに上昇する可能性がある。
そんな研究結果が、約15万人の小児を対象にした後ろ向き出生コホート研究から示唆された。
硬膜外麻酔は、脊髄を覆う膜(硬膜)の外側に麻酔薬や鎮痛薬を入れる局所麻酔の一種であり、無痛分娩ではこの麻酔法が使われることが多い。
米カイザー・パーマネンテ南カリフォルニアのAnny Xiang氏らが実施したこの研究結果は、「JAMA Pediatrics」10月12日オンライン版に発表された。
ASDは脳の障害で、社会的スキル、コミュニケーション能力、行動制御に問題が生じる。ただし、障害の程度は個人差が大きい。
社会生活への適応や人とのコミュニケーションに軽度の問題を抱えている程度の子どもがいる一方で、ほとんど話をせず、反復的で強迫的な行動にとらわれてしまうなど、深刻な症状の子どももいる。
ASDの発症原因は特定されていないが、遺伝的要因が関わっていると考えられている。
また、環境要因もASDの発症に影響を及ぼすとする考え方も根強い。過去の研究では、分娩方法の影響も検討され、帝王切開、または陣痛促進剤を用いて生まれた子どもでは、ASDのリスクが高まることが示唆されている。
Xiang氏らは、2008年1月1日〜2015年12月31日の間に、単胎妊娠で生まれた14万7,895人(男児50.3%、平均在胎期間38.9週)の電子カルテデータを用いて、母親の硬膜外麻酔使用と子どものASD発症との関連について検討した。主要評価項目は、ASDの臨床的診断とされた。
対象者のうち、10万9,719人(74.2%)の母親が、硬膜外麻酔による無痛分娩で子どもを出産していた。
これらの母親のうち、1万3,055人(11.9%)には、分娩時に発熱が認められた。一方、硬膜外麻酔を受けなかった母親(3万8,176人)で発熱が生じたのは510人(1.3%)であった。
対象者の中でASDの診断を受けたのは、硬膜外麻酔を使用した母親から生まれた子ども(無痛分娩群)では2,039人(1.9%)であったのに対し、硬膜外麻酔を使用しなかった母親から生まれた子ども(非無痛分娩群)では485人(1.3%)であった。
生年や医療施設、母親の出産年齢、人種/民族、世帯収入、並存疾患の既往歴など、結果に影響を与える可能性のある多様な因子を調整して解析した結果、非無痛分娩群と比べて無痛分娩群では、ASDを発症するリスクが37%高いことが明らかになった。
さらに、無痛分娩群では、母親の硬膜外麻酔の使用時間が長いほど、ASDの発症リスクが上昇することも分かった。
Xiang氏らはさらに、硬膜外麻酔が発熱を引き起こす場合がある点に注目し、発熱の影響についても検討した。しかし、分娩中の母親の発熱と自閉症のリスクとの間に明確な関連は認められなかった。
こうした結果についてXiang氏は、「このような結果を聞いて、慌てる必要はない。母親が分娩時に硬膜外麻酔を受けていようといまいと、子どものASD発症率は低かったのだから。今回の結果から言えることは、どのような機序でこのような結果が生じたのかを、今後の研究で解明していく必要があるということだ」と話している。
米マーチ・オブ・ダイムズでチーフメディカル&ヘルスオフィサーを務めるRahul Gupta氏もXiang氏に同意し、「ASDは脳をベースに生じる複雑な障害であり、出生前、出生中、出生後のさまざまな要因が発症に関わっていると考えられる。硬膜外麻酔で使用される薬だけが原因でASDが引き起こされるとは考えにくい」と述べている。
一方、この研究結果の報告を受けて、米国麻酔科学会や米国産婦人科学会などの団体は、「この研究結果は、痛みを緩和するための硬膜外麻酔がASDを引き起こすことに対する、信頼できる科学的エビデンスとなるものではない」と主張。
「出産を控えた女性が、硬膜外無痛分娩を選択することを恐れる必要はない」との見解を示している。(HealthDay News 2020年10月13日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/article-abstract/2771634?resultClick=1
構成/DIME編集部