コロナ禍のせいで、「おうち居酒屋」や「おうち飲み」といった新語が登場。一時隆盛だった「オンライン飲み会」は減ったようだが、家飲み派は増え、ホームカクテルなど一手間かけておいしく飲みたいという人も。
これを機に、「本格的にワインに挑戦したい」という向きも少なくないだろう。ただ、ワインについては、ちょっとハードルの高さを感じるのも事実。たくさんの選択肢からフィーリングで選んだものを飲むだけなら悩まないが、そこから先へ進むには「勉強が必要」だと身構えてしまう。
今回は、そうした方々向けにコミックエッセイ『先生、ワインはじめたいです!』(こいしゆうか/大和書房)より、ワインの入門的な知識を提供したい。
千円台のおいしいワインを見つける秘訣
コミックエッセイの内容は、著者でイラストレーターのこいしさんが、「何を選べばいいのか全くわからん」とワイン選びに悩み、ワイン研究家の杉山明日香さんに相談することで、ワインの楽しみ方が広がっていくというもの。
ワインの醸造法やテイスティングといった基礎的な事柄から始まり、「理想のワインの見つけ方」という、ワイン初心者の誰もが通る道に、こいしさんは差しかかる。
売り場に並ぶワインの種類の多さに途方に暮れるこいしさん(本書より)
「品種も産地も多すぎて覚えるのムリ」と訴えるこいしさん。そこで杉山さんは、「1000円台~でおいしいワインを選ぶ2つのポイント」という門外不出(!?)の秘伝を教える。
ポイントの1つめは、「基本3品種から好みの品種を選ぶ」だ。
いうまでもなく、ワインは白と赤に大別されるが、白はシャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨンブランの3種、赤はピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーの3種、計6種のブドウの品種から選ぶのが、初心者には間違いのない選択だという。
そして2つめのポイントが「産地で決める」。杉山さんは、品種ごとに得意とする国はだいたい決まっていると説く。例えばシャルドネなら、フランスとアメリカ。国は、オールドワールドかニューワールドかの視点で選ぶ。オールドワールド(旧世界)とは、古くからワイン造りを行ってきた、フランス、スペイン、イタリアなど、ヨーロッパ諸国を指す。対して、ニューワールド(新世界)は、アメリカ合衆国、豪州、南米を代表とする国々。ワイン造りの歴史が比較的新しいところだ。
さて、予算が「1000円台だとニューワールドのほうがおいしい」確率が高くなると、杉山さん。この価格帯でカベルネ・ソーヴィニヨンだと、チリ産の「ヴィーニャ・エラスリス・エステート・カベルネ・ソーヴィニヨン」を例に挙げる。
意外と難しくないマリアージュ
ワインの道で大きな難関となるのがマリアージュ。これは、ワインに合った料理を組み合わせることだが、何をどう合わせれば相性が良くなるのかが、初心者にはわかりにくい。
ところが、基本的なルールは実はシンプル。杉山さんは、「2つの公式に当てはめればいい」とアドバイスする。
その公式とは「ソックリの公式」と「サッパリの公式」。
1つめのソックリの公式は、「ワインと料理に共通する色、味、香り、産地を合わせる」こと。すべての要素をマッチさせる必要はなく、柑橘系を使った料理に柑橘の香りがするワインを合わせるなど、1つの要素が合っていればいいそうだ。
2つめのサッパリの公式は、「料理を食べたあとワインの特徴で口をサッパリさせる」こと。こいしさんは、コロッケとリースリングのマリアージュに感動しているが、これは、「コロッケの油分をリースリングの酸味がキリっとさせてくれるから」と、杉山さんは解説。この公式を生かせば、刺身やエビチリなど和・中華の料理でも、しっかり合うワインがあると続ける。
揃えておきたい4種のワイングラス
ワインについての基礎知識をいろいろと教えてもらい、「もっと! おうちでワインを楽しみたい!」と、意欲を新たにするこいしさん。
ちょっとした出来事から、「もしかしてグラスって大事ですか?」と杉山さんに尋ねると、「大事よ」とキッパリ。ワイングラスは様々な形状があるが、飲めればなんでもいいわけではないという。
ワインが変われば、使うべきグラスもおのずと変わるとのことで、そのルールは「香りを楽しむワイン=ふっくらした形」そして「冷たい温度のまま飲むワイン=スマートな形」。さらに、揃えておきたいグラスとして「リースリンググラス」「シャンパーニュグラス」「ブルゴーニュグラス」「ボルドーグラス」を挙げる。
まったくのワイン初心者なら、最初に購入すべきはリースリンググラス(いわゆる白ワイングラス)だという。「白ワインから軽めの赤ワインまで幅広く使える」というのが、おすすめの理由だ。そして、イチオシのメーカーは、柄が短くて倒れにくく、手ごろな価格のグラスを出している木村硝子とのこと。
ゆるそうなイラストを侮るなかれ。『先生、ワインはじめたいです!』は、ビギナーが最低限おさえておくべき内容を網羅した、熟成されたワインのように濃い1冊だ。「おうちワイン」デビューの際には、参考にするとよいだろう。
こいしゆうかさん プロフィール
イラストレーター、エッセイ漫画家。また、キャンプコーディネーターとしてプロダクトデザインや、ラジオ、テレビ出演など活動している。
著書に『カメラはじめます!』『私でもスパイスカレー作れました!』(ともにサンクチュアリ出版)、『Let’ s ゆるポタライフ』(山と渓谷社)、『スマホ使いこなしてる?』(マガジンハウス)など。
杉山明日香さん プロフィール
東京生まれ、唐津育ち。理論物理学博士・ワイン研究家。有名進学予備校の数学講師として教壇に立つかたわら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」を主宰。「Aux Trois Soleils」ではワイン、日本酒の輸出入業を行う。西麻布でワインバー&レストラン「ゴブリン」を、続いてパリでレストラン「ENYAA Sake & Champagne」をプロデュースするなど、ワインや日本酒の関連業務に多く携わる。著書に『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)、『ワインの授業フランス編』(イースト・プレス)など。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)