■連載/石野純也のガチレビュー
2019年に発売された「Xperia 1」でコンセプトを刷新したXperia。カメラやディスプレイ、音楽再生といった機能を大幅に強化し、プロ志向のユーザーを取り込んでいくのがリニューアルの狙いだ。一方で、フラッグシップモデル以外の端末も、同じコンセプトの下で展開されている。上位モデルに搭載する突き詰めた機能の恩恵を体感できるのが、ミドルレンジモデルの魅力だ。
こうした中、MVNO各社から、新たなモデルが発売になった。それが「Xperia 8 Lite」だ。この端末は、昨年発売になったXperia 8をベースにしたSIMフリーのスマートフォン。ミドルレンジモデルながら、ほかの新Xperiaと同じ21:9のディスプレイを備え、迫力ある映像にこだわった1台になる。グローバルモデルの「Xperia 10」にスペックは近いが、おサイフケータイなどに対応しているのが大きな差分だ
一方で、新モデルとして、Xperia 8 Liteはその名称に“Lite”を冠している。Xperia 8や2020年に発売された「Xperia 10 II」などとの違いはどこにあるのか。実機でその実力をチェックした。
IIJmioやmineoなどで購入できるXperia 8 Lite
Liteらしさはどこ? デザインやディスプレイをチェック
端末名では“Lite”をうたうものの、機能は2019年に発売されたXperia 8とほぼ同じ。チップセットはSnapdragon 630で、メモリは4GB、ストレージは64GBと、共通点が多い。ディスプレイのサイズや解像度も同じ。サイズも変わっておらず、差分はソフトウエアに集約される。それが音質向上技術の「DSEE HX」で、Xperia 8とXperia 8 Liteの決定的な違いとなっている。
ハードウエア的な差分とまでは言えないが、カラーバリエーションにも違いがある。Xperia 8には鮮やかなオレンジや、淡いブルーといったカラフルなボディが用意されていたが、Xperia 8 Liteはホワイトとブラックのみ。よく言えばシンプルだが、悪く言えば遊び心に欠けているカラーバリエーションだ。カラーバリエーションを減らすことで、コストダウンを図ったのは“Lite”らしいところといえる。
ディスプレイのアスペクト比は、Xperia 1以降共通の21:9。縦に長いぶん、インチ数の割には横幅が抑えられており、手に持った時しっかりフィットする。シネマスコープサイズの映画などを再生した際に、画面にピッタリ収まるのが21:9の魅力。ほかの端末だと、上下に黒い帯が表示されてしまうか、拡大して周辺がカットされてしまうため、ミドルレンジモデルながら、映像をきちんと表示できる点は評価できる。
ただし、有機ELを採用したほかのXperiaと比べると、全体的にやや白っぽい映像になっているのは気になった。ベースが黒となる有機ELに比べると、締まりがない印象だ。sRGBの色域で表示する「プロフェッショナルモード」は備えている一方で、上位モデルに搭載されているクリエイターの意図を反映するための「クリエイターモード」には非対応になる。
また、端末のフレームも樹脂でできており、金属を採用する上位モデルのXperiaに比べると、やはりチープに見える。視覚的にはもちろん、手に取った時の違いは大きい。ディスプレイ上部のベゼルが厚い点も、デザイン的にはマイナス。ミドルレンジモデルのため、こうしたトレードオフがあることは念頭に置いておきたい。
フレームは樹脂製で、金属素材を使う上位モデルと比べて質感は劣る
光学ズームに対応している点は評価できるが、暗所には弱い
背面には、標準と望遠、2つのカメラを搭載している。前者は1200万画素でレンズのF値は1.8、後者は800万画素、F2.4となる。「Xperia 1 II」から採用された、デジタルカメラの「α」シリーズに似た操作ができる、「Photography Pro」には非対応。いわゆるスマホカメラのユーザーインターフェイスで、画面内にあるシャッターボタンを押して撮影する仕組みだ。標準と望遠の切り替えは、画面内に表示される「x1」「x2」というボタンを押す必要がある。
絵作りも、あっさりとしたデジカメ風のXperia 1 IIと比べると、他社を含めてスマートフォンで現在主流となっている絵作りに近い。基本はオートでの撮影になり、料理や人物はコッテリとした色合いで撮れる。プレミアムおまかせオート対応で、被写体に応じた設定で撮影されるため、ユーザーは本体を構えてシャッターボタンを押すだけと手軽だ。ただ、使っていると、シャッターラグは少々気になった。特に人物のように動くものを撮影する時に、思ったように撮るのが難しくなる。
色は彩度が高めで、どちらかというとスマホカメラのトレンドに沿ったチューニング
暗所撮影時のクオリティも、気になった点だ。以下の写真は、夜にライトアップされた建物を撮ったものだが、全体的に仕上がりは暗く、特に元々暗かった部分がつぶれてしまっている。同じ場所をXperia 1 IIで撮った写真に比べると、違いは一目瞭然。一見雰囲気があるようにも思えなくはないが、ノイズの多さなども目立つ。連写合成で明るさを上げる夜景モードのような設定もない。
参考としてXperia 1 IIで撮った写真。こちらはバランスがよく、明るい写真に仕上がっている
センサーサイズが異なるフラッグシップモデルと比較するのは酷かもしれないが、最近のミドルレンジモデルは、カメラ性能が向上しているため、この程度の光量があれば、暗い場所でもそこそこ撮れてしまうことが多い。カメラメーカーとしての顔を持つソニーブランドを冠する以上、もう少しクオリティを上げてほしいのが本音だ。
パフォーマンスはそこそこ、側面の指紋センサーは便利
ミドルレンジモデルだが、操作感は悪くない。ブラウジングやSNSアプリなどのスクロールは比較的滑らかで、レスポンスにイライラするといったことはない。ただし、ハイエンドモデルのようにキビキビと動くわけではなく、特に画面を切り替えるような場面では、ごくわずかだが引っかかりも感じる。例えば、戻るボタンを連打して画面を一気に戻ろうとした時や、日本語入力を表示させた瞬間などのタイムラグは、ハイエンドモデルより大きい。
また、ミドルレンジ向けのチップセットであるSnapdragon 630を採用しているため、グラフィックに凝ったゲームなどには向かない。ベンチマークアプリ「Geekbench 5」で取ったスコアは、シングルコアスコアが178、マルコチアスコアが1033。ミドルレンジモデルで一般的な水準で、極端に遅いわけでもないが、高性能でもない。1〜3年前のハイエンドモデルから乗り換えるレベルではないが、スマホはブラウジングやSNSなどが中心というのであれば、十分使えるはずだ。
Geekbench 5でのスコア。ミドルレンジモデルで、CPUパワーが必要な操作には向かない
“Lite”ではあるものの、Xperia 8と同様、おサイフケータイやIPX 5/8の防水にも対応している。モバイルSuicaやiD、QUICPayなど、キャッシュレス決済に必要な各種サービスを利用できるのはうれしいポイントだ。指紋センサーは側面の電源キーに統合されており、これも使い勝手がいい。ディスプレイを点灯させるために電源キーを押すと、同時に指紋が読み取られ、あたかも最初からロックがかかっていなかったかのように利用できる。
ただし、フラッグシップモデルも含め、Xperiaは顔認証には非対応。写真を管理するアプリがGoogleフォト一択だったり、ソニーモバイル製のカレンダーアプリがなくなってしまっていたりと、ソフトウエアの独自性が薄くなっている点も少々気になる。これはXperia 8 Liteに限った話ではなく、Xperia 1 IIなどのフラッグシップモデルにも共通したことだが、スマホの基本とも言えるアプリをグーグル任せにせず、メーカーならではの味付けをしてほしい。他社にはそれができているため、Xperiaがそっけなく感じてしまうのは残念だ。
標準アプリにオリジナルのものが少なく、写真やカレンダーはAndroid標準
1年前に発売したモデルがベースになっていることもあり、2020年の新モデルとして見ると物足りない部分が多い印象だが、現行モデルとしては最安で、IIJmioでは2万6800円、mineoでは3万2880円で販売されている。とはいえ、数千円を足すだけで、実質的な後継機のXperia 10 IIが手に入る。分割払いにすると1回あたりの金額差は非常に小さく、あえてXperia 8 Liteを選ぶ理由がなくなってしまう。価格にどこまで重きを置くかにもよるが、端末は1円でも安い方がいいというのであれば、こちらを選択してもいいだろう。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★
音楽性能 ★★★
連携&ネットワーク ★★★★
生体認証 ★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。