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大好きなばあちゃんの最期を看取った猫の話

2020.11.11

猫が死んだ朝

家に帰って、玄関に迎えに来たばあちゃんの猫を抱きあげようとして、かなりきつく咬まれた。血がにじむほどの力で咬んできたのにびっくりした。

ばあちゃんが亡くなってから、ずいぶん人懐こくなっていたので、まさか咬んでくるとは思わなかった。ショックと同時にちょっとホッとしている。猫は大好きなばあちゃんを亡くした悲しみから立ち直ったのだ。

祖母が亡くなったのは半年前のこと。寝ている間の突然の死だった。
最期を看取ったのはこの猫で、朝、母が見に行ったら枕元で猫が丸くなっていたという。

猫は祖母が散歩中に拾い、ミルク飲み時代から大切に育て、一緒にくらす孫の私や弟よりも可愛がっていたから、特別な絆があったのだろう。

祖母だけにべったりなついていて、他の家族には冷たい態度だった。特に嫌われていた弟は抱こうとして何回も咬まれたほど、気が強い性格だった。

ばあちゃんはいつも猫を気にしていた。いないと不安で大声で「猫はどこ?」と呼ぶ。すると猫はどこからともなく表れる。

安心してテレビの前のソファーでうたたねするばあちゃんと、膝の上で眠る猫の姿が、わが家の日常風景だった。

ばあちゃんの葬儀は遺言通り、自宅で行い、棺が玄関を出る時、猫が変な声で鳴くのを聞いた。「猫も悲しいと泣くのだな」と父がつぶやいたのが、忘れられない。

ずいぶん長い間、猫はばあちゃんを探すようにウロウロ部屋の中を歩き回っていたが、四十九日を境にウロウロ歩きは止んだ。
そして、ソファーに座っている家族の膝に乗り、甘えるような態度を見せてくるようになったのだ。

みんな「ばあちゃんが亡くなって、寂しいんだね」と同情して可愛がった。それで私もうっかり過去の狂暴な気質を忘れていた。
油断していて、ガブっとやられたわけだ。

血がにじむ手の甲は痛いけれど、こんな風に昔の猫らしさが残っていたのだと思うと、ちょっとだけ安心する。

ばあちゃんが亡くなって、変わったように見えていたけど、やっぱり以前と同じ猫だった。甘ったれに見えても、どこかで人間に心を許さない、猫の強さは残されていた。それがまた、この子の魅力でもある。

ばあちゃんを亡くして、悲しみにくれても、元の自分を取り戻した。そんな猫の強さとしたたかさを、私は密かに尊敬している。

文/柿川鮎子(PETomorrow編集部)
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

構成/inox.

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