2020年10月1日、東京証券取引所の取引がシステム障害により1日ストップしました。その中でも取引が可能だったPTSとは何でしょうか。
PTSとは?
株式は通常証券会社を介して、証券取引所に注文が出され、証券取引所で取引が成立します。
一方、PTSとは証券取引所を通さずに、株式取引が行われる私設取引システムをいいます。
PTSは、証券取引所が開いているときは、証券取引所での価格とPTS価格とで比べ有利な価格の方で取引ができます。呼値の刻みが証券取引所より細かいためより有利な価格で売買できます。
このように有利な価格で注文執行するときには、証券会社でSOR注文の設定が必要です。自動で有利な市場に注文発注が可能になります。
例えば、東証の売気配が3,005円(呼値5円刻み)、PTSの売気配が3,004.5円(呼値0.5円刻み)であれば、PTSの売気配3,004.5円に買注文をぶつければ、0.5円安く買うことができ10,000株なら5,000円有利に買付することができます。
また、証券取引所は15時までのため夜間に取引はできませんが、PTSなら夜間取引が可能です。
夜間取引が可能なのはジャパンネクストのみですが、23時59分まで取引できるため、日本時間の17:30から(サマータイム16:30)始まるヨーロッパ、23:30から(サマータイム22:30)始まるアメリカの市況を見ながら、先んじて日本株の取引を行うことができます。
さらには、2020年10月1日のような証券取引所自体が取引ストップした場合でも、PTS市場なら取引することができました。
現在日本株式を取り扱うPTSは、以下の2つです。
・【日本最大のPTS】Japannext PTS(ジャパンネクスト、略称:JNX、運営会社:ジャパンネクスト証券)
・chi-x PTS(チャイエックス、運営会社:チャイエックス・ジャパン)
上記内容は、接続する証券会社によって取引時間等が異なることがあります。
なお、PTSで取引した株は、証券取引所で売買したときと全く変わらず、証券会社の口座に入り株主優待や配当金の権利等を受けられます。
PTSの問題点
PTS取引所は私設市場の取引であるため参加者が限られています。注文量が証券取引所より少なく注文が成立しにくいこともあります。
また、証券取引終了後のPTS取引は、翌日の実際の証券取引所での価格と大きく違う可能性もあるため、注意が必要です。
10月1日の証券取引所のシステム障害で取引ストップしたときに、PTSが代替となり得ればよかったのですが、東証の取引価格がないときのPTS価格は信頼できないとして、実際その日のPTS市場は取引量が激減し、あまり大きな動きとはなりませんでした。
現在の日本株取引は証券会社を介して証券取引所に注文が出されるのが主で、国内株式の9割近くが日本取引所グループ傘下の東京証券取引所に上場しているため、取引も集中しています。証券会社は東証に注文を出すと取引料を東証へ支払わなければなりません。そいて、ほとんどが東証に取り次がれるため価格競争が起きずその取引料は下がりません。そのため、ネット証券はPTSへの取引が増えれば東証に支払わなければならない取引料が減り、証券会社はさらに取引手数料を値下げできる余地が生まれるのです。
さらに、ネット専業証券では取引手数料の無料化競争が起きており、PTS取引拡大で取引手数料の値下げ競争に競り勝ちたいところでしょう。
現状、PTS取引をするには証券会社で注文執行にPTS市場も入れる設定をあらかじめする(SOR注文)か、注文時にPTS市場を選ぶ必要があります。ただ実際には、PTSを取り扱っていない証券会社がほとんどであるため、有利な価格はPTSを含めた価格で注文をすることができません。
欧米では最良執行方針として、PTSも含めた一番有利な価格で注文を出せるように厳格なルールが義務づけられています。そのため取引所間でも競争があり、取引所が逆に証券会社に報酬を支払うことで、手数料無料の米スマホ証券ロビンフッドが急成長しました。
日本の最良執行方針はPTS外の証券取引所の中でのみであり、例えば名古屋証券取引所、東京証券取引所で上場しているなら東京証券取引所を優先執行させるというような、東証の寡占状態となっています。
2019年にPTS取引での信用取引が解禁され、取引に占めるPTSシェアが拡大しています。さらなるPTS拡大になれば、投資家は有利な価格で注文でき、さらに取引手数料の値下がりを享受できるかもしれません。
文/大堀貴子
フリーライターとしてマネージャンルの記事を得意とする。おおほりFP事務所代表、CFP認定者、第Ⅰ種証券外務員。