店員と客の間に透明シートが設置されたり、消毒液が常備されたりと、不特定多数の人が出入りする施設はことごとく「ウィズコロナ仕様」になっている。
中でも、具合の悪い人が行く場合の多い薬局では、ことさらコロナ対策を徹底していることだろう。
そんなウィズコロナの薬局事情を探る意識調査がこのほど、合同会社スマスタにより、就業中の薬剤師の男女118名を対象にして実施されたので、その結果を紹介していきたい。
新型コロナの疑いがある患者に対しての対応とは
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染疑いのある患者さんが来局した時にどう対応しているかを聞いた。
回答の第一位は「薬局の外(患者さんの車や簡易テント・別室・病院など)で投薬している」、第二位は「消毒・防護の徹底や離れたカウンター・待合室で対応している」、第三位は「新型コロナ感染疑いの患者さんが来たことはない」だった。
それぞれの代表的な意見は下記の通り。
■1位.薬局の外(患者さんの車や簡易テント・別室・病院など)で投薬している
・コロナウイルス感染の疑いがある患者が来た場合は、クリニックの職員が処方箋を持って来ます。その際患者の電話番号を教えてもらい、電話にて薬の受け渡し方法や薬の説明などを行います。薬の受け渡しは薬局外に設置した受け渡しボックスを使うか、車の近くまで薬を持っていき、接触しないように渡します。会計は振り込みにしてもらいます。
・病院の発熱外来受診患者さんは、車もしくは病院の隔離された場所で待機となり、処方せんは病院の事務の方が持ってきます。病院の方から携帯電話の番号も教えてもらうので、薬の準備ができたら、電話にて問診・投薬を行います。料金についても事前に伝え、おつりがある場合は釣銭も用意してから患者さんのもとに薬を届けます。防護服は高価なので、100円ショップなどで購入したレインコートを着て、手袋・ゴーグルをして届けています。
・本人がいるか確認、家族同伴であれば、家族に薬局内へ来てもらう。車で待機していただき、受付や投薬などをすべて薬局外で行う。スマホで処方箋を送信する仕組みも活用している。
・門前の病院の場合はあらかじめ連絡をくれるようにお願いしてあります。来局の際は外に出て待っていて頂いて、投薬などすべて外で行うようにしています。
■2位.消毒・防護の徹底や離れたカウンター・待合室で対応している
・他の患者さんとは離れた場所に待機させる。投薬の際も投薬口にはきてもらわず、薬剤師がコロナウイルスの疑いのある患者のもとに行き対応する。現金でお会計をした場合は現金をも消毒。
・発熱や咳症状がある患者は待合室に赤い線をテープで引いているため、そこで一般患者と分けています。また、投薬台も一番外側で投薬するよう心がけています。
・一番端のカウンターで投薬し、投薬後はカウンターなどを念入りに掃除します。そこだけ拭いていると他の患者さんが怪しむので局内全体的に掃除します。またコロナ疑いの場合は優先的に投薬し、接触時間・滞在時間は短くしています。
■3位.新型コロナ感染疑いの患者さんが来たことはない
・コロナウイルスの感染疑いのある患者さんは、今のところ来ておりません。もし来られた場合は、処方せんだけお預かりして送薬にて対応しようかと思っています。
・今の所実際に来局されたことはないですが、サージカルマスクの着用と手指衛星の励行は標準予防策として行っております。換気、消毒の徹底もしてます。
・今のところそのような状況はないが、インフルエンザの患者さんは裏口から出入りしてもらい別室での対応を取っているのでそのようにすると思う。
▼分析
6割を超える薬局で、新型コロナウイルス感染疑いのある患者さんに対して薬局の外で投薬を行っていた。薬局の外での投薬が難しい場合は、他の患者さんとは離れた場所での待機・投薬としている模様。
一方で、「新型コロナウイルスの患者さんが来たことはない。」「新型コロナウイルスの患者さんかどうかわからず対策できない。」という声も聞かれた。
薬局内でのコロナ対策、第一位は「アクリル板やマスクなどの防護対策・投薬後の手洗いや消毒」
次に、薬局内での新型コロナウイルス感染拡大防止策を聞いた。(複数回答可)
回答第一位は「アクリル板やマスクなどの防護対策・投薬後の手洗いや消毒」、第二位は「定期的な換気・待合室やカウンター・小銭等の消毒・備品の排除」、第三位は「手指消毒やマスク装着・ソーシャルディスタンスなど、患者さんへ感染拡大防止のお願い」だった。
それぞれの代表的な意見は、下記の通り。
■1位.アクリル板やマスクなどの防護対策・投薬後の手洗いや消毒
・換気、手洗い、消毒、窓口をアクリル板にかえる。第一波のときは、防護服、ゴム手袋、眼鏡をして患者応対しておりましたが、現状少し緩くなりました。
・顔や髪を触らないようにするのと、ウェルパスのような手指消毒剤だけでなく、流水を使って手指を洗う回数を増やしました。
・WHO基準の手洗い手技の徹底。調剤室から出入りしたら必ず擦過式アルコールジェルを使用。出勤時と昼休憩時の2回体温チェック。3蜜を避ける。他の情報や対策があっても、上記のようなエビデンスのある1次情報からブレないように心がけています。
※WHO基準の手洗いについて
厚生労働省の提示する手洗い手技と基本的に同じだが、WHO基準には最後に「蛇口をペーパータオルで蛇口を止める」というステップが入っている。
汚染された蛇口を直接触らないことで、再度手が汚染されることを防いでいる。
参考:WHO基準の手洗い手技 https://www.who.int/gpsc/clean_hands_protection/en/
■2位.定期的な換気・待合室やカウンター・小銭等の消毒・備品の排除
・可能な限り室内の換気と消毒を行なっています。雑誌や新聞など不特定多数の人が触れるものを排除しました。
・1時間毎の待合室空気の入れ替え作業、手すりやソファーなどのアルコール消毒。空気清浄機導入。
・エンベロープを持ったDNAウイルスですので、アルコール消毒が第一選択の対応となります。次亜塩素酸、プラズマクラスターなどの酸化力のある物質での効果も一部報告されていますが、否定的なデータもあるため、原則アルコール消毒一択の対策となります。職員はマスクを着用しますが、ビジュアル的な効果のみで、マスクで効果があれば現在の状況は生まれていないと考えます。
■3位.手指消毒やマスク装着・ソーシャルディスタンスなど、患者さんへ感染拡大防止のお願い
・ソーシャルディスタンスを保つために、待合席は1つあけて座ることを徹底しています。マスクの着用をされない方の来局はお断りしています。
・マスクをつけてない方にはマスクをお渡しして、つけてもらうようにしてます。
・ソーシャルディスタンス確保のため、床にテープで立ち位置を表示。
▼分析
アクリル板の設置やマスク・手洗いなどでの薬剤師の感染予防、待合室の消毒や換気など患者さんの感染予防の、双方への感染対策が行われていた。
様々な情報が交錯する中で、WHOの基準を基本としている薬局が多い模様。ウィズコロナ時代が長く続くことにより患者さんの予防意識が薄れる可能性が高いため、感染拡大防止への声かけも必要となりそうだ。
コロナ後に気を付けるようになったことは?
新型コロナウイルス流行前後で何がどう変わったのか。コロナ後に気を付けるようになったことを聞いた。(複数回答可)
回答第一位は「消毒や換気・マスクの装着など感染予防を徹底するようになった」、第二位は「私生活で感染予防に気を付けるようになった」、第三位は「病院を受診する人が減った(長期処方含む)」だった。
それぞれの代表的な意見は、下記の通り。
■1位.消毒や換気・マスクの装着など感染予防を徹底するようになった
・投薬後の手指消毒を必ず行うようになったこと。換気に注意するようになった。風邪の処方が来た時、注意するようになった。
・元々狭い店舗で、そんなに仕切り板もないような薬局でした。しかしコロナの影響で、患者さん同士、薬剤師も距離を十分に取れるように現在は投薬スペースの見直しなど業務の根本的な改善が行われています。
・感染症に対する対策の重要性は再認識したが、患者さんだけでなく従業員への感染対策や健康チェックもとても大切であると感じ、気をつけている。不安を軽減するための対策と、感染症対策の教育など、特に事務員さんへの教育は大事だと感じている。
■2位.私生活で感染予防に気を付けるようになった
・飲み会に行かないなど、私生活に気をつけるようになった。医療従事者としての責任を改めて認識した。
・自分の健康管理に対して、しっかり考え直し改善する様にしました。特に、手洗いうがい、食事、睡眠といった基本的なことを重視して改善しました。食事は毎日3食必ず食べるようにし、栄養バランスの取れた食事を心掛けています。睡眠は、夜更かしをやめて1日最低でも7時間は寝るようにしています。
・外出はなるべく控えるようにして、大好きだった百貨店のバーゲンやセールにも参加しなくなりました。職場と自宅との往復だけで、旅行はNG。通信販売をメインに生活するようになりました。また、同僚ともなるべくソーシャルディスタンスを保って、雑談を控えるようになりました。
■3位.病院を受診する人が減った(長期処方含む)
・無駄な受診が明らかに減り、こんなに来ないものなのかと不安にまで感じました。また処方日数も長期に増え、安定してる患者は家の近くに転院。
・小児の患者が激減した。感染予防の意識の高まりもあるが、無駄に受診回数の多い患者も多かったのかなと感じる。
・予防に関する意識が高まり、風邪などの感染症にかかる方が減った。
▼分析
仕事中・私生活共に、感染予防を意識するようになったという声が多く聞かれた。
医療従事者である自分自身が感染者になっては大変と、大きなプレッシャーを感じている方も少なくないようだ。
長期処方化や受診控えにより、処方箋枚数の減少が見られる薬局もあった。風邪などの感染症にかかる患者さんが減ったせいもあるが、これまでには無駄な受診が多かったとも言えるだろう。
薬局はどんな「減収対策」をしているのか?
新型コロナウイルスの流行により、受診控えや長期処方化から医療機関の減収が起きている。調剤薬局においても、多くの薬局で処方せんの枚数減少が報告されている現状。
。
そこで最後に、減収が起きている薬局にお勤めの方に、減収への対策を聞いた。(複数回答可)
回答第一位は「減収への対策は行っていない」、第二位は「減収は起きていない」、第三位は「残業の削減など人件費のカット」だった。
それぞれの代表的な意見は、下記の通り。
■1位.減収への対策は行っていない
・特段、対応はなし。不良在庫の整理やサービス品質の向上などで面分業の処方箋の集客を継続して行う程度です。
・減収は一時的だったので特に何もしておりません。
・他の店舗かあるので、そちらで賄っている。整形や内科は変わらず。小児科は半分に落ち込んでいる。
■2位.減収は起きていない
・外来患者は減少しているものの在宅患者が増加傾向にあるため薬局としての減収はないようです。
・面で処方箋を受けているため、コロナウイルスではほとんど減収にはなっていないので対応策は特にありません。
・門前クリニックがコロナ抗体検査を実施していることから、全く影響なし。門前以外からの患者へのマスク配布サービスもしています。
■3位.残業の削減など人件費のカット
・週20時間以上で会社で保険に入っていたパートの方に辞めていただき、保険に入らなくても良い別のパートの方が新しく入りました。残業も出来る限りしないように言われています。
・人件費の削減(給料の高い社員を配置転換などで辞めさせる方向にもっていく、店舗配属の人員数を減らす)・手当の削減・給与の見直し・人事評価制度の見直し。
・派遣薬剤師の雇用見直し。かかりつけ薬剤師の登録強化。
▼分析
減収は起きたものの対策をするほどではないという回答も多く、実際に減収対策を行っていると回答した薬剤師は48.3%だった。
減収対策として最も多いものは人件費カットであり、残業を減らすだけではなく人員を減らしている薬局も少なくない模様。
特にパート・派遣の契約終了が複数挙げられた。
ウィズコロナ・アフターコロナにおいても受診控えや長期処方化が続くと予想されるため、薬剤師個人も経費削減や増収を意識する必要があるだろう。
<まとめ>
薬剤師118人に対するウィズコロナでの薬局事情のアンケートにより、以下のことがわかった。
・新型コロナ感染疑いの患者さんに、特別対応を取っている薬局が大半
・薬局内や薬剤師自身の消毒・換気などで、薬局での感染拡大予防に取り組んでいる
・新型コロナ流行により、感染予防の意識が高まったり処方せん枚数が減ったりした
・新型コロナによる減収対策は、人件費カットや加算を増やすことで対応している
・新型コロナウイルス感染症により、薬剤師を取り巻く環境や業務内容も大きく変化した。
<調査概要>
調査方法:インターネットによる調査
調査対象:就業中の薬剤師の男女
調査期間:2020年10月12日~10月21日
調査エリア:全国
サンプル数:118名
出典元:合同会社スマスタ
構成/こじへい