◆高橋晋平の憂鬱な月曜日を楽しくする研究会
日本には、休日明けの月曜が嫌いな人が多すぎる……。その現状を改善するため、月曜日を楽しくしたい人のコミュニティ「月曜クラブ(通称:月ク)」が立ち上がりました。この連載では、月曜日の憂鬱を減らし、一週間を楽しく過ごす方法を研究、紹介していきます。
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今回は、『カサうしろに振るやつ絶滅しろ! 絶滅してほしい!?迷惑生物図鑑』という本を生み出した、企画作家の氏田雄介さんと対談させていただきました。迷惑な振る舞いや古い慣習をキャラクター化したこの本を見ながら、以前から親交のある2人で、社会人の月曜日を憂鬱にさせている迷惑生物について語り合ってみました。
氏田雄介(うじた ゆうすけ) ※本文中では敬称略
1989(平成元)年、愛知県生まれ。早稲田大学を卒業後、面白法人カヤックに入社。2018年、株式会社考え中を設立し、企画作家として独立。著書は、当たり前のことを詩的に綴る『あたりまえポエム』(講談社)や、1話54文字の超短編集『54字の物語』シリーズ(PHP研究所)、迷惑行為をキャラクター化した『カサうしろに振るやつ絶滅しろ!』(小学館)など。「ツッコミかるた」や「ブレストカード」など、ゲームの企画も手がける。プランナーとしてコンテンツスタジオのCHOCOLATE Inc.にも所属。
迷惑生物図鑑が生まれたきっかけ
高橋:どういう経緯でこの本が生まれたんですか?
氏田:きっかけはTwitterの投稿です。本の表紙になっている「カサウシロフルス」などのイラストを自分で描いて投稿したら4万くらいRTされて、これは面白いからシリーズ化してみたいなと思いました。その後、所属している会社のCHOCOLATE Inc.経由で小学館さんに書籍化していただけることになって、今年の8月に発売されました。
絶滅してほしい生物図鑑 pic.twitter.com/yAO8y93WOs
— 氏くん (@ujiqn) May 23, 2019
氏田:もともと、「カサをうしろに振って歩く人、危ないなあ」とずっと思っていたんです。
高橋:僕、人生でカサをうしろに振る人が気になったことなかったかも。
氏田:そうなんですね。僕、普段あまりイライラしたりしないんですが、唯一気になっていたのがこの「カサをうしろに振る人」で。
高橋:ちなみに氏田君は、休み明けの月曜日を憂鬱に感じることはあるんですか?
氏田:憂鬱だった記憶があまりないですね。仕事もずっと好きだし、平日と休日の境目もあまりなく、いつも仕事のことを考えていたい感じです。でも、早起きは嫌でしたね。前職のとき、最初は朝早く行かなければならなくてツラかったんですが、途中から働き方が変わって、出社する時間を自由に決められるようになったんです。それから月曜の午前は休日だと思うようにしていました。
高橋:なるほど。それって結構強いというか、柔軟な考え方ができる人だなと思います。僕だったら、たとえ月曜の午前が休みだったとしても、もし他の人が出社していたり、メールが飛んできたりすると心がザワザワしますね。
氏田:確かに、今だとSlackを月曜午前にパッと開いて、未読がいっぱいたまっていたりすると、「休んでていいのかな」と思ったりしますね。
高橋:そう! 僕、Slackが本当に苦手なんですよ。不可避というか。仕事でSlackになるべく入れられないように最後まで粘るんだけど、結局最後は入ることになったりします。メールやFacebookメッセンジャー、LINEなどは、土日は絶対開かないですね。でもその反動で、月曜に全部開いたときに「うわー!」ってなったりします(笑)。
氏田:未読を全部つぶしてから休まないとスッキリしないけど、すぐにメンションが飛んできたりして。
高橋:これまで、仕事で嫌な人に関わったことなどはありますか?
氏田:悪い人には出会っていないですね。上司に仕事を振られるのが嫌で、できるだけ人のいない席で仕事したりしていたことはありましたけど。
高橋:幸せな仕事人生ですね。
氏田:忘れているだけかもしれないですね。僕、嫌なことをすぐに忘れるタイプなので。
月曜日に人々にダメージを与えている迷惑生物は?
高橋:この本に出てくる迷惑生物の中で、コイツ月曜を憂鬱にさせているな、っていうやつを挙げてみたいです。気になるキャラクターはいますか?
氏田:月曜の憂鬱って、満員電車の影響がすごく大きいと思うんですね。それでいうと、「デンシャノハシビロコウ」っていう迷惑生物がいまして。あの、電車の入口の端にいるやつです。これ、僕もたまにやっちゃうんですけど。
高橋:僕もやっちゃう!
氏田:あの場所を取れるとダメージが少ないんで、行っちゃうんですけど、そのせいで他の人がダメージを受けているんだなって。
高橋:確かに。こういう、地味なダメージが蓄積するのかな。「デンシャノハシビロコウ」を絶滅させるにはどうしたらいいんだろう。
氏田:混んでいる電車って、奥の方が意外とすいているから、奥に入って行ったりしますね。
高橋:僕、一時期、あえて吊り革につかまらないで立って、足を鍛えようとしていたことがありましたね。派手に電車内で転倒してやめたけど。あとは、立ったまま目を閉じて瞑想してみるとか。
氏田:確かに、お金を払ってマインドフルネスをやる人もいるくらいなので、電車をマインドフルネスの場にして、習慣にするのはいいですね。
高橋:あと、僕が気になった迷惑生物は、ベタだけど、「マウンティンゴリラ」かなあ。いわゆるマウンティングする人ですよね。
高橋:こいつ、この本では「メディア・SNS」のカテゴリーにいるけど、これも僕、自分でやっちゃっていることがあるんですよ。僕、人と会って話すときはたぶん正直な人間なんですけど、SNSになると盛っちゃうんですよ。アピールしまくるというか。普段の会話だと弱みを見せながら話すことでうまくコミュニケーションできるんだけど、ネットで自分の弱点とか汚い部分を見せるのってめちゃくちゃ怖くて、キラキラした投稿をするんですよね。その結果、たぶんその投稿を見て僕のことを「マウンティンゴリラ」だと感じて、ダメージを受けている人はいると思うんですね。で、僕も他の人のキラキラした投稿を見てダメージを受けている。誰も悪いわけじゃないから、「マウンティンゴリラ」を絶滅させるのは本当に難しいと思います。SNSの世界では必然的に出現しちゃうのかもしれないですよね。
氏田:みんな誰かにとっての「マウンティンゴリラ」になっているっていうのはありますよね。僕はFacebookをあまり使わないんですが、嬉しいことがあったときしかFacebookに投稿しないので、Facebookの僕しか知らない人からは、常に充実した生活を送っている人だと思われているかもしれないんですよね。そうなると、受け手側にとっての「マウンティンゴリラ」になっちゃいますね。
高橋:本の「マウンティンゴリラ」のページに書いてある対策の「見ざる、聞かざる、比べざる」っていうのがポイントですよね。
氏田:受け手側の心持ちでしかないんですよね。
高橋:ほかにいるかな。
氏田:会社だと、「ゼンレイナイト」ってやつも、月曜に影響を及ぼしていますよね。
高橋:こいつが出現した出来事が、まさに昨日あったんです。そのプレゼンでは、「前例がない」っていうようなことを言われるのはもうわかっていたけど、企画屋としては新しい企画を出すしかなかったというか。だけど「前例がない」と言わざるを得ない理由もわかっているんです。製品が開発されて流通するまでの流れの中で誰か一人が前例を大切にすると、そこに引っ張られていってしまったりするんですよね。
氏田:クライアントさんによっては、前例が必要なことがありますよね。絶対にこの数字を達成しなければならないから過去のこれに習おう、とか。僕は、幸運なことに一緒にチャレンジしたいと言ってくれるパートナーさんと新しいことを作る仕事が多いので、「ゼンレイナイト」はあまり出現しないですね。
高橋:で、この「ゼンレイナイト」も、自分がそうなっちゃう可能性がすごくあると思っていて。僕、学生さんに進路を相談されることがよくあるんですけど、「最初は大企業に行った方がいいよ」って言っちゃうんです。それは、自分が最初に大企業に入ったことですごくたくさんのことを学べて、10年間働いたら独立起業できるようになったっていう成功体験があったから、それしか言えないというか。
氏田:わかります。僕もちょうど昨日、会社に来ていたインターンの高校生と話していたら、大学に行くかどうか迷っているって言っていたんです。その人は目線もすごく先を見ているし、スキルも高くて、僕たちが学生時代に置かれていた状況とは時代も含めて全然違うから、会社のみんなで「大学には行かなくてもいいんじゃない」っていうような話をしていたんですけど、僕は心のどこかで「一応大学行っておいた方がいいんじゃないかな」って思っている自分に気づいてモヤモヤしました。出身大学で見られる会社もあるし、悪い言い方をするとつぶしがきくかも、とか思ってしまって。
高橋:今の話で、やっぱり自分の経験でしか話せないんだなあ、って気づかされました。みんな、目の前で見たり経験したりしたことでしか話せないから、「ゼンレイナイト」になっちゃうこともやっぱり必然なのかもしれないですね。何の確証もなく「やってみようぜ!」って言うのも、例えば自分がお金を出す立場なら怖いし、無責任なことを言って人に迷惑をかける怖さもあるし。
迷惑生物図鑑は、自分の行動に気づく本だった
高橋: …って話していたら、この迷惑生物図鑑って、タイトルに「絶滅しろ!」ってあるけど、全部自分のことだなって思って。
氏田:そうなんですよね。
高橋:この本の楽しみ方がようやく今わかりました。人は自分のことが一番見えないもので、僕も疲れて帰っているときに、無意識で傘を後ろに振っていた可能性は十分にあるんですよね。迷惑生物は、全部自分のことかもしれないと思って読む本だなと。だから、月曜日の憂鬱を減らそうと思うなら、迷惑生物を見つけて批判するんじゃなくて、自分が迷惑生物なのかもしれないということに気づいて、自分を直していくのがいいなと思いました。
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高橋:最後に、月曜が憂鬱だという方々へのメッセージをいただけますか?
氏田:この本もそうなんですけど、嫌なことがあったら、「その嫌なことを作品にできないか」を考えるのがおすすめです。例えば「傘を後ろに振る人が嫌だな」と思って、それを絵にしてみよう、そして図鑑にしてみよう…、と考えていくと、嫌なことのネタを50個集めることになるんですよ。そうすると、嫌なことがあったときに、「やった、1個アイデアが増えた」っていう考え方に逆転するんですよね。嫌なことを楽しんで集められる作品や仕組みを作るといいのかなと思います。自分の根底にはそういう企画の考え方があったから、ツラいと思うことがあまりないのかもしれません。
高橋:これ、すごく共感します。ツラいことを克服できたら、例えばその方法を商売にできたりもするんですよね。1冊本を書けたり。
氏田:逆にチャンスですよね。自分の他の著書の『54字の物語』(テキストリンク:https://amzn.to/343ENxe)も、長い文章が書けないコンプレックスがあったから、短い物語を書ける仕組みを作ったんですよね。弱点の克服の仕方にオリジナリティを出すと作品になって、逆に弱点がメリットになります。そうするとツラいと思うことが減っていくかもしれません。
【聞き手】
高橋晋平(たかはし しんぺい)
株式会社ウサギ代表取締役、おもちゃクリエーター。悩みや面倒を「遊び化」することを考え、月曜日を楽しくする方法の研究もしている。人生でやりたい企画を作るオンラインセミナー「IDEA of LIFE」主宰。近著に『企画のメモ技』(あさ出版)。Twitter : https://twitter.com/simpeiidea
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