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宅配便の荷物に『天地無用』と書かれている場合、荷物をどのように扱えばよいか知っていますか?実は天地無用は、意味を勘違いしやすい言葉です。天地無用の意味や語源に加え、なぜ勘違いしやすいのか、その理由も紹介します。
天地無用の意味とは?
『天地無用』には、どのような意味があるのでしょうか?勘違いして覚えている人も多いため、まずは本来の意味を知っておきましょう。
上下逆にすることを禁じる意味
天地無用は、『上下逆にすることを禁じる』という意味です。身の周りには、上下を逆にして問題がない物もあれば、逆にすることで壊れたり変形したりする物もあります。後者のように、上下逆にすると支障がある物を『逆にしないように』と注意喚起する言葉が天地無用です。
しかし、全く逆の意味だと思い込んでいる人も少なくありません。人によっては『上下を気にしなくてもよい』と捉えているケースもあり、荷物を運ぶ際のトラブルになることもあります。
宅配便の荷物に貼られることが多い
宅配便は中身が見えないため、取り扱いに注意が必要な荷物には箱にシールを貼ります。注意喚起の言葉には『こわれもの注意』『ナマモノ』『下積厳禁』などがあり、その中の一つが天地無用です。
家電製品や精密機械の他、お花や人形など、逆さまにすることによって影響が起こり得る、さまざまな荷物に対して使われます。
天地無用の語源
宅配便でよく使われる天地無用ですが、言葉の由来についても知っておきましょう。天地無用の語源は、ある業界用語が語源となっています。
運送業界の業界用語が由来
天地無用は、運送業界の業界用語が由来とされています。
運送業界では、上下を入れ替えてはならない荷物を表す言葉として、『天地入替無用(てんちいれかえむよう)』や『天地顛倒無用(てんちてんとうむよう)』という言葉が使われていました。
入替は場所を反対にすること、顛倒は逆さまにするという意味があります。
このように、もとの言葉には動作を表す言葉が入っていました。しかし、短くするために間の言葉が省略され、天地無用という言葉が一般に使われるようになったのです。
天地は上下を指す
天地という言葉は文字通りに『天と地』を表し、「あめつち」とも読むことがあり、『世界・宇宙・世の中』という意味も含まれています。
専門用語として紙類・書物・荷物に対して使われることが多く、荷物に関しては『物の上下』のことを指しています。天が上部、地が下部を表す言葉です。
無用は強い禁止表現
無用は強い禁止表現で、『してはならないこと』を表しています。
例えば『問答無用』という言葉は、話し合っても無駄なため、それ以上の問答を禁止するときに使う言葉です。その他にも、立ち入りを禁止する『立入無用』などがよく知られています。
天地無用は、上下を表す天地と、強い禁止表現である無用の組み合わせによって、上下を逆にすることを禁止する言葉になっているのです。
意味を勘違いしやすいのはなぜ?
天地無用は意味を間違えやすい言葉で、本来とは逆の意味だと勘違いしている人が多数います。では、なぜ勘違いされやすいのでしょうか?
幅広い年代で誤解されている
平成25年度の『国語に関する世論調査』によると、天地無用の意味を正確に答えられたのは全体の約半数でした。そして、全く逆の「『上下を気にしないでよい』と答えた人が3割弱」だと回答しています。
この調査では、「どの年代でも四人に一人以上の割合で本来とは逆の意味で考えている」ことが浮き彫りになりました。また、『分からない』と回答した人が1割弱となっています。
これらの調査結果から考えると、注意喚起の言葉であるにもかかわらず、正確な意味はあまり認知されていないのです。
※「天地無用」の荷物は,どう扱うか。 – 言葉のQ&A – 文化庁広報誌 ぶんかる より引用
漢字のイメージに引っ張られるのが原因
多くの人が勘違いしている原因の一つが、漢字の持つイメージです。無用という漢字から、『必要がない』という意味に捉えてしまう人が多いのでしょう。
実際、無用には『してはいけない』という意味の他に、『役に立たない』『いらない』という意味もあります。『心配無用』『ご意見無用』などは、その意味からなっている言葉です。それぞれ、心配はいらない・意見は不要という意味があり、このイメージに引っ張られてしまうのかもしれません。
また、もとの言葉に含まれていた『入替』や『顛倒』が省略されたことで、どうすることが禁止なのかが分かりにくくなりました。このような理由で、意味が勘違いされやすいと考えられます。
表現の変更、図の追加で対策
天地無用を正確に理解していないまま荷物を扱うと、中身に支障が出る可能性があります。実際にトラブルに発展するケースもあったため、一部の宅配業者では天地無用を使わなくなりました。
最近では、注意喚起の表現を変更したり、図を追加して分かりやすくしたりして対策をしています。
『逆さま厳禁』『この面を上に』『UP』などが、天地無用の代わりとしてよく使われている言葉です。また、文字だけでなく上向き矢印などの図を組み合わせて、上下を分かりやすく表示したシールも使われるようになりました。
構成/編集部