■連載/石野純也のガチレビュー
5Gに初対応したiPhone 12シリーズだが、バリエーションがiPhone Xのころの3機種展開から、4機種展開に広がったのも、大きなトピックの1つだ。オールスクリーンを搭載した初のコンパクトモデルである「iPhone 12 mini」が加わったためだ。
そのディスプレイサイズは、5.4インチ。これだけ聞くと、第2世代のiPhone SEより大きいように思えるかもしれないが、サイズは高さ131.5mm×幅64.2mm、厚さ7.4mmで、どちらかというと、コンパクトさに定評のあった第1世代のiPhone SEに近い。ホームボタンがないぶん、コンパクトなボディに大きな画面を詰め込んだのが、iPhone 12 miniと言えるだろう。
一方で、機能はiPhone 12とほぼ同じ。チップセットは「A14 Bionic」で、ディスプレイも有機ELを採用しており、解像度も2340×1080ドットと高い。処理能力に関しては、最上位モデルの「iPhone 12 Pro Max」と比べてもそん色なく、パワフルな端末に仕上がっている。初の登場で注目を集めるiPhone 12 miniを、発売に先立ち試用できた。そのレビューをお届けしよう。
手にしっかりおさまるサイズ感、持ち運びもしやすい
iPhone 12 miniは、とにもかくにも、まずはサイズ感をお伝えしておきたい端末だ。手に取った時に、小ささに驚きがあるからだ。と言っても、超小型の「Rakuten Mini」のような極端さではなく、手にしっかりなじむサイズ感。どこか懐かしさを感じる持ち心地なのは、第1世代のiPhone SEや、そのベースになったiPhone 5、5sに近いサイズだからだろう。
iPhone 12シリーズは、全モデルに有機ELを採用し、シリーズ間のデザインを統一。iPhone 12 miniにも、直線的な形状のフレームを採用している。iPhoneは、「iPhone 6」以降、丸みを帯びたボディになっていき、ホームボタンを廃した「iPhone X」でも、デザインランゲージの一部は受け継がれていた。丸みを帯びたフレームは、昨年発売されたiPhone 11まで続いている。サイズだけでなく、デザイン面でも、第1世代のiPhone SEを彷彿とさせるというわけだ。手に持った感覚が近いと思ったのは、そのためだ。
他のiPhone 12シリーズと同様、直線的なフレームを採用。第1世代のiPhone SEを彷彿とさせる
本体がコンパクトなため、操作性、特に片手でのそれは他のiPhone 12シリーズに比べて大きく向上している。片手で持っても、親指が画面の端までしっかり届き、安定して操作可能。画面上部に指を伸ばすために端末を持ち替えたり、もう一方の手を使ったりする必要がなく、サクサクと操作できる。iPhoneも他のスマホと同様、大画面化が進んでいたため、この操作感は新鮮。大画面スマホにどうしてもなじめなかった人には、高く評価されそうだ。
コンパクトなため、持ち運びの際に収納しやすいのもポイント。ポケットに入れても、突っかかったり、はみ出したりすることがない。女性が持つような小さなバッグにも、難なく収納できる。バッグを持たずに近所まで外出するようなシーンでも、サッと持ち運べるサイズ感と言えるだろう。サイズだけでなく、重量も133gと軽く、長時間持っていても疲れない。
コンパクトなため、ポケットにもすっきり収まる。軽くて持ち運びやすいのもうれしい
処理能力やカメラ機能は横並び、小さいながらも機能は最高峰
一方で、コンパクトながらも、機能は最新のiPhone 12と横並びだ。ディスプレイは小さいものの、ピクセル密度は476ppiと、iPhone 12シリーズで最高で、チップセットも横並びで「A14 Bionic」が採用されている。A14 Bionicは、現行のスマホではトップクラスの性能を誇り、3Dグラフィックスを駆使したゲームなどもスムーズに動かせる。4K動画を撮ってその場で編集するといったことも可能。写真の編集も、スピーディに行える。ベンチマークアプリのGeekbench 5で数値を見ても、他のiPhone 12シリーズとほぼ同じスコアだった。
Geekbench 5でのスコア。他のiPhone 12シリーズとほぼ同じで、スマホの中ではトップクラスの性能を誇る
カメラは、iPhone 12とまったく同じスペック。超広角カメラと広角カメラのデュアルカメラで、A14 Bionicの力を生かした「スマートHDR3」に対応する。被写体を検知して、写っているものごとに最適な処理をかけることで、画質を向上させているのも他のiPhone 12シリーズと同じ。実際、同じ被写体を撮ってみるとわかるが、仕上がりもまったく変わらない。以下は、それぞれiPhone 12 miniとiPhone 12 Proで撮った写真だが、撮り方で多少の差がある以外の違いは見当たらない。
上がiPhone 12 mini、下がiPhone 12 Proで撮影した写真だが、仕上がりで機種を見分けるのは難しいだろう
暗所撮影も強化されており、複数枚の写真を合成してノイズを減らして明るく撮影する「ナイトモード」は、広角カメラだけでなく、超広角カメラやインカメラにも対応した。1秒から2秒程度、本体をしっかり固定しておく必要はあるが、手持ちで撮っても手ブレはほとんど発生しない。ナイトモードは暗所での撮影品質を大きく上げる機能だっただけに、対応するカメラの幅が広がったのはうれしい改善と言えるだろう。
もちろん、動画撮影のDolby Visionにも対応しており、明暗差の大きなシーンを、見た目以上に華やかに撮影できる。特に、ネオンなどの強い光源があると、映像がきらびやかになるのでオススメだ。iPhone 12 miniも、HDRで撮影された動画を再生すると、自動的に輝度が最大1200ニトまで持ち上がる仕組みになっており、鮮やかさは他のデバイスで見た時を大きく上回る。撮った動画を他人にシェアしても、そのよさがなかなか伝わらないのはもどかしいが、iPhone 12シリーズが広がれば、その感動を共有しやすくなるだろう。
動画はDolby Visionで撮影可能。より人間の目に近い、ダイナミックレンジの広い動画を撮れる
5Gでの超高速通信にも対応する一方で、サイズ感ゆえのトレードオフも
新たに、MagSafe for iPhoneに対応しているのも、iPhone 12シリーズの特徴だ。ワイヤレスチャージャーや、ケース、さらには背面に取り付けられるレザーウォレットなどが販売されているが、これらを磁力で背面にパチッと取り付けることができる。特にワイヤレスチャージャーは、本体の位置がズレて充電されていなかったという心配がなくなり、利便性が高い。コンパクトなため、レザーウォレットをつけてもあまりかさばらない。
MagSafeに対応し、磁力で様々なアクセサリーを取り付けることが可能だ
しかも、このサイズながら、他のiPhone 12シリーズと同様、5Gにも対応している。エリアはまだまだ限られるが、5Gに接続すると、通信速度は一気に跳ね上がる。5Gに接続した際に、FaceTimeや動画サービスのコンテンツを高画質化する機能にも対応する。この設定は、auで容量無制限の「データMAX 5G」などに加入していない場合、標準ではオフになってしまうが、手動でオンにしておくことをオススメしたい。
5Gに対応。5G接続時に、自動でコンテンツを高画質に切り替える機能にも対応する
万能に見えるiPhone miniだが、サイズ感ゆえにトレードオフになる部分もある。相対的に、他のiPhone 12シリーズよりディスプレイが小さいため、映像の迫力が小さくなるうえに、文字も細かくなってしまう。視力によっては、ある程度顔から離して使うのは厳しいと感じるかもしれない。iPhoneには、アイコンや文字などを大きくする「拡大」表示も用意されているが、この設定にすると、1画面に収まる情報量が減ってしまう。
文字が小さいため、拡大表示にすると、今度は1画面あたりの情報量が落ちてしまう
また、本体サイズが小さいと、搭載できるバッテリーも少なくなる。公式に明かされているスペックを見ても、ビデオ再生が15時間とiPhone 12より2時間短い。オーディオ再生も50時間で、iPhone 12より15時間ほど減っている。実利用でどこまで差があるのかを具体的に示すのは難しいが、使っていると、やはりバッテリーの減りは他のiPhone 12シリーズより速い印象がある。こうしたトレードオフを許容できなければ、バランスを取ったiPhone 12やiPhone 12 Proの方がいい。いずれにせよ、サイズの選択肢が増えたことは歓迎できる。コンパクトなiPhoneを求める人にとっては、待望の1台と言えそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★★
UI ★★★★★
撮影性能 ★★★★★
音楽性能 ★★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
生体認証 ★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。