「怖い猫の怪獣」がいない理由
僕は以前から、こちらのコラムで妖怪についてのうんちくを無理やり犬猫に絡めて発信するという自己満足に浸っている。そう、妖怪マニアなのである。
そして妖怪が好きなマニアの大半は、怪獣だって好きなのだ。
妖怪も怪獣も、今から50年以上前に大ブームを巻き起こしている。
僕はその当時はまだ生まれてもないけど、そういった熱狂的な流行に遅ればせながら頭を焼かれてしまっているのだ。
今日は怪獣についてちょっとだけ話をしていきたいんだけど、テーマは「猫と怪獣」だ。
猫の怪獣は極端に少ない?
特撮には多種多様の動物をモチーフにした怪獣が存在する。
『スペクトルマン』には犬をモチーフにした悲劇の怪獣、その名も犬怪獣ボビーが出る。『ウルトラマンエース』にはうさぎをモチーフにした『ルナチクス』。
『大怪獣ガメラ』には、亀の怪獣が主役として登場するし、ゴジラシリーズにもエビの怪獣、エビラってのが登場する。
動物は怪獣のイメージソースとして、かなり昔から効果的に活用されてきたものなのだ。
この辺は妖怪の出自に似ている。
河童が亀やカエルみたいな見た目をしているのは、あの妖怪がそういった生き物の特徴を受けて作り出されたからだ。
妖怪のルックスを見ると、モチーフになった妖怪が一目瞭然というパターンはかなり多い。
で、たとえば猫の場合はどうかと考えると、猫又、五徳猫など、猫をモデルに創出された妖怪はいくつも伝わっている。
ところがこれが、こと怪獣の場合となるとほとんど前例がないのだ。
猫の怪獣って、これだけ世間に怪獣がはびこっている今でも、まずお目にかかれないのである。
なぜ猫怪獣は少ないのか…
僕がすぐに思いつくかぎり、猫の怪獣というのは『仮面の忍者 赤影』のジャコー。
それと『ウルトラマンマックス』に登場するタマ・ミケ・クロぐらいのもの。
ただ、ジャコーは別名が山猫怪獣なので、厳密にはイエネコモチーフというわけでもない。
タマ・ミケ・クロに至っては別に猫の姿をしているわけでもなく、浮遊する隕石に猫の目のような単眼がついてて、個体によって猫耳やしっぽがあったりなかったりするだけの、いわゆるキメラである。
たしか鳴き声は「にゃー」だった記憶があるが、猫怪獣と言われればそうだけど、違うと言われると違うようにも思える。
範囲をネコ科動物にまで広げるとさすがに本格的な怪獣も増えるんだけど、イエネコに焦点を絞ると本当にびっくりするほど、これをモデルにした怪獣は少ないのだ。
猫の怪獣となると、円谷プロも東宝も大映もほとんど作っていないのが現状。
唯一戦隊モノなど、等身大メインの作品では猫を題材にした存在はかなり多い。だけど連中はあくまでも怪人。怪獣ではないのだ……。
では、どうしてこれほどまでに怪獣文化が発展した日本なのに、数多ある特撮番組、映画に猫怪獣は滅多に出ないのか。
僕はこの理由について、個人的に「退治しにくいから」という理由があるんじゃないかと考えている。
ご存じのように猫は人間にとっては紀元前からの重要なパートナーである。
そんな猫を巨大化させて大暴れさせ、最後に始末させるという筋書きを、私たちは無意識に避けてきたんじゃないだろうか、と考えるのだ。
だってシンプルにそんなの見たくないし……。
犬の場合、悲劇的な理由で怪獣となり、やむなくヒーローに倒される。もしくは誰かを守って別の怪獣に倒されてしまうという構図は割と存在している。
ここには犬の、人への献身的な属性が強く影響しているようにも見受けられる。
犬の怪獣の死は悲劇的な描かれ方をされても、それ自体が強い印象に残ると考えることもできるだろう。
だけど猫はそもそも献身性が乏しいし、怪獣になって退治されてもなぁ……という感じなのだ。
犬ではしっくりくるけど、猫だと「うーん」ってなものなのである。“絵にならない”と言うべきかもしれない。
だから猫の怪獣は本当に、マジで少ないのだと、僕は考えている。
おわりに
まあいろいろと書いてみたんだけども、要はまとめると、猫を怪獣にしてわざわざ暴れさせる理由がなかったということに尽きるのかも。
だってどうせネコ科の動物をモチーフにするなら、トラとかライオンのほうが分かりやすいし。
とは言え、日本ではタコだのインコだのまでが怪獣になって大暴れしている。
そんな中でこれほど身近な猫が悪い怪獣になってないこと自体本当にまれだし、それだけ猫は特別ということなんだろう。
文/松本ミゾレ(PETomorrow編集部)
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