おせちの具材にはそれぞれに意味があり、重箱に詰めるものも段ごとに決まっています。大人の教養として知っておくと、役に立つこともあるでしょう。おせちの由来や歴史、具材に込められたおめでたい意味などを紹介します。
おせちの由来と意味
おせちとは、本来どのような料理なのでしょうか。まずは、由来や意味などの基礎知識を紹介します。
元は神へのお供えである節供
おせちは、正月を祝う意味で食べる料理です。おせち料理ともいい、漢字では『御節』と書きます。
本来おせちとは、暦の上での『節句(節供/せっく・せちく)』を指す言葉です。『せちく』という言い方に『お(御)』を付けた『おせちく』から、おせちと呼ばれるようになったといわれています。
季節の節目を表す節句は五つあり、全てをあわせて五節句と呼びます。かつて、おせちは節句を迎えるたびに作られていた料理でした。やがて、1番目の節句である正月にのみ食べるようになり、現在では正月料理として定着しています。
おせちを食べる意味
かつて、元旦には、各家庭に『年神様(としがみさま)』が訪れ、その年の幸福をもたらすとされていました。
おせちは年神様へのお供え料理として作られ、五穀豊穣・子孫繁栄・家族の健康と安全などへの祈りを込める意味で、海や山の幸をふんだんに盛り込んだといわれています。
また、大晦日の夜にやってくる『歳徳神(としとくじん)』へのお供え料理として出されていたという説も有力です。
今でも、東北の一部地域で大晦日におせちを食べる風習が残っていますが、ほとんどの地域では年越しそばを食べる風習に取って代わったとされています。
おせちの歴史
誕生から現在に至るまでの、おせちの歴史を紹介します。呼び名や食べる時期、入れ物の変化などに注目してみましょう。
はじまりは弥生時代
縄文時代後半に中国から伝来した稲作が、弥生時代に全国へ広まったことで、日本は狩猟採集社会から農耕社会へと変化しました。
稲作と共に、暦も中国から日本へ伝わり、中国由来の五節句に収穫を神様に感謝する『節供』の風習が生まれたことが、おせち料理のはじまりとされています。
奈良時代や平安時代には、節ごとの儀式が宮中行事として執り行われるようになりました。
この儀式を『節会(せちえ)』といい、節会には御節供が振る舞われたことから、風習に過ぎなかったおせちは、お祝い料理として定着していきます。
定番になった江戸時代
江戸時代に入り、五節句が祝日に定められ、幕府の公式行事となったことで、庶民の間でも節ごとに御節供を食べるのが一般化していきました。
時代が進むにつれ、御節供は正月にのみ作られるようになり、江戸時代後期には一品ごとに意味を込めた新年のお祝い料理として定番化します。大晦日におせちを作り、正月に家族そろって食べるというスタイルが生まれたのもこの頃です。
また、江戸時代後期から明治時代にかけては、おせちを重箱に詰めるスタイルが確立していきます。
それまでは、おせちも酒宴のスタイルと同様にお膳に載せて供されていましたが、盆状の器が次第に使われなくなり、現代まで続く重箱スタイルに変わりました。
第二次世界大戦後におせちと呼ばれるように
おせちに使われる具材は、江戸時代後期から現在までそれほど変化していません。しかし、「おせち」という呼び方が広く一般化したのは、第二次世界大戦が終わったあとです。
戦後の日本では、多くのデパートで重箱に詰められた見栄えのよいおせちが販売され、全国的な人気を集めました。
このとき、各デパートが『おせち』という名称を使ったことが、現在まで広くおせちと呼ばれるようになった大きな理由です。
今では、伝統的なスタイルのおせちだけでなく、洋風なものや有名シェフが手掛けたものなど、商品の種類も多彩になっています。ネットで予約購入できるおせちが人気を集めていることも、時代の流れを反映しているといえるでしょう。
重箱に詰める具材
おせちに詰める具材は、段ごとに決められています。何段目にどのようなものを入れれば良いのかを覚えておきましょう。重箱に詰める理由も解説します。
おせちはなぜ重箱に入っている?
おせちは、重箱に詰めるスタイルが定番です。重箱を使うのには、いくつかの理由があるとされています。
お祝い料理として振る舞われるおせちには、めでたいことを祝うという意味が込められているため、重箱を使うことで「めでたいことを重ねる」という縁起担ぎの意味を持たせられるのが理由の一つです。
実用的な面でも、重箱を使う意味があります。おせちには、正月の三が日に食事を作らなくても済むようにという意味あいもあり、蓋付きの重箱は数日間保存するのに大変便利です。
また、おせちは正月の来客に振る舞われる料理でもあります。きれいな重箱に詰めて準備しておけば、見た目を過度に気にせずに済むでしょう。
四段や五段の場合
おせちの正式な段数は四段です。上から順に、一の重・二の重・三の重・与の重という名称が付いています。四段目の『与』は、縁起が良くない数字とされる『四』の代わりに付けられている当て字です。
一の重には、「黒豆」「数の子」「田作り」などの『祝い肴(ざかな)』を詰めます。二の重に詰めるのは、『口取り』と呼ばれる、「きんとん」「かまぼこ」「伊達巻」などの甘味のあるものが中心です。
三の重には、「エビ」や「鯛」など海の幸を詰めます。与の重に詰めるのは、「野菜の煮物」などを中心とした山の幸です。
なお、五段の重箱を使う地域もあります。五の重は控えの重とし、空にしておくのが一般的です。
三段重の場合
おせちの正式な段数が四段とされるのは、完全な数字とされる『三』にもう一段重ねたことが理由です。近年は昔と比べて家族の人数が減ってきたこともあり、三段重でおせちを作るケースも増えています。
三段の場合は、一の重に「祝い肴」と「口取り」を一緒に詰めます。二の重には「魚やエビなどの焼き物」と一緒に「酢の物」を入れます。
三の重には、「野菜などで作った煮物」を詰めるのが正式な詰め方で。箸が進んで重箱に隙間ができた場合にも、四段から三段に詰め直す際に、この詰め方を知っておくと役立つでしょう。