企業に勤める人の中には、納税に関して源泉徴収と年末調整だけに頼っている人も多いかもしれません。しかし、確定申告をすることで、条件によっては払い過ぎた税金が戻ってきます。年末調整の概要とともに、確定申告の方法についても知っておきましょう。
「年末調整」と「確定申告」の違い
納税にまつわる手続きとして広く知られているものに「年末調整」と「確定申告」があります。どちらもよく耳にする言葉ですが、それぞれの概要について押さえましょう。
給与所得に対して行う「年末調整」
「年末調整」とは、会社から支払われる給与所得にかかる所得税額を割り出す手続きを指します。
毎月の給与の支給にあたっては、概算の所得税額が天引きされています。これを「源泉徴収」といいますが、ここで引かれているのは、あくまでもおおまかな金額です。
そこで、1年間の給与所得が確定する年の終わりに、住宅ローン控除や生命保険料控除なども考慮して、正確な税額を算出します。その上で、税金の払い過ぎがあれば還付され、不足していれば追加で徴収されるのです。
このように、最終的に納税額を確定させる手続きが「年末調整」です。
全ての所得に対して行う「確定申告」
年末調整が給与所得に対するものである一方、「確定申告」は、その人の1年間の所得全体に対する納税額を確定させる手続きです。
収入が企業からの給与だけである場合は、年末調整で所得税額を確定させることが可能です。
しかし、給与以外の所得があるビジネスパーソンや個人事業主は、確定申告を経なければ正確な納税額を割り出せません。
確定申告では、所得を10種類に分類し、それに該当する所得にまつわる納税額を計算します。1月1日から12月31までの1年間の所得を、翌年3月15日までに申告し納税する制度です。
会社員でも確定申告が必要なケース
企業からの給与を得る会社員は、所得が給与のみの場合、年末調整だけで事足りるケースが多いといえます。しかし、『会社員だとしても、確定申告が必要な場合』もあります。
どのような場合に、確定申告が必要となるのでしょうか?
副業や不動産の売却をした
会社員が確定申告が必要となるケースで、まず挙げられるのが『副業による収入があった場合』と『不動産の売却を行った場合』です。
働き方が多様化した現代では、会社員でも『副業』を持つ人が増えています。そして、給与以外に20万円を超える所得を副業で得た場合には『確定申告の義務』が生じます。
なぜなら、所得税は1年間に得た全ての所得金額に対して、累進課税によって課される税だからです。しかし、副業で得た金額が20万円以下ならば確定申告は不要です。
また、『不動産を売却して利益が生じたとき』も、確定申告が必要です。この場合「譲渡所得」に分類され、その他の所得と切り離して税額を割り出す『分離課税』となります。
ほかの所得と分離されるため、たとえ売却によって損失が発生しても、赤字と黒字を相殺する損益通算はできません。ただし、二つ以上の土地・建物の売却で、それぞれに利益・損失が生じたときは相殺可能です。
売却した物件がマイホームであった場合には、特例が適用されます。譲渡で得た利益が3000万円までなら、税金が免除されるのです。
出典:No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁
出典:分離譲渡所得と他の所得との損益通算|国税庁
出典:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁
贈与や相続などを受けた
次に、『贈与』や『相続』を受けた場合についても見ていきましょう。
親族から110万円を超える贈与があると「贈与税」が発生し、贈与税の申告が必要となる場合があります。ただし、財産が生活費や教育費として提供されたときは、この限りではありません。
住宅の取得や増改築のための資金として贈与を受けた場合には、110万円の基礎控除に加え、「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」が適用され、贈与税はかかりません。それぞれの合計限度額は、以下の通り契約の締結日によって異なります。
1.住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%の場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ住宅 | 左記以外の住宅 |
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3000万円 | 2500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1500万円 | 1000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1200万円 | 700万円 |
2.1.以外の場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ住宅 | 左記以外の住宅 |
~平成27年12月31日 | 1500万円 | 1000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1000万円 | 500万円 |
令和3年4月1日~令和年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
『親などから相続した建物を売却して利益を得たとき』も、確定申告が必要です。そして、確定申告をすることによって、特別控除を受けられるようになります。
平成28年に実施された税制改正で『空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例』が新たに設けられました。
平成28年4月1日~令和5年12月31日までに相続した建物の売却に際し、定められた条件に該当していると、3000万円の特別控除が適用されます。
出典:財産をもらったとき|国税庁
出典:No.4405 贈与税がかからない場合|国税庁
出典:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
出典:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
株式などの金融商品を扱った
『金融商品の取り扱いによって利益を得た場合』にも、確定申告の義務が生じます。
株式の売買などで得た所得には『分離課税』が適用されます。それゆえ、会社員としての給与とは切り離されて、税額が計算されます。
ただし、株式でも投資信託でも『特定口座(源泉徴収あり)』で取引をしている場合には、確定申告は不要です。
ほかにも、満期を迎えた保険の解約などで支払われた保険金は『一時所得』にあたり、確定申告が必要です。ただし、払い込んだ保険料よりも受け取った額が少なく、損失が生じていれば、申告しなくても問題ありません。
出典:金融商品にかかる税金│税制関連│SMBC日興証券
出典:No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき|国税庁
確定申告をした方がお得なケース
ここまで確定申告を行わなければならない場合について見てきました。次に、義務ではないものの『確定申告をした方が得になるケース』について解説します。
一定額以上の医療費が発生した
200万円を限度として、一定以上の医療費が発生した場合には、確定申告により「医療費控除」が受けられることがあります。医療費控除については、年末調整の対象とならないため、確定申告によって控除を受ける必要があるのです。
医療費控除の対象となるのは、申告者だけではありません。生計を一つにする家族(仕送りをする家族なども含む)にかかった医療費もあてはまります。
ここで言う医療費には、処方されたり薬局で購入したりする薬代や、治療を受ける際の移動にともなう交通費も含みます。
なお、生計を一にする家族に所得がある人が複数いる場合、所得の多い人が申告する方が有利です。そうすることで、還付額が多くなる可能性が高くなります。
出典:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
ふるさと納税などの寄付をした
生まれ故郷や特定の自治体に対して寄付を行う『ふるさと納税』や、団体に対して寄付を行う人もいるでしょう。このような寄付行為についても、対象となっていれば「寄附金控除」を受けられる場合があります。
企業での年末調整ではなく、原則的に寄付者本人による確定申告が必要です。
しかし、ふるさと納税に限っては、『ふるさと納税ワンストップ特例制度』が施行されていて、納付先が年間で五つまでならば、給与所得者でも確定申告の必要はありません。
寄附金控除の対象は限定的で、寄付をしても控除が受けられない場合もあるため、よく確認しましょう。
出典:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
出典:総務省|ふるさと納税ポータルサイト|トピックス|制度改正について(2015年4月1日)
被災・盗難にあった
自然災害や火災などで被害を受けたり、盗難・横領などで損害を被ったりした場合には、「雑損控除」が受けられます。これも年末調整の対象外で、控除の対象とするためには確定申告を行う必要があります。
申告には、災害によって発生した支出の領収書や、警察署・消防署など公的機関による証明が求められる場合があるため、しっかりと確認しておきましょう。
出典:No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
年末調整で控除の申告漏れがあった
時には、年末調整で申告漏れが生じることもあるでしょう。そのようなときでも「還付申告」によって払い過ぎた税金を取り戻すことが可能です。
マイホームを手に入れた、扶養家族が増えた、配偶者と死別・離婚したといった場合には、税負担の調整がなされます。にもかかわらず、年末調整で書類提出が漏れていたり忘れてしまったりしたときに行える手続きです。
会社員でも確定申告が必要な人とは
「会社員に確定申告は不要」と思い込んでいる人は多いようです。しかし、副業などをしておらず、給与以外の所得がなくても、確定申告が必要な人がいます。その条件について説明しましょう。
給与が2000万円を超える人
給与として受け取る収入が2000万円を超える人は、確定申告をしなければなりません。その理由は、高額所得者には適用されない控除などがあるため、会社での年末調整は行われないからです。
一般的に年末調整では、社会保険料控除や配偶者控除、扶養控除などが行われています。それらに関しても、自ら確定申告をすることで、所得控除を行わなければなりません。
出典:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
2カ所以上から給与を得ている人
給与を2カ所以上から得ている人も、合算した金額に対して確定申告をする義務があります。
ただし『主たる給与以外の所得』が20万円以下であれば、申告の必要はありません。勤務先で年末調整がなされており、扶養控除をはじめとする所得控除の計算が済んでいるためです。
出典:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
構成/編集部