実は今、ジョージアは世界で最も注目されているワイン生産国のひとつだ。近年日本で人気が高い「オレンジワイン」も、ジョージアワインなくしては語れない。
今回、ナショナル・ワインエージェンシー・ジョージア主催による「ジョージアワイン・ウェビナー」に参加した。講師はジョージアワイン・アンバサダーを務める大橋健一MW(マスター・オブ・ワイン)(※)、コメンテーターは国内の数々のソムリエ大会で優勝した経歴を持つ日本ソムリエ協会副会長の石田博氏。
和食との相性も抜群の、世界で注目されるジョージアワインの魅力をご紹介したい。
(※)マスター・オブ・ワインとは、ワイン業界において世界中の有識者が目指す最難関の学位であり、大橋MWは日本在住の日本人でただ一人その学位を保有している。
8000年の歴史を持つ世界最古のジョージアワインとは?
ワイン発祥国は「ジョージア」である
ワインの歴史は古く紀元前まで遡る。ワイン発祥の地と言えばフランス、ギリシャなどを思い浮かべる方が多いかもしれないが、考古学上で世界的に認められているワイン発祥の国はジョージアなのだ。その歴史はなんと8000年も遡る。
世界中のワイン有識者がジョージアワインに注目
ワイン有識者の間では、ジョージアは今最も話題性のあるワイン産地である。
先日行われた全日本最優秀ソムリエコンクールではジョージアワインが出題された。ブドウ品種や料理のペアリングなど、「ソムリエが世界大会のコンクールを見据えた時に、きちんと押さえておくべきワインの生産国である」という認識がなされた瞬間だった。
さらに、イギリスに拠点を置くマスター・オブ・ワイン協会でも、7~8年前からジョージアワインに注目していた。トップソムリエやワイン業界に影響を与える世界中のマスター・オブ・ワインたちが今、ジョージアワインに熱い視線を注いでいる。
ジョージアはどこにあるの?
ジョージアは西側を黒海に面する小さな国である。1921年からソビエト連邦に属し、1991年に独立。2000年代になり西洋化が進み、現在はEUには属さず東ヨーロッパに位置している。
次に気候を見てみると、ジョージアの夏は山梨県と同じような気温だ。主に地中海性気候だが夏にあまり雨が降らないため、凝縮したブドウを取れることが特徴である。代表的なワイン産地のカヘティ地方の標高は250mから1000mほどであり、酸味と果実味の濃縮加減とメリハリがついている産地である。
これだけは押さえておきたい!ジョージアワインを代表する3つのブドウ品種
世界のワイン用ブドウ品種は1500~1600種ほどあるが、そのうちジョージアが発祥の品種はなんと525種もある。これほど土着品種が存在するということは大変な驚きである。
今回はジョージアを代表する、これだけは押さえておきたい3つのブドウに焦点を当てる。
さらに、石田ソムリエによる5本のワインテイスティングコメントと、おすすめの料理との組み合わせをご紹介したい。
1.ルカツィテリ(Rkatsiteli:白ブドウ)
一般的には柑橘系の香りがするのが特徴で、ライトボディで軽やかな白ワインを造る。
2.ムツヴァネ(Mtsvane:白ブドウ)
桃のような大きな種を持つフルーツの香りと、骨格のあるミディアムボディの味わいのワインを造る。
ルカツィテリとムツヴァネからオレンジワインを造る場合は、果皮や種を漬け込む時間とヴィンテージにより、味わいは軽めからしっかりとしたものまで変化する(オレンジワインの製法については後述する)。
試飲ワイン1
TSINANDALI 2015(ブドウ品種:ルカツィテリ、ムツヴァネ)
Producer:JSC Corporation Kindzmarauli
Region:カヘティ地方
Importer:富士貿易(株)
白ブドウを代表するルカツィテリとムツヴァネをブレンドした辛口白ワイン。
石田ソムリエ
「華やかさや熟した印象もありますが、同時にクリーンでさわやかな印象も併せ持ちます。甘い柑橘や蜜っぽさのあるリンゴ、白い花の香りと、白檀、ワックス、蝋のような雰囲気も感じられます。また木樽で熟成しているため、木樽の香ばしさや奥行きもあります。
味わいはスムースでありながら充実感があり、後半にかけては苦みが現れ、ドライに引き締めてくれます。華やかで芳醇な香りのため、あまり冷やし過ぎないことがポイントです」
【おすすめの料理】
・オコゼの唐揚げ、マゴチの刺身など。マゴチのお造りでは、醤油よりも「煎り酒」で合わせる方がおすすめ。
・炙った刺身、酒蒸し、天麩羅など魚の素材そのものを楽しむような日本料理
日本を代表するブドウ品種の「甲州」は、DNA鑑定の結果、ジョージアにルーツを持つことが分かっている。このことからも、ジョージアワインと和食の相性の良さは注目したいポイントだ。
3.サペラヴィ(Saperavi:黒ブドウ)
黒ブドウの果肉は通常緑色をしているが、サペラヴィは果肉も赤いブドウである。果肉はポリフェノールをたっぷりと含み、多いものではカベルネ・ソーヴィニヨンの約1.5倍~2倍ものポリフェノールを含む。
試飲ワイン2
ROYAL MUKUZANI 2015(ブドウ品種:サペラヴィ)
Producer:KTW
Region:カヘティ地方
Importer:エスティエイチアース(株)
石田ソムリエ
「濃いダークチェリーレッドの色調で、濃縮感と深みのある香りを感じます。いちじく、プラムの果実のほかに、スパイス、胡椒、チリペッパー、一味唐辛子のようなスパイシーさと、鉄分を感じさせる香りなど、様々な香りが表現豊かに感じられます。
口当たりはスムースでしなやかです。タンニンはしっかりしていますが、やさしさもあります。『スパイシー、鉄っぽさ、野性味のある』味わいがポイントです」
【おすすめの料理】
・赤身で野性味のある鴨鍋、ぼたん鍋など
・レバー焼き
・肉団子の甘酢あんかけなど、酢を使って仕上げる料理
・スパイスの多いタレを使って楽しむ韓国焼肉
・様々なスパイスに合う薬膳鍋
「かめ容器」で醸造するユニークなジョージアワインとは
ここからは、ジョージアを代表する伝統的な醸造方法をご紹介したい。
ジョージアでは、「クヴェヴリ(Qvevri)」と呼ばれる大きな卵型のかめ容器でワインを造る製法があり、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されている。
同じく「和食」も同年にユネスコ無形文化遺産に登録されているので、和食にジョージアワインを合わせると、二つの無形文化遺産を楽しめるという素晴らしい体験ができるのだ。
(クヴェヴリの大きさは様々で、一般的には地中に埋めて使用する)
オレンジワイン
白ブドウからクヴェヴリでワインが造られると「オレンジワイン」となる。日本でも人気が高まっているオレンジワインとは、一体どんなワインなのだろうか。
通常、白ワインは、白ブドウを圧搾した液体(ジュース)を発酵させてワインを造る。オレンジワインは、白ブドウの果皮や種も全てクヴェヴリの中で3~6か月ほど漬けっぱなしにして発酵・熟成させる(ただし、ブドウの軸については取る生産者が多い)。
アプリコット、柿、びわのような香りを持つワインとなり、果皮からポリフェノールや色素が多く出て、美しい琥珀色になる。ジョージアでは「アンバーワイン」と呼ばれているが、世界的には「オレンジワイン」と呼ばれる。果皮や種も漬けるので、赤ワインのように「渋み」も感じられるのが特徴だ。
試飲ワイン3
GIUAANI RKATSITELI 2018(ブドウ品種:ルカツィテリ)
Producer:Giuaani
Region:カヘティ地方
Importer:ディオニー株式会社
石田ソムリエ
「濃いゴールドの色調で、果皮の内側の芳香成分が全てワインに移っているからこそ、芳香力の高さを感じます。アプリコット、ネクタリンなど種のある甘い果物の香りで、洗練された印象です。ワックスや蝋のニュアンスもあります。
味わいはスムースさと濃縮感、ジューシーな感じがあり、後味に舌全体を包む収斂性も感じられます。洗練された、深みのあるワインです」
【おすすめの料理】
・すき焼き(薄味の醤油がおすすめで、卵の黄身と合う)
・オコゼ、マゴチ、あんこうの炭火焼き
試飲ワイン4
SHALUARI CELLARS MTSVANE 2018(ブドウ品種:ムツヴァネ)
Producer:Shalauri Wine Cellars
Region:カヘティ地方
Importer:株式会社モトックス
石田ソムリエ
「アンバーの色調が強く、香りはとてもリッチで濃厚で、香りの広がりが豊かです。先ほどのルカツィテリはエレガンスさがありますが、こちらのムツヴァネは濃厚さがあります。味わいは丸みのあるふくよかさがあります。白ブドウの漬け込み期間が長いことから、皮や種からのタンニンもより多く感じられるため、力強いフィニッシュです」
【おすすめの料理】
・脂の乗った魚(鯖、ぶり、肉厚のほっけなど)
・照り焼き、西京焼き
・焼き鳥(タレ)
とても美しい琥珀色はまるでウイスキーと見間違えてしまいそうだ。光を通すと、とても美しく写真映えもする。綺麗な色合いに思わずウットリと眺めてしまうだろう。
最後は、クヴェヴリから造られた赤ワインだ。このクヴェヴリの内側には小さな気泡がたくさんある。この気泡がワインのポリフェノール分の抽出を促し、ワインの味わいを早くまとめ、さらに土っぽいニュアンスを加える。半月から3か月ほど漬け込んで造る。
試飲ワイン5
VAZISUBANI ESTATE SAPERAVI 2018(ブドウ品種:サペラヴィ)
Producer:Vazisubani Estate
Region:カヘティ地方
Importer:株式会社オーバーシーズ
石田ソムリエ
「圧倒的な色の濃さがあり、香りも濃縮感と土っぽい感じが際立っています。鉄分のニュアンス、枯葉、紅茶、タバコなど複雑さを与える植物系の香りを感じます。濃縮感と奥行き、複雑さがあります。口当たりはスムースでジューシーです。味わいのジューシーさとタンニンの密度のバランスが取れています」
【おすすめの料理】
・BBQ料理(牛肉、鹿、鴨など鉄分質のお肉や豚、レバー、スパイシーなソーセージなど)
・黒酢の酢豚
本記事の1、2番目でご紹介したワインは、クヴェヴリを使用していない醸造法となり、「ヨーロピアンスタイル」と呼ばれている。
筆者は初めてジョージアワインを試飲したが、初めて出会う個性豊かな味わいや香りに多くの驚きがあった。
オレンジワインではアプリコットやよく熟した柿のような香りとしっかりと厚みのある味わいが、クヴェヴリの赤ワインはインクのような濃厚な色と、土の香りも感じる飲み応えのある味わいが大変印象に残った。どのワインも飲み終えた後にエレガントな余韻に包まれる。
早速飲んでみたい! 世界中でトレンドのジョージアワイン
歴史の古いジョージアワインだが、近年になりジョージアが国を挙げてワインの輸出を強化しており、ユニークな醸造方法やワインの品質の高さに注目が集まっている。
ワイナリーの数は、2016年の160軒から2019年には1012軒と6.3倍に増えており、世界でますますジョージアワインが親しまれていくのではないだろうか。
石田ソムリエは「ジョージアワインは料理との可能性が高く、幅広く合わせられるワインです。身近な料理との相性も良いですし、8000年も前から変わらずに造られているワインであることがとても魅力的だと思っています」と最後に締めくくった。
日頃さまざまな国のワインを楽しんでいる方も、個性とバラエティ豊かなワインを造るジョージアワインを飲んでみると、今まで飲んだことがない味わいや色合いに驚き、新しい発見をするだろう。
世界最古の歴史とストーリーを持つジョージアワインを楽しんでみてほしい。
【講師紹介】
撮影地:ジョージアにて(写真左:大橋健一MW、写真右:石田博氏)
・大橋健一MW
酒類専門店の株式会社 山仁(栃木県宇都宮市)代表取締役社長。自らのコンサルタント会社株式会社Red Bridge をベースに国内外のワイン&日本酒業界で活躍。世界最大級のワイン・コンクールとなるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)のパネル・チェアマンも務める。日本酒の分野でも(独)酒類総合研究所の清酒専門評価者の資格も保持している。名実ともに日本酒とワイン、双方のシーンに深く精通した数少ないThe Wine & Sake Expertである。
・石田博氏 (一社)日本ソムリエ協会 副会長
数々の国内ソムリエコンクールを優勝。2000年第10 回世界最優秀ソムリエコンクール第 3 位。2011 年厚生労働省現代の名工、2014 年11 月内閣府黄綬褒章受章。2015年アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール優勝。2016 年第 15 回世界最優秀ソムリエコンクールセミファイナリスト。同年6 月より目黒雅叙園顧問。同年 6 月よりレストランローブ(東麻布) 開業。 2017 年 (株)HUGE コーポレートソムリエ。
【主催】
National Wine Agency of Georgia
【協力】
株式会社Red Bridge
取材・文/Mami
(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート