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【金子浩久のくるまコンシェルジュ】ランドローバー「ディフェンダー110」

2020.10.17

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 最近のクルマの多機能、高機能ぶりには眼を見張るばかりだ。特に、運転支援技術やパワートレインの電動化、インターネットへの接続などは、どれもこれも新しいものばかり。新しいから、その更新ぶりも日進月歩。「そんなことまでできてしまうのか!?」と、日頃から多くのクルマを取材している専門家でさえも驚かされてしまっている。まだまだ馴染みの薄い新技術や走りっぷりを自動車評論家の金子浩久が相談者とともに運転しながら試し、その効能と真価を探っていこうという読者参加型企画です。

◎今回の相談者  KSさん

◎今回のクルマ  ランドローバー「ディフェンダー110」

◎今回の相談内容

KSさんは50代、外資系企業に勤務。現在、2013年式アウディS6アバントを新車以来使用中。クルマの使い途は、片道約50kmの通勤の他、オフタイムのゴルフや妻とワンコ2匹と一緒に東北や四国への長距離ドライブ旅行を楽しんでいる。今回、コンシェルジュを訪ねた目的はふたつ。SUVに買い替えようかと検討していることと、その際には運転支援機能に代表される最新の安全装備が充実しているクルマを選びたいが、それらがどのようなものなのかを運転して体験してみたい。

「ディフェンダー」の“道具感”“ギアらしさ”“ツールっぽさ”

 SUVに乗ってみたい。あちこちで話題にのぼっている運転支援という最新の機能を体験してみたい。そんな願いを持っている読者のKSさんに、僕がまずリコメンドしたのが「レンジローバー P400eオートバイオグラフィ」だった。SUVという言葉が生まれるはるか前から、世界中のオン&オフロードに君臨してきた「レンジローバー」、それも最新のPHEV(プラグインハイブリッド)システムを備えた最高級版に、KSさんは圧倒されっ放しだった。同時に初めて体験する運転支援機能の効能の大きさに驚かされた(https://dime.jp/genre/981754/)。

 KSさんのSUV選び第2弾は、同じランドローバーの最新モデル「ディフェンダー110」である。まだ、メディアのテストドライブに供される前に預かっていた一台に乗ってもらった。最初に助手席に乗ってもらい、僕の運転で走りながら、各部分を解説していく。上質な革やウッドなどをふんだんに使った豪華なインテリアだった「レンジローバー」と「ディフェンダー」はとても対照的だ。

「全然、違いますね。モノが置けるスペースがたくさんあるし、つかめるようになっていますね」

 ダッシュボードはほぼ全幅にわたってモノが置けるように凹んでいるし、センターコンソールには幅が広く奥の深い収納スペースが設けられている。オプションによっては、スマートフォンの非接触充電も可能だ。「レンジローバー」がオーガニックな革やウッドなどで車内が満たされていたのと反対に「ディフェンダー」の車内にはそれらはほとんど見当たらない。

 人工素材製であることを隠していない。ドアパネルやダッシュボードなどには六角穴付きボルトの頭が並んでいる。剥き出しにしているのではなく、デザインとして飾り立てられているのだ。“道具感”“ギアらしさ”“ツールっぽさ”の演出だ。

「これはこれで、面白いですね。雰囲気を出している。『レンジローバー』と違って、カジュアルでいいじゃないですか」

 ひと通り確認し終わったところで、運転を代わった。

「メリハリの効いたエンジンですね。先日の『レンジローバー』と違って、エンジンが主張している感じがします」

「レンジローバーP400e」はPHEVだったが、そのエンジンは「インジニウム」と呼ばれるランドローバー社で最も新しい2.0L、4気筒ガソリンエンジンで、この「ディフェンダー」ででも用いられている。日本仕様の「ディフェンダー」のパワートレインは、今のところ、この1種類だけだ。

 排気量は2.0Lだが、そこは最新型だけあって最高出力は300馬力、最大トルクは400Nmも発生している。ちょっと前までだったら考えられないハイスペックだ。「レンジローバー」はこのエンジンにモーターが組み合わされてプラグインシステムを形成している。エンジンからのパワーを補う形でアシストしているので、滑らかに感じたのだろう。この「ディフェンダー」にはそれがない分、エンジンのビートが強く感じられる。

 前回は、KSさんにはACC(アダプティブ・クルーズコントロール)やLKAS(レーンキープアシスト)を初体験してもらった。最初に僕が運転して操作の見本を示し、運転を代わって、おそるおそるスイッチをオンにしていた。クルマの運転の一部をクルマにアシストしてもらうという初めての体験によって開けた新しいドライビング感覚が、とても新鮮だったようだ。

「こんなにいいものなら、自分の次のクルマには絶対にACCとLKASは欠かせません」

 相当に強い印象を残したようで「レンジローバー」の試乗では、何度もオンオフを繰り返して確かめていた。だからなのか、今日の「ディフェンダー」ではKSさんは高速道路に乗り、巡航し始めた途端すぐに両方をオンにした。

「もう、憶えちゃいましたね?」

「使い方もタイミングも、バッチリ憶えましたよ」

ACCとLKASは必須装備

 何度も書いてきたが、これからクルマを買う人には、ACCとLKASは必ず装備することを強く勧めたい。高速道路や自動車専用道を走る時のドライバーの負担と疲労を確実に減らし、安全性を確保し、省エネにも貢献するからだ。特に長距離を走ると、眼と脳と足首に費やすエネルギーを確実に減じることができるからだ。

「ロジックが優れているから、一度、アクティベートさせてしまえば、操作方法は自然に憶えてしまいました」

 メーターパネル中央のスピードメーターとタコメーターの間に表示されるACCの作動状況を示すアイコンが、ディフェンダーの後ろ姿となっているのが愛嬌がある。

「いま、私たちはこうやってACCとLKASを使いながら高速道路を走っていますけれども、他のクルマのドライバーは全員が使っているんですかね?」

 KSさんが所有して、日常的に使用しているアウディ「S6アバント」には、どちらも付いていない。7年前のクルマだから、ギリギリでまだどちらも設定されていなかったのだ。最近では軽自動車でも標準装備されていたりして、急速に普及が進んでいる。ほとんどのクルマでは、標準装備されていなかったとしても、オプションに設定されている。ただ、自分のクルマに装備されていても、それを知らなかったり、知っていても何らかの理由から使っていない人もいるだろう。

「付いているクルマを運転している人は、みんな活用するべきですよね」

 同感だ。ACCを使うのには最高速度も自ら設定しなければならないから、速度に対して自覚的になる。

「常に周囲のクルマと自分のクルマの感覚も意識するようになるから、無理な割り込みや危険な運転も減るようになるんではないでしょうか?」

 漫然と運転するドライバーが減り、煽り運転の原因も減っていくようになれば望ましい。新型「ディフェンダー」は、先代の「ディフェンダー」のデザインをセルフサンプリングしている。水平基調のウエストライン、垂直に切り立ったテールゲイトとルーフ形状、テールゲイトに背負ったスペアタイヤなどを現代的に再解釈して取り込んでいる。

 先代「ディフェンダー」とはシャシー構造もパワートレインも、オフロードドライビングでの駆動力制御なども、何から何まで異なっていて、メカニズム上は同じものなど、ほとんど使われていない。ヘビーデューティーな用途に使われるSUVの代名詞のように言われていたフレーム構造も、もはや旧時代のものだと言わんばかりに最新のアルミ製モノコックに改められた。同じなのは車名ぐらいだ。しかし、外側から見える造形は似て見えるように“寄せて”きているところが面白い。

「この形は好きですね。良くできた、デザインのアップデートだと思います。『MINI』や『ビートル』ほど、旧型のデザインイメージを残してはいませんね。新しいところは新しい」

 たしかに「MINI」や「ザ・ビートル」「ニュー・ビートル」ほどはオリジナルに似せていない。フロントマスクとヘッドライトなどは全然違うし、Aピラーの角度、ウインドウスクリーンをはじめとするガラス面の切り取り方なども違う。

「部分ごとに見ていくと決して似せたものばかりではないのに、全体の視覚イメージとしてはオリジナルを思い起こさせるのは、上手ですね。知っている人には旧型を思い起こさせるし、知らない人でも“他にはない、新しいSUVだな”と眼を引き付ける。造形が力を持っていますね」

 ランドローバーのチーフクリエイティブオフィサー、ジェリー・マクガバン氏ならではのあっぱれな仕事ぶりだ。

「旧型のエッセンスも残しているけれども、エッセンスをいま流に咀嚼し直している部分の方が広いから、デザイン的な冒険として成立しているのでしょうね」

 技術的な継承がほとんど見当たらない、まったく別のクルマなのだから、別のエクステリアデザインをまとい、別の名前で発表されても一向に構わないはずだ。そうでないのは、マーケティング、つまり“売らんかな”である。クルマは機械であると同時に、商品でもあるから売れなければ話にならない。

「それは理解できます。マーケティング的な作為のようなものはちょっと感じますけれども、それでイヤにはなりませんね」

 KSさんの仕事も、モノを作り、マーケティングを行いながら販売することに変わりはない。だから、ディフェンダーの巧みな商品企画に理解を示すことができるのだろう。

「ひとつの商品が世に送り出されるまでには、さまざまな制約やしがらみがあるから、どの要素を残して、何を消し去れば良いのか、その匙加減が難しいんです」

 デザインだけに限った話ではない。商品を成り立たせている要素が何と何なのか?

 セールスポイントをどこに定めるのか? 

 デザインなのか? 性能なのか? あるいはヘリテージなのか? 

 どれも疎かにできなかったとしても、優先順位をどう付けていくのか? 

 商品企画とは、無数の決定の連続である。

「思い切らないと、こういう形、こういう商品はできてこないでしょう。思い切った決断ができるのは、芯がしっかりとしているから。自分たちの製品とブランドは、誰に向けて展開、発信しているのかということをきちんと自覚しているから思い切れる。その自覚さえ崩さなければ、多少の冒険や遊び、チャレンジもできる。前回の『レンジローバー』の後に『ディフェンダー』に乗って、あらためてランドローバーというのが芯がしっかりと通ったブランドだということがわかりましたね」

愛犬と一緒にドライブ旅行に行けるクルマ

 どんなSUVを選ぶとしても、KSさんにはひとつの望みがあった。それは、東北や四国へのドライブ旅行の際に、途中で車内に2匹のワンコを残した時に、エアコンを掛けたままにできるかということだった。

「ランチやコンビニに寄りたい時など、犬を連れて入店できる店はほとんどありません。仕方なく、犬を車内に残してロックしなければならない時に、真夏はもちろんのこと、そうでなくてもエアコンを掛け続けたいのですが、PHEVならば大きなバッテリーを積んでいるわけですから、それでエアコンを掛け続けられませんかね?」

 ペット思いのKSさんらしい願いだ。ランドローバージャパンに確かめると「PHEVでなくても、それはオーナー用アプリで可能」とのことだった。エアコンを掛け続けるためには、エアコンを動かしているエンジンも掛けっ放しにしなければならない。ドアをロックしてクルマを離れるためにはエンジンを切らなければならない。これが、今までの常識だった。しかし、アプリを使ってクルマを遠隔操作すれば、ロックしてあるクルマのエンジンを掛けることができるというのである。そうすれば、クルマを離れていても車内の気温を保つことができる。

「そうなんですか!?」

 そうした遠隔操作用のアプリをオーナー向けに案内しているメーカーは増えてきている。筆者もアプリの存在は認識していたが、どう使えば便利なのかまでには気が回っていなかった。

「だったら、PHEVじゃなくても構わないということですね。でも、PHEVやピュアEVには、クルマとして興味がありますね。僕よりも妻のほうが“地球に優しいクルマ”として、特にEVに興味を持っていて、前向きなんです」

 たしかに、これまで通りの内燃機関で動くクルマにはあまり興味はないが、電動化されたEVやPHEVならば乗ってみたいという声は、最近になって良く聞くようになった。

「ところで、金子さんはPHEVは“買い”だと思いますか? それとも、まだ待ったほうがいいと考えていますか?」

「買いでしょう。前回の『レンジローバーP400e』のモーターアシストは見事だったじゃないですか。設計思想が違って、もっとバッテリー容量が大きな三菱『アウトランダー』などは平均的な家庭の数日分の電気使用量を賄えたりする。もちろん、アウトドアでも使えるからキャンプや災害時に役立ちます」

 PHEVもクルマによって、活用の仕方がさまざまだから、自分の目的に合った使い方ができれば良い選択になる。

「ただ、使い始める時に満充電になっていることが望ましいので、夜間に充電できる環境に住んでいることが条件になりますね」

 目的地の山の頂上駐車場に到着した。スカイラインと名付けられた、ここまでの舗装道路の途中には暴走行為防止のために凹凸が施されていた。クルマでも大きく揺さぶられるくらいある凹凸だけれども『ディフェンダー』は鷹揚にイナしながら通過していった。

 ここまでの一般道と高速道路ででも『ディフェンダー』の乗り心地は快適で、静かだった。ロードノイズが大きくなるはずのオフロード用タイヤを履いている(注文時に舗装路向きにオールシーズンタイヤに変更することも可能)にもかかわらず、静かで引き締まったハンドリングがうれしい驚きだった。

 ただ、大きく背の高いボディーは重心が高いので、連続するカーブで左右に大きくロールする。オプションに設定されている「テレインレスポンス2」にはダイナミックという走行モードがあり、それを選ぶとカーブでの踏ん張りが効き、ロールは小さくなる。

「妻がクルマ酔いしやすいので、テレインレスポンス2は必須になりますね」

「レンジローバー」ならば、テレインレスポンス2は標準装備されている。「ディフェンダー」は、最もベーシックなグレードが499万円からと、「レンジローバー」のほとんど3分の1だが、テレインレスポンス2や運転支援機能、エアサスペンションなどを装備するには追加費用が生じてくる。

 ただし「ディフェンダー」のほうが「レンジローバー」よりも開発されたのが後なので、新しいぶんインフォテインメントやナビゲーションなどが格段に見やすく、使いやすい。センターモニター画面も10インチのタッチパネルで、解像度も高い。「PiviPro」と呼ばれるこのインフォテインメントシステムは順次、他のランドローバー車にも搭載されていくことになるのだろう。クルマ自体の責任とは呼べないが、こうした部分は新しいものほど便利で使いやすいのは致し方のないところだろう。

「でも、僕はこのデジタルミラーには違和感がありますね。サングラス越しに見ているからなのか、輪郭がボワッと見えるところがある。鏡と同じようには見えない」

 この時は再現できなかったけれども、この「ClearSightインテリアリアビューミラー」には決定的に優れているところがある。それは、小型カメラで後方視界を映し出しているので、トランクスペースに荷物を満杯に積んだ時の視界の妨げをゼロにできるところだ。仲間や家族とキャンプやアウトドアスポーツに出かける時に大いに役立つはずだ。

 KSさんのように、見え方に違和感があれば従来通りの鏡と組み合わされているので、レバーひとつで切り替えれば済む。「レンジローバー」に付いていても便利なものなのだが、キャンプやアウトドアスポーツで使うとなお助かると、具体的な用途を提示して新機能の説得力を高めている。ユーザーの身になって、使い方まで考えが及んでいる。そういうところも上手い。まさに、“自分たちの製品とブランドは、誰に向けて展開、発信しているのかということをきちんと自覚しているから”できるのだろう。

「レンジローバーP400e」と較べて「ディフェンダー110」はKSさんにはどう感じられたのか?

「乗る前は『ディフェンダー』は、トラックぽいゴツゴツした粗野な乗り心地を想像していたのですが、まったくそんなことはありませんでしたね。それぞれ特徴があって、違いもよくわかりました。仮に『ディフェンダー』に『レンジローバーP400e』と同じPHEVシステムが載っていて、オプションのエアサスペンションとテレインレスポンス2が装備されていたと想定しても、レンジローバーには重厚だけどシットリとしたあの乗り心地がある。

 それは『ディフェンダー』では味わえないと思いました。反対に『ディフェンダー』は“ギア感”や“ツールっぽさ”でまとめられたカジュアルなデザインが魅力になっていて、それはデザインだけではなく、このクルマは本物のギアなのだろうと想像できました」

 では、どちらを選びますか?

「僕がSUVに求める“移動空間を充実させること”では、圧倒的に『レンジローバー』が優れています。『ディフェンダー』は移動すること自体が目的。それを実現する優れたツールなのだと思いました。ギア、ツールとして、僕には十分すぎるくらいです」

「僕にとっても、高級で上質な移動ツールです」

 と、結論が出たところでKSさんの自宅に戻ってきた。

「妻にも見せたいので、呼んで来ていいですか?」

 もちろんです。

■関連情報
https://www.landrover.co.jp/vehicles/defender/index.html

※2614

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1〜4』 『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ス トーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)。https://www.kaneko-hirohisa.com/

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