◆高橋晋平の憂鬱な月曜日を楽しくする研究会
日本には、休日明けの月曜が嫌いな人が多すぎる……。その現状を改善するため、月曜日を楽しくしたい人のコミュニティ「月曜クラブ(通称:月ク)」が立ち上がりました。この連載では、月曜日の憂鬱を減らし、一週間を楽しく過ごす方法を研究、紹介していきます。
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今回は、新刊『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)がヒット中の、世界ゆるスポーツ協会代表理事、澤田智洋さんと対談させていただきました。すべての人が生きやすい世界を目指して、いろいろなものごとを「ゆるめたい」と言う澤田さんと一緒に、「ゆる月曜日」というものを作れるならば、それは一体どんなものなのかを話し合ってみました。
世界ゆるスポーツ協会代表理事/コピーライター。1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳の時に帰国。2004年、広告代理店入社。映画「ダークナイト・ライジング」の『伝説が、壮絶に、終わる。』等のコピーを手掛ける。 2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。 これまで80以上の新しいスポーツを開発し、10万人以上が体験。海外からも注目を集めている。 また、一般社団法人 障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、視覚障害者アテンドロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスも多数プロデュースしている。近著に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)。。
ゆるめる、とは、何なのか?
高橋:本のタイトルが『ガチガチの世界をゆるめる』ですけど、あえて最初に大きい質問を投げさせてください。どうして ”ゆるめたい” んですか?
澤田:いきなり大テーマですね(笑)。もともと自分自身が生きづらさを感じていたことがきっかけです。海外で13年ほど幼少時代を過ごしたんですが、17歳で日本に帰ってきたときに、どこへ行ってもアウェーで。海外にいると「アジア人」だし、日本に来たら「帰国子女」と言われる。そうしているうちに人が苦手になっていって、高校3年生のときなんて、人が嫌すぎて、ずっとサングラスをしていたりしたんです。ガチガチの地球で暮らしている感覚がずっとありました。
高橋:なるほど。
澤田:ただ僕は明確に障害者ではないので、周りから心配されるということもないわけです。グレーゾーンが一番しんどいんですよね。
高橋:そうですよね。僕は幼少期に少し心臓が悪くて、周りに心配してもらっていたんですけど、その方が楽な場合もあるかもしれないですよね。認定されていたから、運動会で一生懸命走ると、「がんばったがんばった!」って褒めてもらえたし。
澤田:福祉の世界で「あるある」なのが、小さいときから何か落ち着きがなくて、みんなと同じことができなくて虐げられて、30代になって初めて発達障害ですっていう診断を受けた途端、うれし涙が出てしまう、とか。認めてもらえることで、苦しみから解放されることってありますよね。
高橋:自分も以前あるきっかけで子供の発達障害のことを勉強したときに、子供も大人もみんな、グレーゾーンなのかもしれないなと思ったことがあります。
澤田:その後僕は広告代理店に入ってコピーライターになったんですが、キャッチコピーならぬ「キャッチ概念」を考えることを始めました。キャッチコピーって、例えば数か月かけて作ったものが、キャンペーンが終わると共に一週間で消えていってしまったりするんですよね。だからサステナブルな言葉を作りたいと思って。例えば、高知県への移住促進コピーを書いてほしいという依頼から始まって、「高知家(こうちけ)」っていうキャッチ概念を作りました。高知県はフレンドリーな県民性があるから、県を一つの家族に見立てる言葉だったんですけど、7年前からいまだに使われているんです。言葉が長生きすると、インフラのようになって、人の意識や行動の流れも変わる。これに手ごたえはあったんです。やっぱり言葉で少しずつ世界を変えることはできるんだなと。
高橋:なるほど。言葉って人間にとって想像以上に大切なんだなって改めて思いました。
澤田:そうしているうちに、生まれてきた自分の息子に障害があってスポーツができず、僕もスポーツが苦手なので、親子で公園に行ったりしても一緒にできるスポーツがなくて。「これは僕らじゃなくて、スポーツが悪いんだ!」と天命のように気づいてしまったんです。この考え方って、自責じゃなくて、他責、なんですけど、ポジティブな他責なんです。自分を被害者にするのではなく、今僕らにとってアウェーなスポーツをどうしたらホームに変えられるかを考え始めたんです。その作業が楽しくて生きがいになりました。考えているだけで人生が楽しくて。
高橋:「ポジティブな他責」って、すごくいい考え方ですね。
澤田:ゆるめるという言葉は最初からあったわけじゃなくて、走りながら出てきた感じです。ゆるスポーツは既存のスポーツを壊しているわけではなく、イモムシラグビーとか、ベビーバスケとか、既存のスポーツをベースにしているものが多いんですね。先人たちが積み上げてきたスポーツという巨人の肩に乗って、見晴らしを良くして、作り変えているんです。でも、そのことを「アップデート」とか言っちゃうと、ふわっとしていてよくわからない。で、あるときふと、僕がスポーツを嫌いだったのは、スポーツがガチガチだったからなんだ、ということに気づいたんです。だったらガチガチの対極にあることをすればいいんだということで、「ゆるい」とか「ゆるめる」とかいう言葉にたどり着き、しっくりきました。肩こりを揉んでゆるめて、また動くようにするというイメージで、ゆるスポーツを作っています。
高橋:やっぱり、言葉を発明するって、まさに世界を変えることですよね。例えば「オタク」っていう言葉は、最初は揶揄するように使われたのかもしれないけど、今となっては強みを表しているし、多くの人の人生の楽しみも生み出したし、世界を変えたと思います。
澤田:言葉を作るには、共感性と新規性のバランスが大事です。たとえば、賛否はあれど「育メン」っていう言葉が流行ったのは、「確かに、男性も育児に参加したほうがいいよね」っていう共感性と、「その考え方、新しい!」っていう新規性が、良いバランスになっているからなんですよね。
高橋:今の話すごく勉強になります。新規性って大事ですよね。「そうだよね」っていう共感性だけだと当たり前に思われて終わるかもしれないけど、「何となく気づいていたけどよく考えたらそうなんだよね!」っていう発見があると、ブレイクしますよね。
澤田:だから、月曜日のどこにどういう名前を付けるか、って考えるのは重要かもですね。
「ゆる月曜日」を考えるとしたら?
高橋:今までの人生で、休み明けが嫌だった時期ってありますか?
澤田:もちろんあります。やっぱり特に学生時代で、日本人と話したことがないイギリス人ばかりの中学校に入ったときは毎朝しんどかったですね。朝ごはんは毎朝気持ち悪くて食べられないし、片道45分をバスで通って常にビニール袋を携帯していました。
高橋:例えば会社に入社した頃は?
澤田:やっぱり嫌でしたね。自分がコントロールできない若手の頃は辛いですよね。意見がなかなか通りづらかったり、いきなりキャパオーバーの仕事が降ってきたり。
高橋:新入社員時代にそういう環境の人は多いですよね。で、今日は「ガチガチの月曜日をゆるめる」とか、「ゆる月曜日って何だろう」というキーワードで、みんなが今からできることを一緒に考えてみたいです。
澤田:なぜ月曜が嫌かを突き詰めていくと、会社の経営方針とか、そういう大きい所に行きついてしまうんですよね。大きい所のガチガチをゆるめるのには、不可抗力もあって時間がかかります。「ゆるめる」ときに大事なのは、今日ゆるめられるポイントは何かな?をさがすことです。例えば、会社の上の方を変えられないのだとしたら、まず「嫌な月曜を後輩に継承しない」のが、ゆるめ方のひとつだと思います。例えば自分が若手の頃に嫌だったことの一つに、先輩が受けてくる月曜締め切りの仕事を土日に考えて月曜の朝にプレゼンしなければならないということがありました。それなら自分が仕事を作る立場になったら、せめて締め切りが火曜になるように調整して、月曜にみんなで悩めるようにするとか。そんな風に自分が月曜日に嫌だったことを自分がしないことが、誰にでもできる一番のゆるめ方だと思います。
高橋:これはすごくいい話ですね! 僕は、会社員時代にやっておけばよかったなって思っていることが一つあるんです。基本的に会社組織が縦割りなので、自分の部署の目の前の仕事や人とばかり向き合っていたんですが、今思うと、できるだけ社内のいろいろな部署を歩き回って交流すればよかったなと。起業してから外の人として前の会社とお仕事をさせていただくようになってようやく、いろいろな部署の方と話すようになって視野がすごく広くなったんです。なぜこれを当時できなかったのかなと。中にいるうちに、他部署をうろついていろいろな人と話したり、あるいは勝手に一緒に企画しちゃったりするような動きを自分ができていれば、何かがゆるまっていたかもしれないなと思います。
澤田:それ、すごく大事な話ですよね。「社内ぶらぶらおじさん」って、会社におけるセーフティネットなんですよね。昔だったら、社内の喫煙所ばっかり回ってて、どの部署の誰が何をやってるかをやたら知っているおじさん。こういうのを、トランザクティブ・メモリー・システム(※TMS:組織のメンバーが「他のメンバーの誰が何を知っているか」を知っていること)って言うんですよね。この、社内のいろいろな部署にひょっこり顔を出したりしているぶらぶらおじさんを見つけて、例えば朝その人のデスクに行って、「月曜が憂鬱なんですけど…」って相談すると、その人がゆるめる方法を知っていたりするんですよね。
高橋:そうですね! その人に会いに行くのも大事だし、自分がその「ぶらぶらおじさん」のようになることも大事かもしれません。でも、誰にでもできるわけじゃないし、ぶらぶらおじさんは「あの人ちゃんと仕事してるの…?」って疑問視されて、社内で低い評価をされることもありますよね。
澤田:だから僕たちにできることは、みんなでぶらぶらおじさんの価値を上げていくことなんですよね。会社組織を変えることが難しければ、ぶらぶらおじさんのブランディングをすることで、会社をゆるめていくことができるのではないでしょうか。
『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)、好評発売中です。
【聞き手】
高橋晋平(たかはし しんぺい)
株式会社ウサギ代表取締役、おもちゃクリエーター。人の悩みや面倒を「遊び化」することを考え、月曜日を楽しくする方法の研究もしている。人生でやりたい企画を作るオンラインセミナー「IDEA of LIFE」主宰。近著に『企画のメモ技』(あさ出版)。Twitter : https://twitter.com/simpeiidea
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